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51 言葉の意味
しおりを挟むコンコン
「妃殿下、テオです。開けます」
扉が開いた。
「テオ」
私はテオに抱きついた。
「ひ、妃殿下」
私は少し離れ視線を天井に向けた。
「今日の護衛がテオで嬉しいわ」
「俺もです」
「テオ」
テオを私を抱き寄せた。
私はテオのポケットに紙を入れた。
「ねぇテオ、今日の夜の護衛は誰?」
「今日はルークです」
「なんだ、恋人もいない若い騎士だと良かったのに、ルークなのね、残念」
「夜のお相手ですか?」
「そうよ」
「それなら俺をお選び下さい」
「テオを?そうね今日はテオにお願いしようかしら」
「嬉しいです」
テオは私を抱きしめ私の肩に顔を埋めた。
「手筈を整えておきます」
「お願いね。ミレなら協力してくれるから」
お互いにしか聞こえないように耳元で話す。
テオは私から離れた。
「では夜を楽しみにして護衛に戻ります」
「ええ、今日もお願いね」
私は本を読みながら久しぶりに私室で過ごした。
コンコン
「妃殿下、テオです。タイラー殿がお見えですが」
「入って」
扉を開けてタイラーが入って来た。私が座るソファーの横にタイラーは座った。
「どうしたの?」
「たまには愛人が顔を出さないとその座を誰かに取られるしね」
「ふふっ」
「プッ」
私とタイラーはお互い顔を見合わせ笑った。
「それで?愛人が私の私室に来たのは何のご用かしら?」
「それがさ父上が母上と離縁したんだけど母上が邸から出て行かないんだ。父上も僕ももうお手上げでさ、ここはコナーの出番かと思って。
コナーを少し貸してくれる?無理矢理追い出してもらいたくて。公爵家の騎士達は尻込みしちゃって、でもコナーなら尻込みしないからね」
「分かったわ。コナーなら伯母様の圧にも屈しないもの」
「だろ?」
伯父様と伯母様の離縁。それだけ今は深刻だとタイラーはわざわざ言いにきてくれた。
お父様は私が心配するような事は言わない。私が先走り無茶をすると分かっているから。
「まぁ、コナーなら無理矢理追い出すと言うより言葉巧みに母上を説得すると思うけどね。コナーはああ見えて無茶はしないから」
タイラーは私を真っ直ぐ見つめた。
「そうね、無茶はしないわ」
私もタイラーを真っ直ぐ見つめた。
その意味は分かる。『何があっても無茶はするな』と私に釘を差している。
きっとお父様がタイラーに頼んだ。これから何かがあると、その何かの為に無茶はするなと。
「リリーアンヌ、抱きしめていい?」
「いいわよ」
私は両手を広げた。
タイラーは私を抱きしめ私の肩に顔を埋めた。
「黒が赤の所に着いた」
タイラーは耳元で囁いた。
私はタイラーの背中に回した手をトンと叩いた。
「青と黄も一緒だ。白はもう入ってる」
私はタイラーの背中をトンと叩いた。
タイラーは私から離れた。
「僕はコナーが心配だよ。母上の意志が強いからね。もう誰が何を言っても無駄だ。でも優秀なコナーなら無茶はしない。そうだろ?」
「そうね」
「僕は母上の意志を尊重したいと思っているよ。僕は母上の気持ちも分かるから。僕だって近くで見てきたんだ。母上がどれだけ大切に思っているのか。どれだけ家族の絆を大事にしているのか。
僕は父上が許せないよ。心変わりをした父上を母上が怒るのは無理もない。
それに強い意志の前では誰も逆らう事は出来ない。それだけ心を決めた人の心を動かすのは簡単じゃない」
タイラーは私の手を握った。
「リリーアンヌ、父上を護ろうとするな。この先父上が母上に刺されたとしても、それは父上の自業自得だ。妻がいる身で他の女性に好意を持った父上の自業自得だ。
己の罰は己で受けるしかないんだ」
タイラーが真っ直ぐ私を見つめる。その瞳から強い意志が感じられた。
「これは母上と父上の問題だ。他が口出す問題じゃない。二人で解決する問題なんだ」
その言葉が意味する事。
コナーは私。母上はお兄様、父上はアルバート。
「いいかい?母上の意志は強い。誰が何を言おうともだ。僕も今回は成り行きに任せるつもりだ」
「そうね、私も成り行きに任せるわ」
タイラーが出ていき私はまた本を手に取った。さっきまで読んでいたページを開き読み始めた。数行読んで私は本を膝の上に置いた。
お兄様が辺境に着いた。レガンス兄様がこの国へ入って来てるという事は声明を出したら迷いなく王都を攻める。辺境での戦いはあっという間に終わる。辺境から王都まで1ヶ月かかるかかからないか。
途中少し遠回りになっても領地を堂々とは通らないと思う。抜け目がないレガンス兄様が目立つ行動はさせない。王都間近までは…。
王都間近になり皇帝が攻めてきたと分かっても、すでに逃げ道を塞いでいると思う。王都を王宮を一斉に袋叩き、私ならそうする。
騎士が多くいるのは辺境を除けば王都と王宮。闇に隠れて王都を塞ぐ事は造作もないもの。
帝国が攻めてきているという情報がなければ通常通りの警備。夜の警備は日中よりも少ない。夜ほど狙いやすい時はない。
成り行きに任せる、か…
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