悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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55 女の勘

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ローレン隊長の邸から塔へ抜ける通路の前。


「お嬢、俺は旦那の所に行くけど大丈夫か?」

「大丈夫よ」


コナーは私を抱き寄せた。


「アルバートの事は諦めろ。お嬢が護る価値もない男に成り下がった」

「うん、分かってる」


コナーに見送られ私とテオは塔に向かった。

裏口から中に入りミレの待つ小部屋に入りミレと女性を騎士に送らせ私は塔を出た。


「ルーク大丈夫だった?」

「はい。行為が始まったら帰って行きました」

「そう」


私室の前にイーサンがいた。


「妃殿下、先程までお楽しみだったようで」

「ええそうね、楽しませてもらったわ。もしかしてそれだけを言うために、わざわざ、待っていたの?イーサンも暇なのね」

「ええ、夜の警備と言っても妃殿下以外は部屋から出ませんから。警備をしている以上妃殿下が部屋に戻るまではこちらも警戒しないといけません」

「あら仕事熱心なのね。でももう良いわ。貴方が私室の前にいると私は部屋に入る事が出来ないわ。お疲れ様」


テオが私室の扉を開け中に入ろうとした時、イーサンが声をかけてきた。


「妃殿下、いつかご自分でご自分の身を滅ぼしますよ」

「あら警告?それとも助言?どちらかしら」

「さあ、どちらでしょうか」

「ふふっ、有り難く受け取っておくわ」


私は顔だけイーサンに向け真っ直ぐ見つめた。


「あっ、そうそう、もうそろそろ産まれるかしら。男児か女児か、無事に産まれたら私にも抱かせてもらいたいわ。

ねぇ、イーサン、貴方からもナーシャ様に頼んでもらえる?

楽しみだわ、待ちに待った子の誕生だもの、ねぇ?」

「……余裕でいられるのは今だけですよ。いずれ、近い未来立場が逆転します。その時妃殿下はどうするんですかね」

「そうね、その時は離宮にでも行こうかしら。御役御免になった元王妃には離宮がお似合いでしょ?」


離宮、王族が離宮へ移る事は幽閉されるのと同じ。完全に俗世と遮断され死ぬまで離宮の中だけで過ごす。離宮には騎士達が配備され監視される。抜け出す事も出来なければ誰かを招く事も出来ない。


「話はそれだけ?ならもう私は部屋に入るわ。疲れたの」


イーサンはまだ何か言いたそうだったけど私は部屋に入った。

イーサン、貴方はまだまだね。言葉につまるようでは私には勝てないわ。

それにナーシャ様は妊娠していない。それを貴方は私に教えたのよ?もし本当に子が出来ていたならアルバートの第一子が産まれるのを心待ちにするはずだもの。

貴方は子の事は何も触れなかった。それが答え。


マイラが言っていた事は本当だったのね。


『王妃様、先程ナーシャ様を見かけたんですが、ナーシャ様は本当に妊娠しているのでしょうか』

『本当の所は私も分からないの。でも妊娠したから第二夫人になったのは確かよ。アルバートの好意は別としてね』

『妊娠したら女性は体つきが変わります。ドレスだと分かりにくいので確かな事ではありませんが、ナーシャ様は妊娠していないと思いました』

『そうなの?』

『女の勘ですが、私も妊娠し出産したので妊婦はなんとなく分かるんです』

『でも私が見かけた時はお腹が大きかったわよ』

『そんなのは何とでも出来ます』


マイラは手に持っていたシーツを丸めてメイド服の中に入れた。


『こうすれば良いだけです』

『確かにお腹が大きくなるわね』

『平民が着る服なら不自然に思えますがドレスはある意味それを隠せます』

『そうね、ドレスは装飾で何とでも出来るものね。レースでお腹を隠す夫人もいるもの』

『はい、布がしっかりしているドレスなら簡単です』


マイラが言っていた事は本当だったみたいね。

イーサン、貴方は悟られてはいけない人に悟らせた。

私には悟らせてはいけなかったのよ?


マイラの話、イーサンの態度、それが意味する事、

ナーシャ様は妊娠していない

第二夫人を賛成した貴族達は子の誕生を楽しみにしている。その子が産まれないと分かったら賛成した貴族達はどうするのかしら。


「王妃様、考え事ですか?」

「少しね」


部屋の中にいたマイラが話しかけてきた。


「お疲れのようなので軽く湯浴みをしてお眠り下さい」

「ありがとう」

「最近お疲れも取れないようですし一度医師に見て頂きませんか?」

「寝れば大丈夫よ。マイラは心配性ね」

「ですが」

「今日は疲れたから早く寝ましょ」


マイラは心配そうな顔をしながら湯浴みの準備に向かった。


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