90 / 107
閑話 ジェイデン視点 ③
しおりを挟む牢屋へ向かう途中、昼間の兄上との会話を思い出していた。
「国王陛下、ご返答を」
「王妃を連れて行け」
「王妃殿下を人質にすると」
「あぁ、私の子を産むのは家柄さえ良ければ誰でも良い」
「陛下は妃殿下を愛していないと?元王妃殿下を捨ててまで愛したのではないんですか?」
「だが、国が掛かってる時に愛も何もないだろう」
「国王陛下、いや、兄上、これは弟として言わせてもらう。
リリーアンヌを私に下さい。私はリリーアンヌを幼い頃から慕っていた。私の思いは兄上も知っていた。知っていて兄上はリリーアンヌを婚約者にし婚姻した。
兄上は私にリリーアンヌを幸せにすると言った。
リリーアンヌは幸せでしたか?兄上の妻になりリリーアンヌは幸せでしたか?第二夫人に王妃の部屋を奪われ、兄上の寵愛を奪われ、兄上はリリーアンヌを都合の良い駒にしただけだ」
「ジェイデン!」
「本当に出来たか出来てないのか分からない子を殺しただけで処刑ですか?」
「ナーシャは子を身籠っていた」
「ならその子を見ましたか?」
「俺は知らなかった。死んだ事も知らされなかった。それもこれも一人で王として政務をこなしていたからだ。あの女が全て投げ出しさえしなければ俺も子の死に目に会えたんだ、全てあの女のせいだ」
「政務は元より一人でこなすもの。リリーアンヌの力など借りずにです。
王の子が死んだのにも関わらず兄上には知らせがなかった。その方が重罪ではありませんか?王の子ですよ?
元からいないのなら知らせないとは思いますが」
「子はいた。ナーシャの腹は大きくなっていた」
「そこまで育った子ならば王宮内は騒がしくなったはずだ。いくら兄上が政務をしていても気付かない訳がない。
ならその子の墓は」
「父上達が眠る墓地に埋葬された」
「墓を掘り起こし確認したんですか?」
「死者を冒涜する行為だ」
「我が子の死に目にも会えず、我が子を確認もせず、ナーシャの言葉だけを信じてリリーアンヌを処刑ですか?」
「ナーシャは被害者だ。ナーシャの言葉だけで十分だ」
「ならリリーアンヌがやっていないと言えばそれを信じたと?」
「嘘をつくかもしれないだろう」
「兄上は何年リリーアンヌと育ったんです。リリーアンヌが嘘を言った事がありますか?」
「ジェイデンは知らないだろうが、あの女は変わったんだ」
「変わったのは兄上の方だ!
リリーアンヌを処刑などさせない。リリーアンヌは人質として私が隣国へ連れて行く」
「処刑は決まった。お前にリリーアンヌは渡さない。もし連れて行くのならナーシャを連れて行け」
「ナーシャなどいらない。私が欲しいのはリリーアンヌだけです」
「お前はいつもそうだ!いつも俺のものを欲しがった。リリーアンヌも王の椅子も」
「兄上、私は王の椅子など欲しくなかった。欲しいのはリリーアンヌだけです。リリーアンヌを妻にする為だけに王になりたかっただけで王の椅子など興味もなかった。
兄上はリリーアンヌを捨てました。捨てたものを拾っても問題はありませんよね」
「問題は、ある」
「問題?何です」
「この国の問題で国を出たお前には関係ない事だ」
「まぁ良いでしょう。今や私がこの国の者ではないのは事実だ。それよりもリリーアンヌだ。
王の子を殺したから?それも事実確認もない子を?
兄上、いい加減目を覚ましたらどうです。兄上は今の王宮がどうなっているのか知っていますか?」
「フォスター公爵が回してくれている。俺は政務が忙しい」
「政務、政務、口を開けば政務。兄上、王宮内を回すのも王の役目です。それこそ政務は事務官にでも執事にでも手を借りる事が出来る。ですが、王宮内を牛耳られたら終わりですよ」
「フォスター公爵は俺の味方だ。公爵に限って俺を裏切る訳がない」
あぁ、兄上に王は、この国を背負う事は、重かった。
父上から隣国の王配に、その話しを聞いた時、もっと反論するべきだった。
王女には慕う者がいて俺にも慕う者がいる。お互い形だけの夫婦、それをお互い受け入れた。義理の父親、現国王が亡くなれば離縁しようと契約をした。
王女には幼い頃から婚約者がいた。王配としての教育も受けていた婚約者とは相思相愛で、俺と婚約する為に無理矢理婚約を解消させられた。今でもお互いに思い合う二人はいずれ婚姻し、この国とは同盟を結ぶ予定でいた。
離縁した後、俺はこの国に帰ってきて兄上を支えようと思っていた。
少しでもリリーアンヌの側に
それが俺の思いだった。
妻には出来なくても一生側で支え一番の理解者になろうと。
数年国を空けるだけ、その数年でここまで国が変わるとは思ってもいなかった。
歯止めになっていたルヴェンド公爵とシャドネー公爵の死。リリーアンヌとの離縁。
フォスター公爵がここまで王宮内に浸透しているとは思わなかった。
何としてでもリリーアンヌを逃さないといけない。
リリーアンヌを処刑させない。
必ず、必ず護ってみせる。
4
お気に入りに追加
800
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる