62 / 107
54 ローレン隊長宅
しおりを挟む私はコナーからローレン隊長に向き直した。
「ごめんなさい、話を戻すわね。お兄様がまだこの国で暮らしていた時にアルバートと約束を誓ったの。次期王二人が王として誓った約束。
私以外の女性に心変わりをしない事、どんな理由でも第二夫人や側室、妾を持たない事、私だけを生涯の妻とし愛す事。
約束を違えた時、宣戦布告と受け取りこの国を滅ぼす。そしてお兄様自らアルバートの息の根を止める。
たかが約束されど約束なの。お兄様は必ずこの国を滅ぼす」
「妃殿下、だから離縁ですか」
「ええ、その方法が一番被害が少なかったの。でももう手遅れよ」
私は姿勢を正しローレン隊長を真っ直ぐ見つめた。
「私はもう全ての人を助けたいとは思わない。それでも助かってほしい人は助けたい。お兄様は平民には手は出さない、護るべき民だから。でも貴族は違う。女性だから子供だからと助ける人ではないの。女性を助ければ慰め者にされる。子供を助ければ己に牙を剥く存在になる。
お兄様が皇帝になり小国を滅ぼした時残ったのは平民だけになったの。帝国の一部になった元小国の平民達はお兄様が信頼する者の領民になったわ。その一つが伯爵領。皇帝の父に叙爵された爵位と領地。
そしてここからが本題よ」
私はローレン隊長の奥様に目を向け、ローレン隊長を見た。
「ローレン隊長、貴方が大切だと大事だと思う者、助かってほしい助けたいと思う者、そして絶対に裏切らない者。その人達に助かり方を教えるわ。
それからこのことは貴方の隊全員に確認して伝えてほしいの」
「分かりました」
「そこには賛成派だったご両親も入ってるのよ」
「いえ、第二夫人を賛成した以上、陛下と共に罰を受けるべきです。それに助かり方を教え父上が裏切らないとは言えません。
私は妻と子供達だけ生き残ってほしい」
「奥様ともきちんと話し合って」
「妃殿下、私も旦那様と同じ意見です。両親は大切です。ですが私は第二夫人を賛成出来ません。私も妻です。もし旦那様に愛人がいるのなら私と離縁しその愛人を愛せばいい。二人の女性を同じように愛せるとは思いません。
他国では法で定められている国もあります。ですがこの国の法では定められていません。貴族が法を破っては示しがつきません。それに、第二夫人を賛成した両親を私は信用出来ません。
妃殿下、貴女が今まで救ってきた人達がどれだけこの国にいるとお思いですか。孤児院の子供達もそうです。領民もそうです。そして今も私達を救おうとしています。
陛下が何をしましたか?
妃殿下の功績の上で成り立っている立場という事を陛下は知るべきです。妃殿下を無下に扱いすぎです。
妃殿下、今日私も同席してほしいと言うのには何か私にしてほしい事があるからですね」
「ええ、ローレン隊長が騎士達に確認した後で騎士達の奥様や子供達を連れて隣国へ避難してほしいの。隣国との辺境でもいいわ」
「避難ですか?」
「正確にはジェイデン王子に助けを求めに行く、かしら。旦那様達が私と愛人の関係にあり助けてほしいと」
「その理由をお伺いしてもよろしいですか」
「一つ、ローレン隊長はじめ騎士達を王宮から帰せないから。私の代わりに動いてほしいの。
一つ、貴女達を迎えに行く体で別任務を頼みたいから。
一つ、ジェイデンにグレイソンを隣国へ連れて行ってもらいたいから。グレイソンを無理矢理連れて行けるのはジェイデンだけなの。辺境伯に言えばジェイデンに伝わるわ。だから辺境でも良いの」
「ですがジェイデン殿下なら手紙でも伝えられると思いますが」
「確実に伝えたいの。手紙だと奪われたら終わりだわ。でも貴女達を襲う事は出来ない」
「ですが女性や子供だけでは賊やその類いの者に狙われやすいと思います」
「きちんと護衛は付けるわ。それに貴女達は貴族夫人。どういう理由で隣国へ向かおうともあの狸は手を出さない」
「分かりました。私達は離縁もあり得ると怒って出て行きます。狸をも化かす狐になりますね」
「ふふっ、ありがとう」
「メイドは連れて行っても良いでしょうか」
「ええ、問題はないわ。ただメイドにも理由は隠してほしいの」
「それは勿論です」
「貴女には奥様達の先頭になってもらいたいんだけどお願いできるかしら」
「分かりました。私も彼女達に口添えをします。ですが妃殿下の悪名が増えてしまいます」
「ふふっ、一つ二つ増えた所で一緒よ。ローレン隊長が騎士達に確認し準備ができ次第出発してもらえる?貴女達を護衛する騎士達もそれまでに揃えておくわ」
「妃殿下、無理だけはしないで下さい。旦那様はじめ騎士達を手足のように使えば良いんです。だから無理だけは絶対にしないで下さい」
「ええ、ありがとう」
「妃殿下はもう一人の身体ではありませんから」
「どういう意味?」
「妃殿下の為に命をかける者がいます。妃殿下を助ける為に動く者がいます。妃殿下を失えば悲しむ者が大勢います。
御身体を大切になさって下さい」
「そうね、自分自身でいたわらないとね」
「はい」
ローレン隊長の奥様はとても優しい顔を私に向けた。
3
お気に入りに追加
811
あなたにおすすめの小説
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。

貴族の爵位って面倒ね。
しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。
両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。
だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって……
覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして?
理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの?
ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で…
嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

政略結婚の指南書
編端みどり
恋愛
【完結しました。ありがとうございました】
貴族なのだから、政略結婚は当たり前。両親のように愛がなくても仕方ないと諦めて結婚式に臨んだマリア。母が持たせてくれたのは、政略結婚の指南書。夫に愛されなかった母は、指南書を頼りに自分の役目を果たし、マリア達を立派に育ててくれた。
母の背中を見て育ったマリアは、愛されなくても自分の役目を果たそうと覚悟を決めて嫁いだ。お相手は、女嫌いで有名な辺境伯。
愛されなくても良いと思っていたのに、マリアは結婚式で初めて会った夫に一目惚れしてしまう。
屈強な見た目で女性に怖がられる辺境伯も、小動物のようなマリアに一目惚れ。
惹かれ合うふたりを引き裂くように、結婚式直後に辺境伯は出陣する事になってしまう。
戻ってきた辺境伯は、上手く妻と距離を縮められない。みかねた使用人達の手配で、ふたりは視察という名のデートに赴く事に。そこで、事件に巻き込まれてしまい……
※R15は保険です
※別サイトにも掲載しています

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。
彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。
そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。
やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。
大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。
同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。
*ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。
もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】フェリシアの誤算
伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。
正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

忘れられた薔薇が咲くとき
ゆる
恋愛
貴族として華やかな未来を約束されていた伯爵令嬢アルタリア。しかし、突然の婚約破棄と追放により、その人生は一変する。全てを失い、辺境の町で庶民として生きることを余儀なくされた彼女は、過去の屈辱と向き合いながらも、懸命に新たな生活を築いていく。
だが、平穏は長く続かない。かつて彼女を追放した第二王子や聖女が町を訪れ、過去の因縁が再び彼女を取り巻く。利用されるだけの存在から、自らの意志で運命を切り開こうとするアルタリア。彼女が選ぶ未来とは――。
これは、追放された元伯爵令嬢が自由と幸せを掴むまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる