悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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48 合意か否か

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「王妃様、とりあえず何か羽織りましょう」


マイラは別の寝間着を持ってきて私に着させてくれた。

頬を伝う涙が枯れることはない…。

それでもアルバートをこのままにしておく事も出来ない。


「マイラ、今日の護衛はまだ若い騎士なの。きっとアルバートをどう扱っていいか分からないわ。夜勤勤務の騎士達の部屋に今日はマックス隊長がいるはずだから呼んで来てくれる?」

「分かりました。ですがお一人で大丈夫ですか?」

「大丈夫よ」

「急いで呼んで参ります」


マイラが出て行き、部屋の前の騎士達はどうして良いのかウロウロしている。


バタバタと足音が聞こえ、マイラと一緒にマックス隊長が部屋の中に入り扉が閉められた。


「妃殿下」

「マックス隊長、申し訳ないんだけどアルバートを連れて行ってくれないかしら」

「分かりました」


マックス隊長はベッドにうつ伏せで寝ているアルバートに近付きアルバートを仰向けにさせた。

マックス隊長の動きが止まり、私と目が合った。

アルバートはズボンの前だけ寛げ男根が出ている。マックス隊長は男根を下着の中に入れ、少し下がっていたズボンを戻した。

私の寝間着を確認し部屋の外にいる騎士達を呼んだ。

入って来た騎士達とマックス隊長はアルバートを両脇に抱え部屋から出ていった。


アルバートが居なくなった部屋にはお酒の匂いが残っている。私はベッドの端からソファーに移動し座った。

マイラは私の前に両膝をついて座り私の手を両手で包み私を見上げる。


「リリーアンヌ様、湯に浸かり体を洗いましょう」

「そう、ね……ううっ……」


マイラは立ち上がり私を包みこむように抱きしめた。


「私しか居ません。思う存分泣いて下さい」


マイラは私の背中を優しく撫でてくれた。


「私がもっと早く気づけていたら…、すみません」


私は顔を横に振った。

夜も遅い。寝ていたマイラが気づいてくれただけで、それだけで良い。不運が重なった、ただそれだけ…。

アルバートが私を愛していないのも知ってる。ただ間違えられただけ…。

酔っていた

それでもナーシャ様の名を呼んで間違えられた私の心をアルバートはズタズタにした。



コンコン


「はい」


マイラが部屋の中から返事をした。


「妃殿下、マックスです。少しよろしいでしょうか」


マイラは私の顔を見た。私は黙って頷いた。


「今開けます」


マイラは扉を開け、マックス隊長は部屋に入ってきた。


「妃殿下、陛下を執務室へ送り届けてきました」

「そう、ありがとう。休憩中の所をごめんなさいね」

「妃殿下、こんな事を聞くのは申し訳ないのですが、確認だけは必要なのでよろしいでしょうか」

「ええ、どうぞ」

「陛下の状態から夫婦の営みが行われたのは間違いありませんか」

「フッ、夫婦の営みね…」


私は自嘲の笑みを浮かべた。


「ベッドは乱れていますが」

「そうね、営みはしたわ。でも夫婦としてではないわ」

「それは合意ですか」

「合意…、私がナーシャ様なら合意ね」

「妃殿下それは、」

「私はナーシャ様と間違えられただけよ」

「寝間着が乱雑に脱ぎ捨ててありましたが、もしかして」

「ええ、無理矢理よ。アルバートは酔っていて私の話を聞いてくれなかったわ。抵抗してもやめてくれなかった」


私は赤くなった手首を見た。


「陛下にこのことは、」

「何も言わないで」

「ですが」

「なら無理矢理強姦されたって言えばいいの?私達はまだ夫婦だわ。それに私はナーシャ様に間違えられたって言うの?そんな事を言ってどうなるのよ。

すまないって?間違えたって?謝られるの?


それこそ私は、……惨めだわ…」

「分かりました。夜勤勤務の騎士達には箝口令を敷きます。妃殿下の私室の外の護衛はローレンの部下、噂が広がる事はありません」

「ありがとう。マックス隊長、悪いんだけど少し休みたいの…」

「分かりました。外の騎士達には誰一人部屋にいれるなと厳しく言っておきます」

「お願いね」


マックス隊長が部屋から出て行った。


「リリーアンヌ様、これからは私がずっとお側にいますから」

「ありがとうマイラ」

「今日は少し狭いですが私の部屋で休みましょう。この部屋に居てはゆっくり体を休める事も出来ません」

「そうね…」


私は湯に浸かり体を洗った。抵抗した跡なのか背中が少しヒリヒリした。

着替えをし、私の私室の隣にあるマイラの部屋に入り、二人で寝るには少し小さいベッドでマイラとくっついて横になった。

マイラの部屋は隣といっても、間には私の衣装部屋があり私の声がこの部屋まで聞こえたとは思えない。きっと廊下にいる騎士達の声で気がついてくれた。


不運

その一言で片付けられない事だけど、

不運

その一言でしかない。


    
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