105 / 107
88 血の雨
しおりを挟む愛しい人を失った黒い悪魔は王宮に血の雨を降らせた。その姿は血に飢えた獣。
愛しい人を失い、返り血を浴びまるで血の涙を流しながら国王を護る騎士達を斬っていく。獣の後に続くように一人、また一人と戦いに加わった。
「ローレン、お主の国の者はお主達に任せる。我はこの男を始末する。ただでは殺さぬ。苦しみもがき、簡単に死への道は通さぬ」
「はい、皇帝陛下」
皇帝の目の前には怯え震える国王の姿があった。
皇帝より少し遅れて来た男。
「トネード、皆を回収したか」
「はい」
「ならば許す」
「有難き幸せ。これよりトネード赤の鬼神の力を解放致す」
「存分にやれ」
王宮はもはや戦場となった。会場の内では国王を助ける為に次から次へと騎士達が集まり、黒い悪魔の背を任された青の鬼神、赤の鬼神が騎士達を次から次へと斬っていく。会場の外では黄色の鬼神、白の鬼神を先頭に帝国軍と騎士達の戦いが始まっている。
宴の会場の内、皇帝が王妃の首を落とした後、宴に集まった貴族達は逃げ惑い我先にと出入り口へ向かった。その出入り口を塞いだ者達がいた。
「タワーム公爵、そこを退いてくれ」
「どうしてここを退く必要がある。お前達は籠の中の鳥、羽を切られ存分に舞ってくれ」
「公爵ーーー!」
「私達は耐えたのだ。歯を食いしばり己の手のひらを傷付け、それでも耐えたのだ。あのお方が望まぬ事はしないと、耐えて見届けたのだ。
お救いしたかった…。
だが私も所詮ただの人。己の心に従うのみ」
宴に参加しなかった公爵を先頭に腰にあのお方の瞳の色の紫色の布を巻いた同胞達が出入り口を塞いだ。逃げ出す事は許さないと剣を振った。
我等は妃殿下の部隊だと、仇討ちだと、敵である貴族達を斬りつけた。
同じ国に住む者同士だったはずが同じ国に住む者に刃を向ける。
一人の女性の処刑はそれだけ皆の心に影を落とした。
あのお方は望んではいない。だけど俺でもその場にいたら剣を向ける。それが友でも。それだけあのお方を失った喪失感は皆の心から光を消した。
血に飢えた獣は獲物を捕らえ、目の前の男に視線を移した。
「これは父上の分だ」
男の腕を斬りつけた。男は痛みで顔が歪んだ。それでも男は獣を睨んだ。
「これは伯父上の分だ」
次は足を斬りつけた。血が流れ痛む片足を引きずりながら逃げる男。
「これは伯母上の分」
男の背中を斬りつけた。
「これは使用人達の分」
痛みで蹲る男性の腹を斬りつけた。
「これは我が弟、コナーの分だ」
庇う腕を斬りつけた。
「これは我が弟、タイラーの分だ」
唯一動く足を斬りつけた。
「これはリリーアンヌを最後まで支えてくれた従者達の分だ」
両目を斬りつけた。
「ぎゃあぁぁぁーー!ぎゃあぁぁぁーー!」
叫び転げ回る男。全身から血がポタポタと落ちる。
「お主だけは直ぐには殺さぬ。次は両腕を、両足を落とす」
「や、止めて、くれーー!頼む!止めてくれ…」
「これはお主の子の分だ」
男の腹を刺した。
「あぁぁぁーー!」
「お主は自分の手で我が子を殺したんだ。リリーアンヌの腹に宿った子を」
男の腹をもう一度刺した。
「し、知ら、ない……」
「お主がこの女と間違えてリリーアンヌを無理矢理強姦したんだ」
近くに転がる女の頭を男に持たせた。
「うわぁぁぁーーー!」
男は女の頭を投げた。
「この女が大事なのだろ?愛しいのだろ?」
男は違う違うと首を横に振る。
獣は男の顎を掴み、
「良く聞け、小僧!お前はリリーアンヌを犯し、お前の子を宿したリリーアンヌを殺した。お前はリリーアンヌだけでなく、お前はお前の子も殺したんだ。
お前を幼い頃から信じ支えた、お前にとって唯一無二の存在。お前がどれだけ無能でも、それでも最後まで信じたリリーアンヌの愛をお前は裏切っただけではなく殺した。
俺の大事な妹を、俺の愛しい人を、俺の光を、お前は殺したんだ!」
「ほ、ほんと、に……、し、しら…な…い……。おれ、は……」
「リリーアンヌ付きの騎士に聞いた。おい、ダフ!」
若い騎士が獣の横に立った。
「なぁダフ、この男は子の事は知らないと言うんだが教えてやれ」
「はい。陛下はある晩酒に酔いふらふらの状態で妃殿下の私室へ来ました。妃殿下はやめてと叫び、私はナーシャ様ではないと。それからメイドのマイラが部屋に入った時、妃殿下は陛下に強姦された後でした。乱雑に脱ぎ捨てられた服がベッドに落ちていました。新米騎士の私には妃殿下をお助けする事も、出来ません、でした…」
「離宮近くの街医者に聞いた。リリーアンヌの腹には子が宿っていたと。直に胎動も感じるだろうとな。
お前は自分の子を殺した」
「う、うそ、だ……」
「残念だが事実だ」
「す、すまな、かった……、すま、ない、リリーアンヌ…」
獣は男の顎を離し腹に剣を刺した。
「お前がリリーアンヌの名を軽々しく呼ぶな!」
「ゆ、ゆる、して、くれ……」
「フッ、命乞いなど一国の王がするな。みっともない。
これはリリーアンヌの分だ、受け取れ糞野郎!」
「ま、まって…く」
獣は執拗に何度も何度も痛みで逃げ惑い転がる男を斬りつけ、最後は命乞いする男の首を笑いながら落とした。
57
お気に入りに追加
800
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる