悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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閑話 ジェイデン視点 ②

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俺はマックスを探した。


「マックス、王宮にいる間私の護衛に戻ってほしい」

「分かりました」


俺の隣国の護衛騎士はいるが、隣国の護衛騎士では王宮を自由に動き回る事は出来ない。

マックスと客間に戻り、状況を聞いた。


「マックス、フォスター公爵の娘のナーシャは本当に妊娠していたのか」

「それは、」

「答えろ」

「多分ですが、していません。ですがそれも確証はありません。私も扉の外で護衛中でしたのではっきり聞こえた訳ではありません」

「どういう事だ」

「今、陛下の周りはフォスター公爵の息のかかった者達ばかりです。医師もその一人です」

「兄上が王になり3人になったはずだが」

「3人共、王太子殿下から国王陛下になり医師が代わりました。フォスター公爵と一緒に医師がナーシャ妃殿下の私室に入り、私は扉の外ではありますが『腹にクッションでも入れておけ』とフォスター公爵の声が聞こえました。

ですが、お腹が膨らんでいたのは間違いありませんでした」

「腹にクッションを入れて偽装していたのか」

「おそらく。身軽と言いますか、妻の妊娠中と比べると動きが軽やかでした。ですが偽装しているのかは確認していません。我々は緊急の時以外は呼ばれない限り私室の中には入りません。当時はまだ第二夫人でしたので、王妃殿下の護衛とはまた違い扱いになります」

「フォスター公爵の息のかかった者がどれだけ王宮に入ってるんだ」

「ほぼ全員だとお思い下さい。リリーアンヌ妃殿下の護衛、ローレンはじめ騎士達は違いますが、両親はフォスター公爵に取り込まれました」

「は!?」

「ジェイデン殿下、私の隊とネイソンの隊の騎士達はフォスター公爵の誘い文句には乗りませんでしたが、それもいつ寝返るか、それとももう寝返ったか、それさえも分かりません。

フォスター公爵はまず両親達を言葉巧みに誘い両親達を取り込みました。第二夫人賛成派と反対派では処理の仕方が違います。賛成派には待遇が良く、反対派には厳しい。今まで通っていたものが通らなくなれば自ずと寝返るしかなくなります」

「だろうな」

「ナーシャ妃殿下の懐妊疑惑も誰も口に出して言えませんでした。ボビー殿は第二夫人を反対した次の日に辞職させられました。あれだけ王家に仕えていたのにも関わらず何も持たされずです」

「慰労金も無くか」

「はい。ある者は地方に飛ばされ、ある者は職を失いました」

「それほどまでにフォスター公爵が王宮を牛耳っているのか」

「残念ながら」

「はあぁ、兄上は何をしていたんだ」

「タイラー殿からフォスター公爵を側に置いてから、王宮はフォスター公爵の手の中。今は国をも動かすほどだとお思い下さい」

「それならナーシャが妊娠していないなど口が裂けても言えないな」

「…はい、申し訳ありません。自分に取って邪魔だというだけでルヴェンド公爵とシャドネー公爵を処刑した男です」

「常々父上も私もフォスター公爵には目を光らせていた。あの男はリリーアンヌが婚約者に決まり自分の娘を捨てた男だ。使えないと判断した長女に娼婦の真似事をさせている。自分の人脈作りの為にな。

ナーシャの方は兄上に上手く取り入ったが、兄上がナーシャを受け入れなければナーシャも姉のようになっただろう。フォスター公爵にとって子供は使い捨ての玩具と同じだ」

「それは我々もです」

「ああ、だから従うしかない。従わなければ護りたいものも護れない。ネイソンもグレイソンを護る為に嫌嫌従うしかないのだろう。ローレンはリリーアンヌの騎士。あの男もリリーアンヌには手出しが出来なかった。

今回は兄上が王として下した処刑。あの男にしてみれば手を下さず葬れる訳だ」

「はい。今は陛下に仕える事務官ですら陛下に会う事は許されません。我々近衛隊も今までは情報を共有していましたがそれも誰が味方で誰が敵か判断が出来ないので共有もしていません」

「ならリリーアンヌの側になぜローレンがいないのかも知らないのか」

「はい。奥方を迎えに行ったと聞きましたが」


それはない。辺境に奥方達はいた。ローレン達がいた形跡はない。リリーアンヌの指示で何かしているのだろうとは思うが。

リリーアンヌが処刑されると聞いて黙ってる男じゃないのは確かだ。

ローレン達は今どこにいる。何を指示された。


これは一度リリーアンヌに会うしかないな。


「マックス、牢屋に行きたい。手筈を整えてくれ」

「分かりました」


リリーアンヌが話すとは思わないが聞き出すしかない。




牢屋に行けたのは次の日の夜だった。


「今日の夜の牢屋番は昔馴染みの者で信用出来る者です」

「そうか。それでも席を外してほしい」

「その事も伝えてあります」


夜遅く俺は牢屋に向かった。



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