悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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49 コナー ①

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1ヶ月後コナーが帰って来た。

コン

天井にはいつもの影。

夜遅く私室に入って来たコナーと向かい合い座る。


「コナーどうだった?」

「おっさんも止められないらしい」

「そう…」


私はコナーにトネードの所に行ってもらいお兄様を説得する為にトネードに力になってもらおうとした。

だけどそれも失敗した。


「それよりお嬢、顔色が悪くないか?」

「そう?」

「無理はするなよ」

「ええ、ありがとう。今日はコナーも休んで」


私はベッドで横になり、コナーはソファーに横になりお互い目を瞑った。

それでもお互い眠る事は出来ない。


「お嬢寝たか?」

「どうしたの?」

「おっさんが言うにはあいつを止めたいのならくそ餓鬼の首を持ってこい、それで事済。だとよ」

「そうよね…」

「なあお嬢」

「ん?」

「俺がいない間に何かあったのか?」

「別に何もないわよ」

「……そうか。なら良い」


コナーが入って来てマイラは自分の部屋に戻った。夜も更けた時間にマイラがこの部屋にいるのがコナーは気になったんだと思う。

それでもアルバートとの事はコナーには言えない。言ったらコナーは今すぐにでもアルバートの首を落としに行く。

お兄様と匹敵するくらい絆を護るから。


「コナーと出会ってもうすぐ20年ね」

「だな」



コナーと出会ったのはお父様と一緒に行った帝国の宮廷からの帰りの帝国側の辺境だった。

男爵領で2泊した私達は昼頃辺境に着いた。一緒に同行していた公爵家の執事のハリーは出国と入国の手続きに行き、お父様と私達は辺境の街で昼ご飯を食べる事にした。辺境の街は屋台が多く、私達も屋台の料理を食べる事にした。

お父様との旅は貴族が行く料理店よりも街の食堂で食べる事の方が多かった。

『平民が食べる物で国が分かる』

お父様の持論は正しかった。栄えてる街と栄えていない街では食の質も違う。扱う材料も違う。

帝国は元々小国を落として大きくなった国。地方によって味付けも違う。同じ国の中で貧富の差も激しい。辺境でも路上で暮らす人が目に付いた。

それでも辺境は栄えてる方。人の行き来があり人の流れはお金の流れを生む。


私達は屋台で簡単に食べれる大きめのパンに好きな具を挟んだものにした。


「おにいちゃんたべないの?」

「これは安全か」


私は一口食べた自分のパンと交換した。


「わたしがたべてもだいじょうぶなんだからこれはあんぜんだよ」


男爵領でもお兄様は一口も食べなかった。

一口、一口と少しづつ食べ始めたお兄様の横で私はお兄様のパンを食べた。『お前と同じ物で良い』と言ったお兄様。好きな物を好きなだけ食べれるようになってほしい、そう思った。


食べ終わった私はゆっくり食べるお兄様の横で手持ち無沙汰にしていた。『ふぅ』とお兄様はパンを膝に置いた。

その時お兄様のパンをひったくりものすごい勢いで食べたのがコナー。


「こら!だめよ。それはおにいちゃんのなんだから」

「うるさい!」


コナーは私を睨みつけた。

私はコナーの手を引っ張ってお兄様から離れた。


「はなせ!おれをどうするつもりだ」


暴れるコナーの手を離さなかった私は屋台の前にコナーを連れて来た。


「すきなぐをはさめるの。あなたはなにをはなみたいの?」

「は!?おれはかねはない」

「おにいちゃんのぶんをかうからいっしょにえらんで」

「は!?なんでおれが」

「おにいちゃんのぱんをたべたでしょ」

「チッ!」


コナーは沢山具を挟んだ。私はお金を払いお兄様の待つベンチに戻った。私はずっとコナーの手を離さなかった。


「ほら、おにいちゃんにごめんなさいして」

「チッ、わるかった」

「あ、ああ…」

「はい」


私はコナーが選んだパンをコナーに渡した。


「これはこいつのだろ」

「これはあなたのよ?きちんとごめんなさいができたごほうび。あなたがえらんだあなたのぱんよ」


コナーは私の手からひったくるようにパンを取り勢いよく食べた。


「おにいちゃんももうごちそうさましたかったけど、のこせないからむりしてたでしょ?」

「……ああ」

「おにいちゃんもむりしてたべなくてもよかったのよ?もうたべれないならわたしがたべたのに。でも、このこがおにいちゃんのかわりにたべてくれたからのこさなくてよかったね」


私は笑顔でお兄様と勢いよく食べているコナーを見つめた。


パンを食べたコナーは落ち着いたのか逃げようとしたから私はコナーの手を繋いだ。


「はなせ!おれはきたないぞ」


コナーはボロボロの服で全身汚れていた。


「ならわたしといっしょね。わたしもきのうゆあみするのめんどうで、はいってないの」

「おまえとはちがう」


私を睨むコナーを無視して私は話した。


「あなた、ごりょうしんは?」

「……しんだ」

「……そう。ならひとり?」

「ああ、にいちゃんもしんだ」


コナーは帝国でも戦に負け帝国に属した元小国の民の特徴である赤い髪とブラウンの瞳だった。


「わたしはリリーアンヌよ。あなたなまえは?」

「コナー」

「としは?」

「7」

「わたしより2さいおにいちゃんね」


コナーはふてぶてしい態度をとっていた。それでも憎めない、そう思った。それにこのままここに置いて行く事は出来ない、そう思った。


「ねぇコナー、わたしといっしょにこない?わたしね、となりのくにですんでるの。いっしょにとなりのくににいきましょ?」

「おれにはむりだ」

「どうして?」

「ここからはなれられない」

「ここがすきなの?」

「まさか!こんなところきらいだ!」

「ならどうして?」

「おれにはしょうめいしょが、ない…」


帝国に住むには証明書がいる。簡単に申請できるものだけど当時のコナーでは申請は難しかった。そして証明書がないと出国も出来ない。


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