悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
66 / 107

58 フォスター公爵と対峙

しおりを挟む

「それは出来ません」


執務室へ入って来たのはフォスター公爵。

公爵はアルバートが座る椅子の横に立った。


「出来ない?どうしてかしら」


私は公爵と対峙する。


「ルヴェンド公爵には謀反の疑いがあります」

「疑いだけで地下の牢屋?それはおかしいわ」

「疑いと言っても確信に近い。だから地下の牢屋なのです」

「確信?ルヴェンド公爵は謀反を起こしていないし起こすつもりもない。愛国心が強く王をこれまでも支えてきた臣下だわ」

「前陛下の時はそうでしょう」

「いえ違うわ、それは今もよ。確かに一線を退いた。それは私が王妃として王を支えているから。私を信じ託してくれたの」

「妃殿下はただお父上を庇いたいだけでは?」

「それを言うなら貴方も同じね。元王族のお父様の存在が疎ましいのでしょ?

お父様は王族としてこの国を支えてきた、それは事実だわ。それは誰の目にも明らか。

なら貴方は?

第二夫人の父親、ただそれだけ。それだけしかないのに王宮を国を牛耳ろうとしている。

お父様も王妃の父親、でも元王族のお父様と貴方は立場が違う」


公爵は私を睨みつける。


「地下の牢屋から今すぐ出しなさい。そしたら目を瞑るわ」

「フッ、ならなぜ皇帝は辺境に騎士を集めているのです?

ルヴェンド公爵は帝国との取り次ぎ役。謀反を起こすつもりがないのなら、なぜ、皇帝まで辺境にいるんですかね」

「皇帝が辺境に来ただけでしょ?皇帝が動けば軍も動く。それは当たり前の事よ?

陛下が辺境へ行けば近衛だけでなく騎士団の騎士を引き連れて行くわ。それと同じ。

王は国の顔。その王に何かあっては国は立ち行かなくなる。その為に騎士を大勢連れて動く、違う?

それを謀反と間違えるなんて、ねぇ?」

「なら妃殿下はこの書簡をどう見るおつもりです?」


公爵は執務机にある書簡を私に渡した。

帝国の紋章が施された書簡。私は書簡を広げた。


《これで最後だ。帝国は宣戦布告と受け取りこれより侵略を開始する》


宣戦布告は分かる。でも、これで最後?


「帝国からの書簡はこれだけ?これで最後と書いてある以上今までも書簡を送った、と読み取れるわ」

「帝国からの書簡は3通」

「全部見せて」



《第二夫人を娶るに至った理由を知りたい。御国は王一人に対し妃一人だと周知していたが》

《第二夫人は王妃よりも優秀なのか。王妃よりも実力があるのだな。その実力、我も拝見したい》

《第二夫人を娶った理由が言えぬ程、第二夫人は貴殿にとり大切な存在なのだな》



「これに対し返答は?」

「返答?第二夫人はこの国の事。帝国の皇帝とはいえこんな戯言に付き合うつもりはありません」

「なら返答をしていないの?

貴方が戯言と言ったこの書簡、帝国の紋章が施された書簡は帝国の正式な書簡を意味するのよ!

皇帝の戯言ではなく帝国としての意志!

貴方、もしかしてそれを知らないの?何年公爵をしているのよ!」


王族は勿論だけど公爵家、侯爵の一部、上位の侯爵家には幼い頃から他国の紋章を教える。

他国の紋章を幼い頃から覚えさせるにはきちんと理由がある。陛下に仕える事務官は公爵か上位侯爵と代々決まっているから。次男が事務官になる率は高い。それでも他国の紋章は子供達平等に教え込む。


毎日貴族から届く書簡の中で他国の書簡だけは優先しないといけない。貴族にも各々紋章があり紋章で封をしている。

いち早く見つけ返答する

国を守る為に必要な事だから。一足遅いでは国は守れない。その一足でどれだけの被害が出るか。

昔、戦になった事もあった。後手に回ったこの国は戦に負けた。元は小国だった隣国に負け領土を渡す結果になった。隣国の半分の土地は元はこの国の領土。

その時、陛下の事務官には幼い頃から厳しい教育を受けて育つ公爵と上位侯爵と決まった。


「この書簡、ルヴェンド公爵には見せたの?」


私はアルバートの目を見た。


「それを見せる為に呼んだんだ」

「どうして一通目の時に見せなかったの」

「それは、」

「第二夫人を娶る理由、子が出来る行為をしたと言う事が言えなかった?第二夫人に好意を抱いたと言えなかった?

第二夫人を反対していたお父様に見限られるのが怖かった?」

「………そうだ」

「お父様が第二夫人を反対したのは法で定められているから。アルバートがナーシャ様を愛したなら私と離縁しナーシャ様を王妃にすればお父様は何も言わなかったわ。

お父様は王妃の父親の立場ではなく元王族として王を支える臣下として反対したの。私とアルバートが離縁してもアルバートを見限る事はなかったのよ。

アルバートはお父様の何を見ていたの?」

「ッ!」

「ねぇアルバート、私からの最後のお願いよ?

お父様を処刑しないで。娘としてではなくこの国を支える一人の民としてのお願い。

お父様を処刑したら本当にこの国の未来はないわ…」


私の一筋の雫が頬を伝った。



しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

処理中です...