悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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「妃殿下、私をお忘れですよ」

「ボビー?」

「私が何十年陛下のお側で執事をしてきたとお思いです。馬も剣もお手の物です。そこいらの若造には負けません」

「ボビー、貴方の気持ちは嬉しいわ。だけどね、これは本当に命がけなの。今まで神経すり減らして働いて、ようやく落ち着ける場所を見つけたんでしょ?」

「妃殿下、私は王族に仕える執事。執事としての矜持を持っています。そして最後にお仕えしたのは妃殿下、貴女です。アルバート陛下に仕えたのも貴女を助ける為。アルバート陛下は貴女の添え物でしかありません」

「ボビー…貴方…」

「妃殿下の望むまま進みましょう。良いですね」


ボビーはコナーを見た。


「馬と剣が扱えるなら何も言うことはない」

「では、まずは腹ごしらえです」


ミーナとマイラはボビーを手伝いに行った。


「ごめんリリーアンヌ…。もっと馬と剣を稽古しておくんだった…」

「タイラー、適材適所よ。タイラーには知恵を使ってもらうわ。コナー地図を出して」


机の上に置かれた地図を見ながらどこを進むかタイラーが考えた。


「ここから先は狩場がいくつもある。遠回りになるけど、狩場は馬が通れる道がある。猟師道と言われる道だから騎士達には知られていないと思う。それに騎士達は離宮までの道を探す。わざわざ道から外れた所を探さないよ」

「それで行きましょ」

「ああ」


腹ごしらえが終わり、ボビーが馬を用意してくれた。コナーとタイラー、道案内も兼ねて先頭を行く。私とミーナ、まだ未婚のミーナに男性に抱きつく免疫はない。最後、殿としてボビーとマイラ。

タイラーの読みが当たり、騎士達と遭遇する事なく先に進む。夜は野宿だけどそれも仕方がない。

ボビーが近くの街まで行き食料を調達しながら騎士達の動きを探る。


ここまでしてどうして北の離宮へ行かないといけないのか、とは思うけど、何もしていないと証明する為にも北の離宮へ行かなければいけない。逃げれば罪を認めた事になる。だから捕まると思っても進むしかない。離宮へ着けば離宮に籠もりアルバートに文を送り誤解を解けばいい。

離宮までの一本道、馬を酷使する事になるけどコナーと二人なら駆け抜けられる。落ち着いたらタイラー達を呼べばいい。


狩場を順調に進んでいた私達の前に現れたのは…


「妃殿下」

「マックス隊長、近衛隊の貴方が直々ここまで来るとは思わなかったわ」

「なかなか妃殿下の情報が入らず陛下もご立腹でしたので。

それに、妃殿下にはシャドネー公爵のご子息が側にいますから。シャドネー公爵は狩りの名手。やはり正解でした」

「そのようね」

「妃殿下、大人しく身柄を拘束させて下さい」

「それで?大人しく身柄を拘束された後は?罪人として処刑かしら。なら答えは否よ」

「それならこちらも手加減をしませんよ」

「そうね、こちらも手加減はしないわ。なんせ人数ではこちらの分が悪い。手加減なんてしたら戦う意味はないわ」

「分かりました」


騎士達が一斉に剣を抜いた。コナーもボビーも馬から下り既に剣を抜いている。


「ミーナ、マイラ、何があっても振り落とされないように馬にしがみついていて。タイラー、後はお願い」


私も馬から下り剣を抜く。いざとなった時は馬を叩いて走らせミーナとマイラとタイラーは離脱させる。私を捕えたいんだから追いはしない。

剣のぶつかる音が静かな狩場の中で響く。


「ふうぅ」


目を瞑り息を一息吐いた。そして目を開け向かってくる騎士達に剣を向けた。身軽に動き間を詰め確実に足を狙い斬りつける。浅い傷は付けない。動けなくほどの深い傷を負わす。それが私の戦い方。

お兄様やコナーのように一太刀で仕留める。そんな剣の振りは出来ない。

何度も何度も負けて私なりの戦い方を見つけた。足が動きにくいと剣の腕は一段と下がる。致命傷を付けるよりも時間稼ぎ。逃げる為の時間稼ぎになればいい。


師匠が言っていた。


『時間稼ぎも立派な戦術だ。戦いにおいて、生きる、それ以外の選択肢はない。お前なりの戦い方をようやく見つけたな』


お兄様やコナーのように一太刀で、私は剣を大きく振り隙だらけだった。だから負け続けた。

コナーはマックス隊長を相手している。今の所、五分。コナーもマックスも本気は見せていない。

ボビーと私で騎士達の動きを止めていく。それでも人数で勝る騎士達の方が優位なのは明らか。

タイラー達の馬を走らせようと私は背中を向けてしまった。


「お嬢様!後ろ!」


ミーナの声に振り返った時、剣を振り上げた騎士の姿が目に入った。


カーン


耳の近くで剣の交わる音。私は瞑っていた目を開けた。私の目の前に人が立ち剣を弾いていた。


「あんたは馬鹿か!背中を見せる奴がどこにいる!」

「ジル…、助かったわ」

「お嬢ー!後で説教だ!今は集中しろ!」

「コナーごめん!」


マックス隊長と剣を交えているコナーの怒鳴り声。


「妃殿下!ここは一旦引きます。明日話し合いを!」


マックス隊長の声が響いた。


「分かったわ」

「剣をしまえ!引くぞ!」


マックス隊長の声に騎士達は剣を鞘に戻し去って行った。



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