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37 平行線の話
しおりを挟む王宮へ着き、私はアルバートの執務室へ行った。イーサンの静止を無視し執務室へ入る。
執務室の中にはフォスター公爵が居た。
「おや妃殿下お帰りでしたか」
「ええ、今帰ったの。それよりフォスター公爵、申し訳ないんだけど陛下と二人きりで話がしたいの。少し席を外してもらえないかしら」
「ええ、私は席を外します。久しぶりの夫婦水入らずの時間です。邪魔者は退散しましょう」
「あら助かるわ。フォスター公爵は案外話の分かる人だったのね。今度ゆっくり話がしたいわ」
「私も妃殿下と今度ゆっくり話がしたいです」
「また今度、ゆっくりと、ね?」
「ええ、また今度ゆっくりと」
公爵が執務室を出て行き、執務室にはアルバートと二人。私はアルバートが座る机の前に立ちアルバートと見つめ合う。
「今戻りました」
「疲れただろう。今日はゆっくりしてくれ。明日話を聞く」
「話は直ぐ済みます。陛下、私と離縁して下さい」
アルバートは勢いよく立ち上がった。
「何故だ!」
「なぜ?それは陛下が一番良く分かっていると思いますが」
「俺はリリーアンヌとは離縁しない」
「では私も勝手に離縁します」
「そんな事許さない」
「許さない?ならなぜ、私の了承もなしに第二夫人を娶ったのです?」
「それは、」
「私は陛下とは一対、そう思っていました。ですが、第二夫人を娶ると言うのも陛下から聞かされませんでした。
なら、私はもう陛下にとって用済み。用済みらしく陛下の側から身を引きたいと思います」
「それは困る」
「困る?なぜ?第二夫人のナーシャ様に王妃になって頂けばよろしいかと。第二夫人は王妃が留守にしている時の代わりです。だからこそそれなりの権限を持ちます。
なら、私が居なくても第二夫人のナーシャ様が陛下を支え側に居ればいい」
「俺はリリーアンヌに側に居てほしい」
「あら、陛下もご冗談を言うのね。愛してもない私を側に置く理由はないかと思いますが」
「俺はリリーアンヌも愛してる。ただ、ナーシャの方がリリーアンヌよりも愛してるだけだ」
「そんなのは愛じゃない。
陛下、それを心変わりと言うんですよ?」
「俺はリリーアンヌを愛してる。離したくない、その気持ちは本当だ。リリーアンヌはずっと俺を支え側に居てくれただろ?これからも俺を支えてくれないか」
「陛下のご寵愛も頂けないのに?ナーシャ様と仲良く陛下を共有しろと?私をどこまで馬鹿にするおつもりです」
「俺はリリーアンヌを馬鹿になどしていない。それに邪険にもしていない。俺の隣にはリリーアンヌしかいないんだ」
「ただ陛下の横で黙って座っていろ、と陛下はおっしゃりたいのね。王妃として貴族の相手をし、王妃として面倒な仕事を押し付け、王妃として王妃の座を与えておけば私が納得するとお思いなのですね」
「違う!俺は本当にリリーアンヌが必要なんだ、信じてくれ」
「陛下の何を信じろと言うのです。先に私の信用も信頼も裏切ったのは陛下です。
私の望みは離縁して頂く事です。離縁して頂けるまで私は何も致しません。第二夫人のナーシャ様と二人で力を合わせて政務を行えば良いと思います。私は口出しは致しません。
では長旅で疲れたので体を休めます」
踵を返して私はアルバートの前から立ち去ろうとした。
「リリーアンヌ待ってくれ!俺を、俺を捨てるのか…」
私はアルバートに背を向けたまま
「捨てる?捨てられたのは私の方です。
貴方を信じた私が馬鹿だった。貴方を愛した私が馬鹿だった。貴方の夢を、叶えようと努力してきた私が馬鹿だった。私がしてきた事は何もかも無駄だった…。
私はもう用済み…。アルバートに捨てられたのは私よ…。これ以上私を惨めにしないで、お願い……。
……ごめんねアルバート、もう私はアルバートを側で支える事は出来ないわ……」
そのまま執務室から出て私室へ戻ると私室の前にはマックス隊長が立っていた。
目が合ったマックス隊長は気まずそうな顔をし私から顔を背けた。
私はマックス隊長に近付き、
「私は自分の部屋に入りたいだけよ?長旅で疲れたの。早くベッドで横になりたいのよ」
「ッ、妃殿下、申し訳ありません。こちらの部屋は第二夫人ナーシャ様の私室です」
「この部屋は歴代王妃の私室。いつから第二夫人の部屋になったの?」
「それは…、すみません」
「なら私の部屋はどこ」
「ご案内致します」
私はマックス隊長の後ろを付いて行く。
「ねぇ、ボビーの姿が見えないんだけど、どこにいるの?」
「陛下の執事だったボビー氏は解雇されました」
「解雇?なぜ?」
マックス隊長は振り返り辺りを確認してから私の耳元近くで、
「第二夫人を反対したので」
「そう。分かったわ」
マックス隊長はまた前を向いて歩き出した。一番端の部屋の前、
「妃殿下の私室はこちらです」
「ありがとう」
部屋の中に入るとそっくりそのまま私の私室だった。
ミーナが慌てて入って来て、
「妃殿下、妃殿下付きの侍女もメイドも第二夫人付きになりました」
「ミーナは?」
「私は変わりません。妃殿下付きです」
「良かった。ミーナとマイラ、私は二人だけで良いわ。これからもよろしくね」
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