悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
75 / 107

66 夜更けの訪問者

しおりを挟む

夜が更け私は動きやすい格好に着替えた。


「コナーお待たせ」


玄関で待つコナーの姿。


「タイラーは?」

「伯母様と一緒にいるわ。マイラにタイラーの側にいてもらうように頼んできたわ」


伯母様は客間のベッドに移した。タイラーは伯母様が眠るベッドから離れない。


邸を出ようとした時。


「お嬢、誰か来た」


コナーは剣を鞘から抜いた。私も腰に下げている剣を鞘から抜いた。

暫くして馬車が止まる音が聞こえた。

邸の中には緊張感が漂う。


「ミーナ、私の後ろに隠れて」


私はミーナを庇うように剣を玄関に向ける。


コンコン コンコン


「誰だ」


コナーの低い声。


「俺だ、ジルだ、開けてくれ」

「こんな夜更けに何の用だ」

「王妃に届けものを持ってきた」

「何をだ」

「王妃の父親の亡骸だ」


その声にコナーと私は目を合わす。私は頷きコナーは剣を構えながら玄関を開ける。

コナーは一人で外に出ていった。


閉められた玄関の扉が開き、コナーと一緒に入って来たのは私を監視していた影だった。


「貴方」

「あんたの父親の亡骸を持ってきた」


私はコナーに視線を移した。頷くコナー。


「どうして貴方がそんな事をするの?」

「気まぐれだ」

「そう、でもとてもありがたいわ。ありがとう。でもこんな事をして知られたらどうするの?」

「変わりの遺体を置いてきた。それにどうせ捨て置かれていただけだ。捨てたものを拾った、ただそれだけだ。

あの男は遺体には興味もない。だから知られる事はない。

それにあんたは俺の妻と息子を助けてくれた。俺の家族を助けてくれた代わりに俺があんたの家族を助けた。それだけだ。これで貸し借りは無しだ」

「ええ、そうね」


コナーは剣を鞘にしまい外に出て行った。

布に包まれた亡骸を抱きかかえ戻ってきた。


「寝室へ寝かせて」


コナーは階段を上っていった。


「本当にありがとう。今から行こうと思っていたの。でも私がここにいるってよく分かったわね」

「王宮から後をつけていた」

「そう」

「俺はあんたが王都を出るまでの監視を頼まれた。あの男には王都を出て行ったと伝える。できるだけ早く出て行ってくれ」

「ええ、明日皆を埋葬したら王都を出て行くわ。私の手で皆を送り出したいの」

「分かった」


コナーはまた外に行き布に包まれた亡骸を抱きかかえ戻ってきた。


「シャドネー公爵だ」


コナーは私が聞く前に答えた。

私は影を見た。


「伯父様も?」

「俺はあんたの家族をと言った」

「そうね、本当にありがとう。

コナー、伯父様は、」

「分かってる」


コナーが階段を上り少したってから、タイラーの泣き声が静かな邸の中に響いた。

私はワンピースをギュッと掴み握った。


「これで俺の用は済んだ」

「ありがとう。気をつけて帰って」


私は外まで見送った。

荷馬車の御者席に座った影は私を見下ろした。


「何かあれば手を貸す」

「貸し借りはもうないわよ」

「俺個人的に手を貸したい。だから俺はあの男の側にいる。何かあれば直ぐに教える」

「それは危険だわ、だからもう良いの。私は北の離宮で大人しく暮らすわ。だから貴方も奥様と息子さんを悲しませる事だけはしないで、良い?」

「ああ、分かってる」

「ジル、ありがとう。貴方がいて本当に良かった」


荷馬車が動き、闇に消えるまで見送った。


「お嬢」

「コナーはタイラーの側にいて。勿論、お父様とお別れした後で良いから」

「分かった」


私はコナーと一緒に邸の中に入った。


「ミーナ、貴女も疲れたでしょ?もう休んで」

「いえ、私はお嬢様の側にいます」


私はお父様の眠る寝室に入った。

ベッドの上に寝かされ、布に覆われたお父様の亡骸。ベッドのすぐ横に椅子を持ってきて座り私は祈った。

私には祈る事しか出来ない…。


お母様にも知らせの文は送った。お母様も覚悟をして帝国へ行った以上、この国に帰ってくる事はない。

それでもお母様の愛しい人を奪ってしまった…。お母様の兄を奪ってしまった…。


この日、人気のない邸の中で悲しみの声が響き、重苦しい空気が漂った。

皆が己を責め、己の力の無さを悔い、何も出来なかった己を許せなかった。

この先も自分を許す事はない。

何の罪のない人を死に向かわせ、自分は生きている。

私の手元に残った者は絶対に守る。

この命にかえても…




しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜

百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...