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38 影
しおりを挟むミーナとマイラは片付けをし私室から出て行ってもらった。
少し一人になりたい
そう言うと、また後ほどと言い私を一人にしてくれた。
カーテンを開けると大きな木が目の前に立っていた。そのため昼間でも薄暗い部屋に明かりを灯す。
窓を少し開け私はソファーに座った。
キー
背中側の窓を開ける音に私は耳を澄ました。
「お嬢」
私は振り返り、
「コナー、よく入って来れたわね」
「これだけ大きな木があれば隠れ蓑には持ってこいだろ?」
「確かにそうね」
「お嬢どうした」
「コナー、少しの間だけ隣に座って肩を貸してくれない?」
コナーは私の隣に座った。私はコナーの肩に顔を傾け、目を瞑る。
自然と流れる涙
私は王妃と言う肩書だけもらい王妃の仕事だけをさせる存在。アルバートは愛してると言った。それでもこの待遇は愛してる人に与えるものじゃない。
アルバートは第二夫人のナーシャ様を王妃だと思っている。それでも実力がない。だから私とは離縁しない。
私は籠の中の鳥と同じ。自由に飛ぶ事も逃げ出す事も出来ない。自分が可愛がりたい時だけ可愛がる。
「ふっ、ふふっ、ふふっ、ふっ、ははは、ははは、ははは、は……」
私は声を殺して泣いた。
暫くしてコナーが私を退け、
「お嬢、ちょっと待ってな」
立ち上がり天井を動かした。物音がして天井からコナーともう一人、
コナーが羽交い締めしている男に私はコナーの腰にある剣を抜いた。
その剣を男の首筋にあてる。
「誰の指示」
何も言わない男の首筋に血が流れた。
「アルバート?それともイーサン?なら、公爵?」
公爵と言った時だけ微かに眉が動いた。
「貴方の主は公爵なのね。それで?私を監視して何がしたいのかしら。貴方の亡骸を公爵へ贈れば公爵も私が馬鹿じゃないのが分かるのかしら。
コナー、この男を殺して」
コナーが男の腕を締め上げ私から剣を受け取る。
「ま、待ってくれ」
「コナーちょっと待って。で?なあに?」
「妃殿下がこのような事をして良いのですか?」
「あら、不審者を殺して誰に咎められると言うのかしら。貴方が公爵の指示で私を監視する影だとしても、私には私の私室を覗く不審者だわ、違う?
貴方達影も私を見くびり過ぎよ?私、剣を扱う事にはなれているの。それに私の敵に容赦はしないわ」
「許してほしい」
「許す?貴方馬鹿なの?敵を前にして誰が許すの?今貴方を許して逃がせば貴方は有る事無い事公爵に言うでしょ?なら口を塞ぐのが一番。死んだらものは言えないもの。それに公爵だって死んだ貴方に価値はない。そこらへんに捨てられて終わり。
もう最後の無駄口は終わったかしら。何か言い残す事があれば言っていいわよ?そのくらいの慈悲は持ってるわ」
「俺には産まれたばかりの息子がいるんだ」
「だから?私には関係ないわね。貴方の奥さんが、貴方の息子が、路頭に迷おうが私には関係ない。
あ、公爵が面倒を見てくれるわよ、きっとね。
じゃあ、さよなら」
コナーが剣を上げた。
「頼む、助けてくれ。何でもいう事と聞く」
「あら、命乞い?」
「そうだ、頼む。公爵が面倒を見てくれる訳がない」
「そうかしら」
「あの公爵だ、妻は娼館に入れられて息子は売られる」
「まあ、そこまでする?あの人あれでも公爵よ?」
「本当だ。第三王子を暗殺しようとして失敗した奴は次の日には川に浮かんでいた。その奥さんは娼館へ売られ子供達は売られた」
「あの公爵、グレイソンにまで手をかけたの?」
「ああ」
「馬鹿ね、グレイソンに付いてる影はお父様が直々に付けた影よ?それこそ先鋭揃い。影の訓練を受けて鍛えた人達よ?」
前まではアルバートにも付けていた。お父様はアルバートから影を外した。
私には影を察知する能力がある。それは幼い頃から鍛えられたから。それに剣の腕も。だからお父様は私には付ける必要がないと判断した。
それに今はコナーも側にいる。
アルバートに付けていた影達は今はライアンに付いている。帝国にいるライアンに何も手出しはできない。それでも念の為に。
「貴方を助ける変わりに条件があるわ」
「何でも聞く」
「なら貴方は今までのように公爵の元で影をして私を監視しなさい。
ただ、
公爵には何も言わないと約束して。公爵へ報告する内容は私が予め決めるわ。それが出来るなら助けてあげる。どうする?」
「分かった、約束する」
「もし裏切ったら貴方の奥さんと息子の命はないと思いなさい。貴方の奥さんと息子を探すのなんて私には簡単なの。
嘘だと思う?街には私の隠密もいるし、私に協力してくれる人は多いのよ?それこそ毎日買い物に行く商店、にいるかもしれないわ。貴方の隣の家、かもしれない」
「分かった」
「コナー離してあげて」
コナーは男を離し、
「約束よ?」
男は天井裏へ戻った。
「あぁ、私、今日は疲れて寝ていたわ」
コン
返事があった。
「お嬢良いのか?」
「ええ、これで良いのよ。それと奥さんと息子の保護をお願い。一応念の為に」
「分かった。探せば良いんだな」
「ええ、お願いね」
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