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68 追手 ①
しおりを挟む王都を出て順調に進んでいる。楽しい旅、そんな事を言ったら不謹慎だけど、タイラーの顔にも笑みが増えた。
馬車の中はいつもくだらない話で盛り上がってるわ。立ち寄った食堂のお客さんや店主さんの話。食べたい物。屋台で売られている物を買って馬車の中で食べたり、食べて感想を言いあったり、何気ない会話がこれほど楽しいとは思わなかった。
馬車が急に止まり、タイラーが私を支える。
「大丈夫?」
「ありがとうタイラー。ミーナもマイラも大丈夫?」
「私達は大丈夫です」
ミーナが答え、マイラは馬車の窓からカーテンを少し開け外を見ている。
マイラの顔が変わったのを私は見逃さなかった。
何かあった
それは直ぐに分かった。外から聞こえる声。
「この馬車は元王妃が乗っている馬車か」
「何かあったんですか?」
コナーはいつもと変わらない態度で接していた。
「乗っているかいないかだけ答えろ」
「乗ってないですよ。こんなおんぼろに王妃が乗る訳ないでしょ」
王都を出て馬車を乗り換えた。公爵家の馬車では目立ちすぎる。
「中を確認する」
「良いっすよ、どうぞ」
騎士がコナーから離れた瞬間馬車が勢いよく走り出した。街の裏路地に馬車が止まり、扉が開いた。
「降りるぞ」
急いで荷物を持ち馬車から降り、裏路地を進む。
「ここで待機だ。お嬢、いざとなれば」
「分かってる。私もコナーを助ける」
「良いか、お嬢、今の奴等は王宮の騎士団の奴等だった。何があったかは分からないがお嬢を探しているのは間違いない。
もう味方じゃない。その意味は分かるな?」
「分かってるわ。元味方だとしても今は刃を向ける敵」
「あぁ、敵だ、容赦はするな。それが命取りになる」
私はコクリと頷いた。
騎士達の足音がすぐ側から聞こえる。剣を持つ手に力が入る。
突然人影が見えてコナーは拘束した。
「妃殿下、ご無事でしたか。良かった…」
「ボビー」
「こちらへ」
私達はボビーの後を付いて行き、一軒の家に入った。
「今は一人で気ままにこの家で暮らしています」
「そう。急に辞めさせられたみたいで、ごめんなさい」
「妃殿下、元々陛下が逝去された時に辞職するつもりでいました。私は老いぼれ、若い者に任せようとそう思っていました」
「だけど、」
「妃殿下」
ボビーの顔が真剣な顔になった。執事をしていた時と同じ顔。その顔に私は背筋を伸ばした。
「妃殿下、執事を辞めても情報は入ります。妃殿下は今、罪人として手配されています」
「罪人?何の?」
「陛下の子を殺した罪人です」
「私は殺してないわ。というよりも子は元から出来ていないのにどう殺すと言うの?」
「私は第二夫人を反対しました」
「ええ、そのせいで辞めさせられたわ」
「その時私は陛下に助言しました。子が産まれてから第二夫人を娶ればどうかと。ですが、陛下はこう言いました。
『ナーシャが子が出来たと言ったんだ。俺の子が腹に宿ったと。母の勘らしいが、女性とは凄いな』
一度の性交で子が宿る事もあります。何度性交しても宿らない事もあります。ですが王の子を勘だけで言ってほしくはない」
ボビーは王族に仕える執事として優秀。だからこそ勘など見えないものを信用していない。
「それは同感ね」
「妃殿下、陛下はナーシャ様の言葉を信じています」
「それも知ってるわ。子が出来てないなんて疑ってもいないもの。きっと何かの拍子で子が出来てない事を知った。宿ったものが失くなれば何かあったと思う。あの狸の娘だもの、嘘をつくのは簡単だわ」
「リリーアンヌ」
コナーが私の名を呼ぶ時は最も危険な時。
「これから先、馬車での移動は危険だ。動きにくい」
「そうね。馬車では目立ちすぎる」
コナーは私をジッと見つめている。
何が言いたいかだいたい分かる。タイラー、ミーナ、マイラが今後足手まといになる。剣を扱えず、馬に乗れない。
騎士団の騎士が直々ここまで来ている。北の離宮までの道、どこを私達が通るか分からなく虱潰しに探している。
今は
でも目的地は分かってる。北の離宮まで途中からは一本道。きっとその前で待ち構えている。そこは確実に通るから。
タイラー、ミーナ、マイラを護りながら剣を振る。それは相手が少人数なら可能。でも…。
こちらはコナーと私だけ、相手は全員剣を扱える。いくらコナーが強いと言っても…。
「コナーの言いたい事は分かるわ。でも置いていく事は出来ない。それに歩いてでも付いてくるわ。なら一緒の方が護りやすい」
「馬も乗れないのにどうする」
「私とコナーでミーナとマイラを乗せて、タイラーだって少しは馬を乗れるわ」
「少しでは駄目な事くらい分かってるだろ。駆け抜けないといけない時、結局置いていく事になる。
3人はここに置いていく」
「駄目よ」
「リリーアンヌ」
「コナー、分かってる。これが危険な事も分かってる。でも、置いていくのは、駄目よ…。もう少し先、離宮の手前に置いていくわ。そこからはそれこそ命がけ。
それに運が良ければお兄様達と合流出来る。レガンス兄様に使いを出したの。お兄様は絶対に北の離宮に向かっているわ」
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