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52 娼婦
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「妃殿下、テオです」
テオは約束通り夜私の私室に来た。私は扉を開けテオに抱きつく。テオも私を抱きしめた。
「手筈通りに」
「警備は?」
「人数も配置もいつも通りです」
「そう」
「もう行きますか?」
「そうね、早い方がいいわ」
私はテオから離れた。
「ねぇテオ、いつもの所に行きましょ」
「妃殿下もお好きですね」
「だってあそこは誰にも邪魔されないもの。王宮の外れにあるから二人きりの時間を満喫できるでしょ?それに多少声を出しても誰にも聞こえないわ。でも激しくはしないでね?」
「それは分かりません。妃殿下次第です」
「ふふっ、さあ行きましょ」
テオは私をエスコートして部屋を出た。
「ルーク、貴方も付いてきて」
「はい」
ルークは私達の後を付いてきた。
「妃殿下、どちらに行かれるおつもりですか?」
突然後ろから声をかけられ振り向いた。
「あらイーサン、こんな所でどうしたの?確かまだ謹慎中ではなかった?」
「今日から王宮内の夜の警備だけ復帰しました。夜なら誰にも迷惑はかけませんから」
「あら、私には迷惑がかかるわ。まだメイドが貴方を怖がるの」
「ええ、だから妃殿下の部屋の中には入りませんよ。例のメイド、妃殿下の部屋の中にいますよね?」
「ふふっ、そうね、ここは部屋の外ね。なら迷惑にはならないわね。
私達今から少し部屋を留守にするの。貴方は警備頑張ってね」
イーサンを無視して私達は歩き出した。テオは私の腰を抱き寄せ私の耳元で仲良く話しているように見せかけ、私はテオに笑いかけた。
「まきますか?」
「どうせ付いてくるからこのまま行くわ」
私達は塔の牢屋に着いた。少し後ろを付いてきているイーサン。
「ルークお願いね」
「お任せ下さい」
私達は入口から入り、ルークは外から鍵をかけた。
外からルークとイーサンの声が聞こえる。
「妃殿下、ルークなら大丈夫です」
「そこは心配していないわ。イーサンも無理には何かしてこないだろうから」
「塔の周りには何かあった時の為に騎士達を配備しておきました」
「ありがとう」
塔の入口を入り小部屋に向かった。
「ミレ今日は急にごめんなさいね」
「リリーアンヌ様の頼みですから」
小部屋に入ると若い騎士とミレ、それからミレが連れて来た女性が立っていた。
「では早速塔の上の、本来なら牢屋だけどそこでお願いできる?」
「はい、場所はどこでも」
「男性の事はテオを呼んで。できれば出来るだけ喘ぎ声だけにしてもらえる?喘ぎ声だけなら人の特定は分かりにくいと思うから」
「分かりました」
私は若い騎士の方を向いた。
「貴方にはこんな事を頼んで申し訳ないわね。もし嫌ならふりだけでいいから。女性は商売だから声だけ出してくれると思うわ。貴方もたまに妃殿下と言ってくれれば良いから。でも何度も言わないで。外にはイーサンが居ると思いなさい。声でテオではないと分かっても困るの」
「承知しました。ですが妃殿下、せっかくの機会なので楽しませて頂きます。俺は婚約者も恋人もいません。それになかなか俺の給金ではお相手してもらえない方なので」
「ふふっ、そう、なら今日は思う存分楽しんでね」
「はい」
元気に返事を返す若い騎士。
ミレは娼館を経営している。今日は一番人気の娼婦が来ている。確かに若い騎士の給金では相手にもしてもらえない。一晩買うにもそれなりに高い。
ミレとの出会いは私が王太子妃時代。孤児院へ向かう途中に街で身を売ってるミレ達を見かけた。
私は馬車を降りミレに近づいた。
『街中では禁止よ』
『そんな事知ってるわ。でも仕方がないの。私達はこれで食べてる。稼がないと誰が私達にお金をくれるのよ』
『なら娼館の娼婦として働きなさい』
『その娼館が潰れたから私達は禁止と分かっててこうやって男性を誘ってるの』
『潰れたなら他の娼館に行けばいいでしょう』
『あんたは娼館の娼婦の待遇を知らないでしょ。娼館によって違うのよ。それに私達は余所者。余所者の私達は余計に過酷な環境になる。
私達は娼婦に誇りをもってる。一時の時間にお金を払ってもらい奉仕する。その間は恋人のように愛人のように奉仕し一時の時間を心安らぐ時間にする。
私達は身は売っても心は売らない。皆自らの意志で娼婦になった。誰に売られた訳でも騙された訳でもなく、私達の意志で娼婦になったの。
それに働く環境は私達にとって大事なの。何も分からないあんたは黙ってて』
『なら貴女が経営しなさい。貴女が思うように、娼婦を守りなさい』
『言ったでしょ!私達は稼がないといけないの。田舎に仕送りをしてる子だっているの。娼館が潰れても無料で誰が娼館をくれるのよ』
『その潰れた娼館、私が買うわ。そこで貴女達は安全に守られなさい。こんな街中は危険だわ。そうね、一週間後その潰れた娼館に来て。だからそれまでは街中で売るのはやめなさい。安売りはしては駄目よ。どうせなら自分を高く売りなさい。その一時の時間を高く売りなさい。
ローレン隊長、紙とペンはあるかしら』
『今手元にはありません』
『あの子達に持ってきた物だけど荷物から持って来てくれる?』
ローレン隊長から紙とペンを受け取り私は手紙を書いた。
『テオ、これを公爵家に届けて。貴女お名前は?』
『ミレ』
『ミレ、貴女は公爵家の使いが来たらこれを見せなさい』
『これは…、頂けません』
『でも私は経営出来ないし。それにこれは貴女の誇りに贈るだけ』
『何も返せません』
『ふふっ、何も返さなくていいわよ。でもそうね、娼婦を守るこの国一番の娼館にしてくれる?』
ミレは経営者としてこの国一番の娼婦を守る娼館にした。
私も夫がいる身。娼館を良しとは思っていない。それでも娼館は無くてはならないもの、それも分かっている。
娼婦の働く環境は悪い。お金を払い娼婦を好きなようにする客、過酷な環境でも働かないといけない娼婦、幼いきょうだい達に、両親に仕送りを送る為に嫌嫌娼婦になった者もいる。誰だって娼婦になりたくない。それでもそれしか選択できない。
田舎から出てくる者は文字が読めない書けない者が多い。食堂で働いても仕送りする給金は貰えない。王都ならと田舎から出て来ても王都だから働きたい職に付ける者は少ない。
娼婦に落ちる、と言われるけど娼婦も人。粗末に扱うべきではない。ミレのように娼婦にも誇りを持ってほしい。
その一つになれば…。
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