悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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88 血の雨

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愛しい人を失った黒い悪魔は王宮に血の雨を降らせた。その姿は血に飢えた獣。

愛しい人を失い、返り血を浴びまるで血の涙を流しながら国王を護る騎士達を斬っていく。獣の後に続くように一人、また一人と戦いに加わった。


「ローレン、お主の国の者はお主達に任せる。我はこの男を始末する。ただでは殺さぬ。苦しみもがき、簡単に死への道は通さぬ」

「はい、皇帝陛下」


皇帝の目の前には怯え震える国王の姿があった。

皇帝より少し遅れて来た男。


「トネード、皆を回収したか」

「はい」

「ならば許す」

「有難き幸せ。これよりトネード赤の鬼神の力を解放致す」

「存分にやれ」


王宮はもはや戦場となった。会場の内では国王を助ける為に次から次へと騎士達が集まり、黒い悪魔の背を任された青の鬼神、赤の鬼神が騎士達を次から次へと斬っていく。会場の外では黄色の鬼神、白の鬼神を先頭に帝国軍と騎士達の戦いが始まっている。


宴の会場の内、皇帝が王妃の首を落とした後、宴に集まった貴族達は逃げ惑い我先にと出入り口へ向かった。その出入り口を塞いだ者達がいた。


「タワーム公爵、そこを退いてくれ」

「どうしてここを退く必要がある。お前達は籠の中の鳥、羽を切られ存分に舞ってくれ」

「公爵ーーー!」

「私達は耐えたのだ。歯を食いしばり己の手のひらを傷付け、それでも耐えたのだ。あのお方が望まぬ事はしないと、耐えて見届けたのだ。

お救いしたかった…。

だが私も所詮ただの人。己の心に従うのみ」


宴に参加しなかった公爵を先頭に腰にあのお方の瞳の色の紫色の布を巻いた同胞達が出入り口を塞いだ。逃げ出す事は許さないと剣を振った。

我等は妃殿下の部隊だと、仇討ちだと、敵である貴族達を斬りつけた。


同じ国に住む者同士だったはずが同じ国に住む者に刃を向ける。

一人の女性の処刑はそれだけ皆の心に影を落とした。



あのお方は望んではいない。だけど俺でもその場にいたら剣を向ける。それが友でも。それだけあのお方を失った喪失感は皆の心から光を消した。



血に飢えた獣は獲物を捕らえ、目の前の男に視線を移した。


「これは父上の分だ」


男の腕を斬りつけた。男は痛みで顔が歪んだ。それでも男は獣を睨んだ。


「これは伯父上の分だ」


次は足を斬りつけた。血が流れ痛む片足を引きずりながら逃げる男。


「これは伯母上の分」


男の背中を斬りつけた。


「これは使用人達の分」


痛みで蹲る男性の腹を斬りつけた。


「これは我が弟、コナーの分だ」


庇う腕を斬りつけた。


「これは我が弟、タイラーの分だ」


唯一動く足を斬りつけた。


「これはリリーアンヌを最後まで支えてくれた従者達の分だ」


両目を斬りつけた。


「ぎゃあぁぁぁーー!ぎゃあぁぁぁーー!」


叫び転げ回る男。全身から血がポタポタと落ちる。


「お主だけは直ぐには殺さぬ。次は両腕を、両足を落とす」

「や、止めて、くれーー!頼む!止めてくれ…」

「これはお主の子の分だ」


男の腹を刺した。


「あぁぁぁーー!」

「お主は自分の手で我が子を殺したんだ。リリーアンヌの腹に宿った子を」


男の腹をもう一度刺した。


「し、知ら、ない……」

「お主がこの女と間違えてリリーアンヌを無理矢理強姦したんだ」


近くに転がる女の頭を男に持たせた。


「うわぁぁぁーーー!」


男は女の頭を投げた。


「この女が大事なのだろ?愛しいのだろ?」


男は違う違うと首を横に振る。

獣は男の顎を掴み、


「良く聞け、小僧!お前はリリーアンヌを犯し、お前の子を宿したリリーアンヌを殺した。お前はリリーアンヌだけでなく、お前はお前の子も殺したんだ。

お前を幼い頃から信じ支えた、お前にとって唯一無二の存在。お前がどれだけ無能でも、それでも最後まで信じたリリーアンヌの愛をお前は裏切っただけではなく殺した。

俺の大事な妹を、俺の愛しい人を、俺の光を、お前は殺したんだ!」

「ほ、ほんと、に……、し、しら…な…い……。おれ、は……」

「リリーアンヌ付きの騎士に聞いた。おい、ダフ!」


若い騎士が獣の横に立った。


「なぁダフ、この男は子の事は知らないと言うんだが教えてやれ」

「はい。陛下はある晩酒に酔いふらふらの状態で妃殿下の私室へ来ました。妃殿下はやめてと叫び、私はナーシャ様ではないと。それからメイドのマイラが部屋に入った時、妃殿下は陛下に強姦された後でした。乱雑に脱ぎ捨てられた服がベッドに落ちていました。新米騎士の私には妃殿下をお助けする事も、出来ません、でした…」

「離宮近くの街医者に聞いた。リリーアンヌの腹には子が宿っていたと。直に胎動も感じるだろうとな。

お前は自分の子を殺した」

「う、うそ、だ……」

「残念だが事実だ」

「す、すまな、かった……、すま、ない、リリーアンヌ…」


獣は男の顎を離し腹に剣を刺した。


「お前がリリーアンヌの名を軽々しく呼ぶな!」

「ゆ、ゆる、して、くれ……」

「フッ、命乞いなど一国の王がするな。みっともない。

これはリリーアンヌの分だ、受け取れ糞野郎!」

「ま、まって…く」


獣は執拗に何度も何度も痛みで逃げ惑い転がる男を斬りつけ、最後は命乞いする男の首を笑いながら落とした。



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