悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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75 地下牢

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「タイラーどうして?」


タイラーは助かる予定だった。

オーガス侯爵がタイラーを説得する手筈だったはず。私はそうマックスに聞いた。

地下牢までの道で私はそうマックスに聞いて、タイラーにはその方が良いと思った。ここまで私の側にいてくれた。タイラーが私と共に、その気持ちはとても嬉しい。  

でも、助かるのなら、どんな形でも命が助かるのならその方が良いに決まってる。生きていればこれから何でも出来る。他国へ行き勉学を学ぶ事だって出来る。

寂しい思いはするかもしれない。それでもいつかはその気持ちも薄れていく。

新しい環境で暮らし、勉学を学び、また新たな人達と出会う。その日々の中で寂しさは癒え、私は思い出の人になる。

私はタイラーにそんな生活をしてほしいと思った。



「僕だけ仲間外れ?そんなの僕は嫌だ。運命を共にするって言ったじゃないか。死ぬ時は一緒だって言ったじゃないか。

僕はリリーアンヌの側が良い。

リリーアンヌが産まれた時からずっと側にいた。子供の時も今も、僕の側にはリリーアンヌがいないと。僕だけ置いて行くの?」

「タイラー、でもね、」

「リリーアンヌの言いたい事は分かってるよ。でもね、僕は僕の意思でリリーアンヌの側を選んだんだ」


タイラーは子供の時からそうだった。自分の意思を持ち頑固。誰が何を言っても自分の考えは変えない。


「そうね、いつも側にいたものね」

「だから死ぬ時も一緒だよ」

「うん、タイラーと一緒なら怖くないわ」


タイラーは私の前の牢屋に入った。




地下牢の暮らしは快適とは言えない。でも皆が側にいるからか落ち着いていられるのは確か。

きっと一人だったら気が狂っていたのかもしれない。窓もない薄暗い檻の中。じめじめとして気が重くなる。

早く殺して

早く私を殺して

そう思わせる場所。

そこに拷問が加わればそれこそ精神崩壊。生きてる方が辛くなる。

死こそが天国

生きてる苦痛、死なせてもらえない状況、そんな中で夢見る事はきっと、



そして処刑される事にようやく安堵する。


でも今そうならないのは皆の気配、息遣い、それを感じられるから。

話す事は許されない。それでも感じる皆の存在。それがどれほど心強く安心するか。

そして思うの。

皆が一緒なら怖くない

死の恐怖も、この世を去る悲しみも、皆と一緒ならどれも耐えられる。

だから今願う事はただ一つ。

あちらの世界で必ず会いたい




地下牢での食事はとても質素なもの。具のないスープに固いパン。それでも食べれるだけましなのかもしれない。

硬い床に薄い布が1枚。布の上に座っても足は痛い。

土の上で寝転がった事なんて何度もある。土の上は硬いと思っていたけど、ふかふかだったと始めて知った。

3度の食事で時は分かるものの、夜になっても眠りにつく事はない。何もない牢屋の中だからか一人で物思いに耽る時間だけはある。

悔やみ、それは処刑されるまでずっと思う事だと思う。皆を巻き込んだ事、間違いばかりの選択…、

私は皆が言うように悪女なのかもしれない。我が物顔でこの国を統べる者になっていたのかもしれない。


私が陰ながら支えてきたのは何だったのか、

ナーシャ様のように何も口を出さずのんびり暮らしていた方が良かったのか、

王妃だからと口を手を出しすぎたのか、

アルバートが作る国がどんな国になっても王はアルバート、私は妃でしかない。それなのに私の主観を押し付けアルバートを従わせていたのかもしれない。

帝国へ移り住んだ子爵の領民達も天災にあった侯爵の領民達も皆、生まれ育った領地から離れたくなかったのかもしれない。それを私は強引に違う国へ領地へ移らせた。

私こそが独裁の王妃


お兄様は言った。

『上に立つ者は時に無慈悲にならないといけない。どれだけ恨まれようと憎まれようと、慈悲だけでは皆を統制する事は出来ない』


私はその時その時最善の選択をしてきたつもり。

でもそれは本当に最善だったのか、

他に方法はなかったのか、


恨まれようと憎まれようとそれは良い。悪女だと言われようと無慈悲だと言われようとそれも良い。

アルバートが王として皆から認められればそれで良いと思っていた。

慈悲はアルバートが、無慈悲は私が、そうなるようにしてきた。


でも、その結果アルバートが頼りない王として皆の目に映った。

そして臣下の心が離れていった。


アルバートの心も、私から、離れて、いった……。



アルバートの優しさ、臣下を信じる心、

疑う心を持たないアルバートに、私はどうすれば良かったの?


それも分かってる。

結局嫌われるのなら、嫌われるのを覚悟でその時その時に言えば良かっただけ。

でもそれは結果であって、私は嫌われたくなかった。アルバートに口煩い奴だと、可愛げがない奴だと、思われたくなかった…。

アルバートを信じる事で私は愛される方を選んだ。

その愛も初めからなかったのに…

私はアルバートの母親の代わり。母親の愛情を受け取る事が出来なかったアルバートは私を母親と重ねただけ。

側で見守り愛を注ぐ

時に褒め、時に叱り、温もりを与える。言葉で態度で、いつも見ていると、貴方の味方だと、貴方を裏切らないと、

ふふふっ…

幼い頃から…、私は…、母親、だったの、よ……。

愛する女性では、なかった…の、ね……



私を愛してほしかった……




アルバートが導くこれから先のこの国を見届ける事は出来ない。

でも、これから先のこの国が良い国になることを願うしかない。


民が住みやすく幸せに暮らせる国へ



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