悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
76 / 107

67 弔い

しおりを挟む

朝になり私は寝室の扉を開けた。


「ミーナ、マイラ」


ミーナとマイラはずっと扉の前に居てくれていた。


「ありがとう…」


私は客間に向かった。


コンコン


扉を開けたのはコナー。


「タイラーは大丈夫そう?」

「なんとかな」


私はタイラーの横に立った。真っ赤な目をしたタイラーが私を見上げた。


「タイラー、もう送り出しましょう。いつまでもここで眠らせていても伯父様も伯母様も安眠できないわ。安らかに眠ってもらう為にもきちんと弔いましょう」

「……うん」

「コナー、騎士達が来たらまた穴を掘ってほしいの。お父様の分と伯父様と伯母様が二人で眠れるように」

「分かった」


騎士達が来て使用人達の亡骸を昨日掘った穴に眠らせる。

コナーはお父様、伯父様伯母様を眠らせた。


邸に入ってきた馬車。オーガス侯爵が来たのだろうと思っていた。

馬車から降りて来たのは、


「タワーム公爵、どうして?」

「妃殿下、昨日夜遅く妻と息子に会いに来た者がいました。その者が言うには今日亡き人を自分達の手で送り出すと。ならば私もその一人になりたい、そう思いました」

「ありがとう公爵」


ありがとう、ジル…。


「今日は古くからの友人を一緒に連れて来ました」


馬車から降りる一人の男性。


「彼は今は息子に譲り隠居した身ですが、神に仕える教会にいました」

「だけど、」


男性は私の言葉を手で制した。


「どのような方であれ、どのような死に様であれ、生として産まれた以上死は皆同等に訪れます。そして私は神が与えた命を神に返す為に導きをする存在。

例え寿命であれ、罪人であれ、無実の罪であれ、神が命を授けた以上、弔い、神に返さないといけません。

魂を彷徨わせる事は出来ません」

「皆をお願いします…」

「ええ、それが私の役目ですから」


男性はお父様、伯父様伯母様、使用人達に弔いの言葉をかけた。


神のお導きを…、感謝致します……。


コナーがお父様の上に土を被せた。それから伯父様伯母様。騎士達は使用人達の上に土を被せている。

コナーはお父様の眠る所にお父様の愛用の剣を刺した。伯父様と伯母様の眠る所には狩りを趣味としていた伯父様の矢を、そして伯母様が付けていたネックレスを矢に巻き付けた。



「妃殿下、これから旅立たれるのですか?」

「ええ、これで心残りはないわ。

ありがとう公爵。貴方の友人を連れて来てくれて、本当にありがとう」

「妃殿下、これは私の意志。そして私に教えてくれたのも彼の意志。友人も己の意志。

貴女を助けたい、ただその思いだけです。皆、貴女に救われ、貴女に惚れた者です」

「でも彼は、」


私はまだお墓の前で祈ってくれている男性を見た。


「彼の教会が壊される時、幼い貴女が助けたんですよ」

「私が?」

「幼い貴女はお父上と一緒によく地方へ行っていましたよね?」

「ええ。お父様はいつも私を連れて行ったわ。何事にも自分の目で見て知れ、それがお父様の教育だったから」

「地方に行った時、寂れた教会を貴女の一言で救いました。

『ここは壊しては駄目よ、」

「「女神様が今心を休めているから。壊したら女神様の安らぐ所が無くなってしまうわ」」

「思い出したわ。教会に入った時、女神様がとても優しい顔で横になっている姿が見えたの。あの地を守る女神様が居なくなればあの地は荒れ地になる。そしてそこに住む者はそれを恐れていた。女神伝説が根強く残る地だったわ、確か」

「ええ、その通りです。貴女の一言で壊してはいけないと、今も寂れたままですが、それでも壊れずに立っています」

「あそこは壊れないわ。女神様の力が一番宿る場所だもの」

「彼はあれから貴女をずっと探していた。女神様から好かれた少女。そして私と縁があり少女が貴女だと知った。

皆、貴女と関わった者は自然と貴女を慕うようになる。貴女の言葉の力が皆の心を変えてしまう。貴女を救う為ならこの命さえ、そう思わせる。

上に立つ者の素質。導く者の器」

「公爵」

「ええ、分かっています。それは私の夢物語。貴女が望まない事はしません。貴女の望みを叶えるのが私が唯一出来る事ですから。

そしてそれは陛下への忠誠」

「ええ、そうよ」

「ならば私の思いも叶えて下さいませんか?」

「なに?」

「私に貴女と繋がる何かを、助けられる何かを、私に授けて下さい」

「貴方は貴方のままで、でもそれは貴方の望む答えではないのよね?

なら、タワーム公爵、貴方に私の願いを聞いてもらいます。

ルヴェンド公爵家、シャドネー公爵家、両家の領地を領民を貴方が私の代わりに守ってほしい。それが私の望む事です」

「しかと承りました」

「領民達が気掛かりだったけど、貴方なら任せられるわ。お願いね」

「はい」


お父様達の事、領民達を公爵に託し私は北の離宮へ向けて旅立つ。

もう戻る事が出来ない邸

最後に目に焼き付け、お父様達ともお別れをし、馬車に乗り込んだ。


しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜

百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...