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63 いつかまた
しおりを挟む次の日の早朝、ローレン隊を見送る。
「ローレン隊長、お願いね」
「はい。妃殿下もくれぐれも無茶はしないで下さいね」
「ええ大丈夫よ」
「妃殿下が王妃でなくても我々の護る姫は妃殿下だけですから」
「私は王宮の穀潰しよ?」
「それでもです」
「ありがとう。くれぐれも気をつけて。相手は強いわ、戦おうとしないで」
「分かりました」
ローレン隊を姿が見えなくなるまで見送った。
いつかまた、会える時まで……
ローレン隊を見送りその足でアルバートの執務室へ向かった。
コンコン
「リリーアンヌです。陛下、少しよろしいでしょうか」
「ああ、入ってくれ」
執務室の扉を開け私は中に入った。
「陛下、これから私は北の離宮へ参ります。メイドを二人一緒に連れて行く事をお許し下さい」
「それは構わない」
「ありがとうございます」
「ルヴェンド公爵とシャドネー公爵の事はすまなかった。止める事が出来なかった」
止める事が出来なかった?違うわ。貴方は忘れていただけ。皇帝に送る書簡の事で頭がいっぱいでフォスター公爵に『やめろ』その一言を言い忘れただけ。
お父様は覚悟を決めていたわ。でも貴方が『やめろ』と言って処刑を中止させていたらお父様は今も生きていた。生きてタワーム公爵を説得し考えを改めさせたわ。
それに謀反は起こらなかった。
私が止めようがお父様が止めようが、謀反を起こそうと思っていても本当に起こすつもりはなかった。
どれだけフォスター公爵に憎悪を抱いていたとしても、大事な人を暴力で奪われたタワーム公爵が暴力で奪う事はしない。
そんな事をすれば自分もフォスター公爵と同じになるから。
きっとお父様もタワーム公爵の性格を分かっていた。心の中で何を思おうとそれは自由。
だからお父様はタワーム公爵の事ではなく今後起こりうる者達へ、今後祭り上げようと思う者達へ向けて己の命で指し示した。
国が二分すれば犠牲は命
王は神ではないと、王も人間だと、間違いを起こす我々と変わらない人間だと。
お祖父様の死後、どんな王でも王を支えるのが臣下としての役目、そう思い直したと聞いた。
お父様の代になりそれも薄れていった。だからお父様は皆を導く為に、
己の命をかけて教えた。
前陛下の時は対象となる兄弟がいなかった。でもアルバートには対象となる兄弟がいる。
亡き子爵が言った。
『貴女が王になりなさい。その方がこの国はこれからもっと繁栄する』
タワーム公爵が言った。
『リリーアンヌ王妃殿下、私は貴女を王にしたい。この命掛けて貴女を王に私がする』
臣下の心がアルバートから離れていた。私はこの時気付かないといけなかった。
あぁ、私はまた間違えたのね…
お父様は『お前のすべき事は違う』そう私に教える為に命をかけた。
私に気付かせ導く為に。
己の命を引き換えに教えた
今すべき事
帝国から守る事ではなく、離れてもいる臣下の心をアルバートと繋ぐ事。
それが私のすべき事
「皇帝への書簡はもう送りましたか?」
「ああ、早馬で送った」
「そうですか」
アルバートは私を見つめ、私もアルバートを見つめた。
「リリーアンヌ、すまなかった。俺はリリーアンヌに甘えていた」
「そうですね。これからは一人の臣下だけではなく、この国を陛下と共に支える臣下達の心に寄り添い、心に耳を傾けて下さい。
優しい心を持つ陛下なら出来ます」
「分かった」
「上辺の言葉には騙されないで下さい」
「あぁ」
離宮へ旅立つ私に出来る事はもうアルバートの意識をフォスター公爵以外の臣下に向けさせる事しか出来ない。
「もう一度信頼してもらえるように心掛けて下さい。通行料、第二夫人、陛下の信頼は首の皮一枚。その事をお忘れなく」
「分かっている」
「陛下、器は大きくすれば良いんです。臣下の、民の心に寄り添い、心の声に耳を傾けていれば必ず大きく深くなります。
臣下が民が、何を考え、何を求めているのか、
先頭に立ち導くだけが王ではありません。臣下の民の心を守る優しい王。
貴方は貴方らしい王におなり下さい」
「先頭に立ち導くだけが王ではないか…」
「ええ、貴方はまだ王としては未熟。ですが努力する事を諦めない心を、優しい心を持っています。
未熟だからこそ、その姿を見せるしかありません。そうすれば自ずと臣下が民が付いて来ます。その時に先頭に立ち導く王になれば良い」
「そうだな。
それより離宮までの護衛はどうする?」
「私付きの近衛には奥様と子供達を迎えに行かせました」
「ジェイデンの所に居るんだったか」
「はい。奥様と子供達が帰ると言うまで帰って来るなと言ってあります」
「分かった。なら別の護衛を用意する」
「それも結構です。私は離縁された身、もう王族ではありません。それに身内は処刑されました。
私にはすでに護衛がいますから」
「コナーか?」
「はい」
「コナーなら安心か。離宮でもコナーに護衛を頼みたい」
「心遣いありがとうございます」
「今までありがとう」
「私こそ最後までお役に立てずすみませんでした」
「リリーアンヌ、いつかまた会える日を楽しみにしている」
「はい、いつかまた…」
私は間違えてばかり…。
だからアルバート、後は貴方に託すわ。
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