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42 アダンお兄様
しおりを挟む帝国の皇帝のアダンお兄様とは私が5歳の時から8年間一緒に公爵家で暮らした。
お兄様は帝国の前皇帝の第4皇子として産まれた。お兄様のお母様は第5夫人。
お兄様のお母様は元々宮廷で働く下働きだった。男爵領民だったお母様はお金を稼ぐ為に下働きとして宮廷に入った。
本来なら皇帝から目に付く所では働かない。見目麗しいお母様は宮廷の騎士達の話の種になった。それを聞いた皇帝が気まぐれで抵抗するお母様を無理矢理強姦した…。
気まぐれで抱いた下働きに子ができ皇帝は仕方なく妾にした。妾になったお母様に与えられたのはボロボロの小屋。
小屋で子を産み、その子が男児。第4皇子として皇帝は認めた。
皇子として認める、それだけなら良かった。お兄様は黒髪、黒目を持ち産まれた。
帝国は昔からの言い伝えで、神が選んだ黒髪黒目以外が皇帝になれば帝国は滅びる。神の付与が付いた黒髪黒目の男児が次期皇帝になると定められている。一代に一人しか産まれない黒髪黒目。皇帝自身も第3皇子。黒髪黒目で産まれ皇帝になった。
産まれた瞬間から次期皇帝になったお兄様。次期皇帝を産んだお兄様のお母様。平民のお母様は妾から第5夫人になった。ボロボロの小屋から宮廷の一室、それも次期皇帝の部屋で暮らす事になった。
それを面白く思わないのは皇后と第2夫人から第4夫人。お兄様のお母様は度重なる嫌がらせをされ続けた。皇后は第一皇子を産んだ。それでも黒髪黒目ではなかった。もしお兄様が産まれなければ第一皇子が次期皇帝になっていた。
『言い伝えなんて当てにならない』
なかなか黒髪黒目の皇子が産まれない皇帝はそう言った。
それでも皇帝は黒髪黒目のお兄様が産まれ泣いて喜んだ。次の世を繋ぐ子を自分も残せたと。
皇后達は反対した。平民の子を次期皇帝にするわけにはいかないと。他国出身の皇后達には言い伝えなど所詮絵空事に過ぎないと。
それでも帝国で産まれ育った皇帝は絵空事ではないと皇后達の言葉に耳を貸さず生後1ヶ月でお兄様を次期皇帝として民にお披露目した。民は喜んだ。これで次の世も安泰だと。
皇后は自分が黒髪黒目を産むんだと子を産んだ。それでも産まれてきたのは黒髪黒目の男児ではなかった。お兄様が産まれた以上黒髪黒目はもう産まれない。
皇后や他の夫人達は益々お兄様のお母様を目の敵にした。
平民のお母様には後ろ盾はない。あるのは次期皇帝のお兄様と帝国民。他国の王女の皇后達に敵うわけもない。
お兄様のお母様は皇后や夫人達の指示で遂に食事に毒を盛られた。お兄様が5歳の時、殺された。お兄様も度重なる毒を盛られ何度生死を彷徨ったか分からない。皇子や皇女達からは暴力を振るわれた。それでも生きてこれたのはお兄様には神の付与が付いているから。
私が5歳、お兄様が10歳の時、お父様と帝国に訪れた。お父様が皇帝と話をしている時、私は別室で待たされた。暇になり別室を抜け出し宮廷を見て回った。その時導かれるように手を引かれた感じがした。連れて行かれた所に、蹲り毒を吐き出しているお兄様を私が見つけた。
私は慌ててお父様の所に向かい訴えた。
『おとこのこがしんじゃう。あのこはいきないといけないこなの。かみさまがいってた、このこをたすけてあげてって。わたしたのまれたの』
どうしてそう言ったのか今でも分からない。それでもお兄様を守ってた人が見えたのは本当。その人が私の心に訴えてきたのかもしれない。
『このままではいつか本当に死んでしまう。次期皇帝を失えば帝国は滅びる。自ら戦う術ができるまでこの子を隠してほしい』
お父様は皇后達からお兄様を護る為に皇帝からお兄様を預かった。
それから私とお兄様は兄妹のように育った。お父様もお母様も我が子のように接した。良い事をすれば褒め、悪い事をすれば叱る。抱きしめ愛情を注いだ。
お兄様はお父様とお母様を本当の親だと思っている。そして私を妹だと、ライアンを弟だと、私達は家族。お兄様はその絆をとても大切にした。
お兄様は絆を最も大事にする。幼くてお母様を護れなかったからかは分からない。自分が認め懐に入れた者は必ず護る。恩義は人一倍持ってる人。その分他者には無慈悲。
お兄様にとって善はお父様お母様、私とライアン。公爵家で一緒に過ごしたタイラー、叔父様叔母様カーター。そして守護神、コナー、帝国の民。それから力なき平民。
悪はその他大勢。
皇帝になっても貴族には無慈悲。暴君と呼ばれようが己の信じる道を突き進む。護るべき者は自らが認めた者だけ。認められた者の中には勿論貴族もいる。
お兄様が18歳。帝国へ帰る時私に言った。
『リリーアンヌ、俺は必ず同じ目に合わす。無慈悲と言われようが何の罪もない者が殺されるのは母様だけで十分だ。
お前もいずれ王妃になるなら見極めろ。善か悪か。悪と思ったのなら無慈悲にならないと自分が殺られる。心を許すな。慈悲など持つな。
だがな、善と思ったのならとことん護りきれ。その者達はお前の味方になる。何かあった時、その者達がお前の盾になる。善と思った者の手を離すな。
お前は俺の可愛い妹だ。そして命の恩人だ。お前に何かあれば直ぐに駆けつける』
私は泣いて『帰ったら嫌だ』と言った。それでもお兄様は『俺は皇帝としてするべき事がある』と言って帰って行った。
帝国へ帰ったお兄様は皇帝に引導を渡し皇帝になり、皇后や夫人達、皇子皇女達を始末した。同じ目に合わすと言った通り毒を盛って。それから小国の王女だった皇后や夫人達の国を滅ぼした。
『剣を向けるなら容赦はしない』
お兄様の口癖。
お兄様は周辺諸国から『冷酷な皇帝、黒い悪魔』と呼ばれるようになった。
そして、
『妃が何人もいるから次期皇帝の俺を産んだ母様は殺された。妃が一人なら俺は産まれなかったし母様は死ななかった。俺は妃を何人も娶る奴は信じられない。一人の妃を大事にしない奴が国を民を大事にできる訳がない。
リリーアンヌ、あのくそ餓鬼が約束を違えた時、俺はお前を奪いにくる。その時は俺の妻になれ』
そう言って帰って行った。
お兄様は第二夫人を娶ったアルバートを許さない。離縁しお兄様を止めに行き、妻になるかならないかは別の話。
今はお兄様を止める。それしかこの国が助かる方法はないの。
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