79 / 107
69 追手 ②
しおりを挟む「妃殿下、私をお忘れですよ」
「ボビー?」
「私が何十年陛下のお側で執事をしてきたとお思いです。馬も剣もお手の物です。そこいらの若造には負けません」
「ボビー、貴方の気持ちは嬉しいわ。だけどね、これは本当に命がけなの。今まで神経すり減らして働いて、ようやく落ち着ける場所を見つけたんでしょ?」
「妃殿下、私は王族に仕える執事。執事としての矜持を持っています。そして最後にお仕えしたのは妃殿下、貴女です。アルバート陛下に仕えたのも貴女を助ける為。アルバート陛下は貴女の添え物でしかありません」
「ボビー…貴方…」
「妃殿下の望むまま進みましょう。良いですね」
ボビーはコナーを見た。
「馬と剣が扱えるなら何も言うことはない」
「では、まずは腹ごしらえです」
ミーナとマイラはボビーを手伝いに行った。
「ごめんリリーアンヌ…。もっと馬と剣を稽古しておくんだった…」
「タイラー、適材適所よ。タイラーには知恵を使ってもらうわ。コナー地図を出して」
机の上に置かれた地図を見ながらどこを進むかタイラーが考えた。
「ここから先は狩場がいくつもある。遠回りになるけど、狩場は馬が通れる道がある。猟師道と言われる道だから騎士達には知られていないと思う。それに騎士達は離宮までの道を探す。わざわざ道から外れた所を探さないよ」
「それで行きましょ」
「ああ」
腹ごしらえが終わり、ボビーが馬を用意してくれた。コナーとタイラー、道案内も兼ねて先頭を行く。私とミーナ、まだ未婚のミーナに男性に抱きつく免疫はない。最後、殿としてボビーとマイラ。
タイラーの読みが当たり、騎士達と遭遇する事なく先に進む。夜は野宿だけどそれも仕方がない。
ボビーが近くの街まで行き食料を調達しながら騎士達の動きを探る。
ここまでしてどうして北の離宮へ行かないといけないのか、とは思うけど、何もしていないと証明する為にも北の離宮へ行かなければいけない。逃げれば罪を認めた事になる。だから捕まると思っても進むしかない。離宮へ着けば離宮に籠もりアルバートに文を送り誤解を解けばいい。
離宮までの一本道、馬を酷使する事になるけどコナーと二人なら駆け抜けられる。落ち着いたらタイラー達を呼べばいい。
狩場を順調に進んでいた私達の前に現れたのは…
「妃殿下」
「マックス隊長、近衛隊の貴方が直々ここまで来るとは思わなかったわ」
「なかなか妃殿下の情報が入らず陛下もご立腹でしたので。
それに、妃殿下にはシャドネー公爵のご子息が側にいますから。シャドネー公爵は狩りの名手。やはり正解でした」
「そのようね」
「妃殿下、大人しく身柄を拘束させて下さい」
「それで?大人しく身柄を拘束された後は?罪人として処刑かしら。なら答えは否よ」
「それならこちらも手加減をしませんよ」
「そうね、こちらも手加減はしないわ。なんせ人数ではこちらの分が悪い。手加減なんてしたら戦う意味はないわ」
「分かりました」
騎士達が一斉に剣を抜いた。コナーもボビーも馬から下り既に剣を抜いている。
「ミーナ、マイラ、何があっても振り落とされないように馬にしがみついていて。タイラー、後はお願い」
私も馬から下り剣を抜く。いざとなった時は馬を叩いて走らせミーナとマイラとタイラーは離脱させる。私を捕えたいんだから追いはしない。
剣のぶつかる音が静かな狩場の中で響く。
「ふうぅ」
目を瞑り息を一息吐いた。そして目を開け向かってくる騎士達に剣を向けた。身軽に動き間を詰め確実に足を狙い斬りつける。浅い傷は付けない。動けなくほどの深い傷を負わす。それが私の戦い方。
お兄様やコナーのように一太刀で仕留める。そんな剣の振りは出来ない。
何度も何度も負けて私なりの戦い方を見つけた。足が動きにくいと剣の腕は一段と下がる。致命傷を付けるよりも時間稼ぎ。逃げる為の時間稼ぎになればいい。
師匠が言っていた。
『時間稼ぎも立派な戦術だ。戦いにおいて、生きる、それ以外の選択肢はない。お前なりの戦い方をようやく見つけたな』
お兄様やコナーのように一太刀で、私は剣を大きく振り隙だらけだった。だから負け続けた。
コナーはマックス隊長を相手している。今の所、五分。コナーもマックスも本気は見せていない。
ボビーと私で騎士達の動きを止めていく。それでも人数で勝る騎士達の方が優位なのは明らか。
タイラー達の馬を走らせようと私は背中を向けてしまった。
「お嬢様!後ろ!」
ミーナの声に振り返った時、剣を振り上げた騎士の姿が目に入った。
カーン
耳の近くで剣の交わる音。私は瞑っていた目を開けた。私の目の前に人が立ち剣を弾いていた。
「あんたは馬鹿か!背中を見せる奴がどこにいる!」
「ジル…、助かったわ」
「お嬢ー!後で説教だ!今は集中しろ!」
「コナーごめん!」
マックス隊長と剣を交えているコナーの怒鳴り声。
「妃殿下!ここは一旦引きます。明日話し合いを!」
マックス隊長の声が響いた。
「分かったわ」
「剣をしまえ!引くぞ!」
マックス隊長の声に騎士達は剣を鞘に戻し去って行った。
3
お気に入りに追加
804
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
幼馴染に奪われそうな王子と公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
「王子様、本当に愛しているのは誰ですか???」
「私が愛しているのは君だけだ……」
「そんなウソ……これ以上は通用しませんよ???」
背後には幼馴染……どうして???
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
重いドレスと小鳥の指輪
青波鳩子
恋愛
公爵家から王家に嫁いだ第一王子妃に与えられた物は、伝統と格式だった。
名前を失くした第一王子妃は、自分の尊厳を守るために重いドレスを脱ぎ捨てる。
・荒唐無稽の世界観で書いています
・約19,000字で完結している短編です
・恋は薄味ですが愛はありますのでジャンル「恋愛」にしています
・他のサイトでも投稿しています
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる