悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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78 託される者

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「そして貴方が王になる時、この国には貴方を支える臣下しか残らない」

「俺は隣国の王配だ。王にはグレイソンでもライアンでも、」

「グレイソンは貴方を支える騎士に、ライアンは貴方を支える右腕に。それに二人には王の素質はないわ。

それに、どうせ王女との間に情はないでしょ?」


私はジェイデンに微笑んだ。


「何を知ってる」

「私は何も知らないわ。ただそう思っただけよ」


ジェイデンがすんなり王女の婿になるのはおかしいと思っていただけ。王にならなくてもこの国に残る為に手を回すと思ったから。

それを多少の反論はあったものの王配の道を選んだ。私はそこに何かあると思っただけ。

王女との間にどんな取引があるのか、それは私も知らない。でも、あのジェイデンの事だから何か取引した、それだけは分かったわ。


「ジェイデン、この国は一度崩壊させるしかもうないの。フォスター公爵が牛耳ってるこの国を。そして新たに国を一から作るしか、もうないのよ。

そして新たな国の王にはジェイデンしかいない。そして崩壊させるのはお兄様しかいない。

帝国からこの国を取り戻すのは大変よ。それに一から作り上げるのもね。でも私はジェイデンなら出来ると思ってる。

私だけじゃない、タイラーもボビーもコナーも、それに陛下もお父様も、貴方に託すの、この国の未来を。

そしてジェイデン、貴方は皆から託させたの」


私は真っ直ぐジェイデンを見つめる。見透かされてもこれは本心。だから怖くない。

ジェイデンの真っ直ぐ見つめる目


「分かった。私はグレイソンを連れて王宮を出る」

「お願いね」

「最後に一つだけ。リリーアンヌ、貴女は後悔は死ぬ時にすると言った」

「ええ、言ったわ」

「後悔はしていますか」

「いいえ」


私は穏やかな笑顔でジェイデンに笑いかけた。

後悔はしていない。それは本心。でも、少し後悔があるとすれば…、それは叶わぬ夢。ジェイデンが作り上げる国を見れない事……。

でもジェイデンほど託せる者もいない。それは確か。

だから後悔はしない。間違いばかりの選択をしてきた。だから最後に元に戻す。

王にならざる者を王にした、処刑は私の罰。

王になるべき者を王にする、その姿を見届ける事が出来ないのが私への罰。


辺境伯はジェイデンが王になっても臣下として支える人になる。私が護りたいと思った臣下達もジェイデンを慕う臣下になる。

タワーム公爵のようにジェイデンには王の器があったと見抜いている者は多い。

王の器を持つ者は玉座に興味もない

お祖父様もお父様もジェイデンも、王の器を持つ者達。

皮肉ね

お父様は少し違うけど、第二子に産まれただけで玉座から遠ざけられ育ち、玉座は第二子を選ぶ。

兄を慕い、支える忠実な臣下になっても、兄からは煙たがれる。

アルバートは幼い頃から良い兄を周りに見せてきた。ジェイデンをグレイソンを可愛がっていた。

『俺が王になる』

幼い頃からのアルバートの夢。そして牽制。兄を慕うジェイデンとグレイソンに向けたアルバートの牽制。

それを知り私はアルバートの夢に牽制に手を貸した。

『アルバートを王に』

幼いジェイデンとグレイソンは自分達は支える側になると、幼い頃から植え付けられた。


アルバートと私の手によって


タイラーはアルバートを王にする私に手を貸してくれた。アルバートとは幼い頃からの友だったから。

それでもタイラーに懐くジェイデンに色々教えていたのも知っている。


ジェイデンの剣の師匠は辺境伯。だけど私がお兄様に向かっていったように、ジェイデンはコナーに向かっていった。

相手より強くなりたい

その思いだけ。でもそれは憧れでもあるの。敵わないと思う人だから慕うようになる。コナーが可愛がるのも分かる。


アルバートは教師にとって優秀な生徒。よく抜け出すジェイデンは手のかかる生徒。だからボビーが教える事になった。でも憎めないジェイデンを皆が可愛がった。


お兄様が圧倒的な支配者なら、

ジェイデンは人を惹きつける支配者。


お兄様は否応なしに支配者としての器があった。誰も敵わないと思わせる。でも、それが信じてついて行こうと思わせるものだった。この人なら大丈夫、この人の後ろを歩けば導いてくれる、そんな強さがある。


ジェイデンは自ずと手を貸したくなる。言葉に力があり、この人の為に、この人を支えるのが使命、そう思わせる。皆を導き、導きの先にあるものは共に歩む明るい未来。己を知り尽くし、情も持ち、揺れない信念を持っている。


お兄様もジェイデンも神に選ばれし王



「明日、グレイソンを連れて王宮を出ます。最後にグレイソンと別れを」

「ええ、ありがとう」


真っ直ぐ私を見つめるジェイデンが懐かしい顔をした。子供の頃、アルバートと一緒にいる私に向けていた顔。

どうして僕の側にいてくれないの?どうして僕を好きになってくれないの?どうしていつも兄様なの?僕だって一緒にいたいよ。僕の側に来てよ。

まだ感情を隠す前の時の顔。悲しみ、諦め、辛そうな顔を見せた。


「リリーアンヌ、俺が王になったら俺の妻になってくれる?」

「生きていたらね」

「約束だよ」

「ええ」

「……俺の願いは、いつも、叶わないから……」


生きていたら、生きていたらね、ジェイデン…。貴方が作り上げる国を支える一人に、私もなるわ……。



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