悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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閑話 アルバート視点

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リリーアンヌとタイラーが執務室を出て行った。

一人にしてくれと公爵にも出て行ってもらった。



リリーアンヌの涙…

リリーアンヌの涙を見たのは父上が亡くなった時以来だ。あの時も泣くのを我慢していた。それでもこぼれ落ちた一滴の涙。

リリーアンヌは涙を隠そうと俯き、顔を上げた時には涙が出ていなかった。それを俺はたまたま見ただけだった。

そのリリーアンヌが俺の前で泣いた…




リリーアンヌの言う通りだ。

俺は義父上に見限られるのが怖かった。

リリーアンヌ以外を愛した事、リリーアンヌ以外と子を作った事、失望されるのが怖かった。

父上はいつも政務で忙しかった。義父上をもう一人の父のように俺は幼い頃から慕っていた。父上の相談役として王宮へ来る事が多かった義父上は来ると必ず俺に会いに来てくれた。

幼い頃は抱っこをしてもらった。少し大きくなった頃は頭を撫でられた。優しく笑い俺の頭を撫でてくれるあの大きな手が俺は今でも忘れられない。

第一王子として兄として甘えは許されなかった。そんな俺に唯一甘えを許してくれたのは義父上だけだ。


俺の寂しさを分かってか、リリーアンヌとタイラーを俺の友として与えてくれたのも義父上だ。

記憶も曖昧な2歳頃、義父上の片腕に抱っこされたリリーアンヌ、義父上と片手を繋いでいたタイラー、初めて二人に会ったこの日の記憶だけは今でも鮮明に覚えている。

初めて友を得た。寂しさを埋めてくれる俺だけの友…。

リリーアンヌとタイラーと過ごした幼少時代は俺にとってとても大切な掛け替えのない時間になった。

俺はずっと第一王子だから王になる定め、そう思っていた。王になるには寂しさも甘えも全て一人で乗り越えないといけない。

俺は王になりたくなかった

友を得て寂しさも甘えも一人で乗り越えなくても友が俺と一緒に共有してくれた。俺の寂しさも甘えも許してくれた。

友がいたから俺は第一王子だからではなく自分の意志で、

俺は王になりたい

そう思った。リリーアンヌとタイラーが側に居てくれるなら俺は無敵。二人の存在が俺を強くした。


友情が愛情に変わりリリーアンヌと婚姻した。あの時は俺もリリーアンヌを愛していた。その気持ちは本物だ。

タイラーに、ジェイデンに、リリーアンヌを取られたくない。リリーアンヌは俺の、俺だけのものだ。

そう思っただろ?

いつからリリーアンヌを女性ではなく王妃と見るようになった?

俺は……リリーアンヌが疎ましかったのか?

優秀なリリーアンヌが目障りだと、そう思っていたのか?

俺も優秀だと、俺でも出来ると、

でも実際は………


ナーシャに素晴らしいとか責任感が強いとか憧れとか言われて俺は舞いあがった。

俺だってリリーアンヌには負けていない

そう思った。ナーシャは会う度に俺が立派だと素敵だと俺を褒めてくれる。

第一王子なんだから出来て当たり前、褒められる事が少なかった。俺の努力を分かってくれたのはリリーアンヌとナーシャだけだ。


リリーアンヌは俺を導き前を歩き俺の手を引っ張ってくれる強い女性だ。

ナーシャは俺が守り俺が手を引いてあげないといけないか弱い女性だ。

リリーアンヌは俺が居なくても一人で生きていける。

ナーシャは俺が居ないと一人では生きていけない。


ナーシャに頼られ俺は嬉しかった。愛しい存在だと、俺が守りたい女性だと、

これは男性の性だ

頼られたい、甘えられたい、守りたい、

俺がこの手で



俺は両手の手のひらを見つめた。

どちらの手も離したくない。どちらの手も俺には必要な手だ。

それでも俺には守る民がいる。この手を差し出し救わないといけない民がいる。


手が足りない…



俺は引き出しだから一通の書簡を取り出した。

リリーアンヌには見せなかった帝国からの4通目の書簡…


《約束は違えた。もしお主が忘れていてもだ。我はお主の首と第二夫人の首を奪う》


俺の首とナーシャの首、

俺は必ず回避する。そしてナーシャの腹の中に宿った子と家族で生きる。

その為にはリリーアンヌに頭を下げてリリーアンヌの知恵を借りよう。



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