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閑話 ナーシャ視点
しおりを挟む「リリーアンヌを捕えよ!生きて俺の前に連れて来い!俺が処刑台に送ってやる!」
アルバート様の怒鳴り声が夜の王宮に響いた。
どうしよう…。
こんなはずじゃなかった…。
こんなつもりじゃなかったの…。
アルバート様の子を妊娠していない。それでもこの生活を守る為にずっと嘘をついてきた。
お腹にクッションを入れて…。
私はいつもお腹に入れていたクッションをギュッと抱きしめた。
アルバート様の恐ろしい顔
地を這うような怒鳴り声
どうしよう…。
いつもはお腹にクッションを入れて寝ている。でもリリーアンヌ様が王宮を出て行って私は安心したの。
あぁ、もう妊婦のふりをしなくてもいいんだ
毎日クッションをお腹に入れて生活するのも大変だったの。
暑いし、邪魔だし、
でも、子を産んだって言ったら子はどこだって言われるわ。だからずっと我慢していたわ。
アルバート様も執務が忙しくて寝室には来ないし。
油断
そう、私は油断していた。どうせ来ないだろうと。数日間クッションを取って寝ていても寝室には来なかった。
だから…。
クッションを取って眠るのは楽だったわ。どんな寝方をしても邪魔にならないもの。
快適だった
一度快適さを味わえばもうクッションを入れておくのも億劫になった。
どうせアルバート様は来ない
その、どうせが私の心の油断…。
リリーアンヌ様が王宮を出ていって2週間。私はいつものように広いベッドの上で一人で快適に寝ていた。クッションを抱きかかえて。
夜中にアルバート様が来るとは思わなかったから。
寝ている私に誰かが触れた。私は触れられた手を払った。
(もう邪魔しないでよ)
そしたら今度は後ろから抱きしめられた。
(眠れないじゃない)
お腹を触る手に
(もうやめて)
そしたらいきなり布団をめくられたの。私は眠い目をこすり辺りを見渡した。
私のお腹を見ているアルバート様が目に映った。
「アル、バート、さま?」
「これは、これはどういう事だ」
「なに、が?」
「ナーシャ、子は?俺の子は?」
「ん?なに?子?」
私は抱きしめているクッションに気づいた。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう…。何て言おう…)
「子は?子はどうした!」
アルバート様の大きな声に私はビクッと震えた。
「子は……(妊娠していなかったなんて言えないわ。だって妊娠したから、アルバート様の子が出来たから、私は第二夫人になれたんだもの)」
「どうしたと聞いている!」
その時私は咄嗟に、
「……リリーアンヌ様が……」
王宮から出て行ったリリーアンヌ様ならもう関係ないと思ったの。王宮にいる医師のせいにしたら医師が責められるわ。でももう王宮にいないリリーアンヌ様のせいにしても、もう責める事は出来ないもの。
私は責めて終わり、そう思ったの。だって子はまた作れば出来るじゃない。今度は本当に作れば良いだけでしょ?
私は軽く考えていた。
「リリーアンヌが何をした!」
今更何もしてませんとは言えない。だから私は嘘をつくしかなかったの。元々子が出来たのだって嘘だもの。今までだって何度も嘘をついてきたわ。
だからもう一つ嘘をつくくらい一緒だと思ったの。
「リリーアンヌ様が後ろから……」
「なぜ直ぐに言わなかった!」
「まだ、王妃、様、でした、から…」
「俺の子が……、リリーアンヌが俺の子を殺した……、リリーアンヌが、俺の子を、殺した、だと…?
リリーアンヌが俺の子を殺した!
許さない!許さない!絶対に許してなるものか!
殺してやる!俺の子と同じように殺してやる!」
アルバート様の憎しみの顔を見た時、私は初めて自分がついた嘘が怖くなった…。
でも今更嘘です、なんて怖くて言えない。
ごめんなさい、リリーアンヌ様…。でもリリーアンヌ様なら笑って許してくれますよね?
それにアルバート様とリリーアンヌ様は切っても切れない関係だもの。今は我を忘れてるアルバート様も冷静になれば、
リリーアンヌ様を許すわ
だから私は自分の身を、自分の立場を守ったの。
それは悪い事ではないでしょ?
だって人は少なからず嘘をつくじゃない。見栄を張る為に嘘をつくじゃない。
だから私は嘘をつき続けるしかないの
誰にも知られてはいけないわ。これは私が墓場まで持っていく。
アルバート様の声にお父様が寝室に入ってきた。ベッドの上にいる私の姿を見て、一瞬私を「役立たず」と睨んだ。でも次の瞬間、お父様は不気味な笑みを浮かべたわ。
娘の私でも恐ろしくなるほどの不気味な笑み。
「陛下、これは好機。帝国に第二夫人の首として差し出しましょう。それで手打ちにしてくれと頼みましょう。
皇帝も第二夫人の首が欲しいんですから。何も陛下の首を差し出す必要はありません。我々は我々の手で生け贄を差し出せば良いんですよ」
お父様は何を言ってるの?
この人は誰?
本当にお父様なの?
この人はお父様じゃないわ。
この人は、
飢えた悪魔よ…
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