悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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30 タイラーの手紙

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私は早朝、子爵が眠る丘に行こうと部屋を出た。部屋の扉の前に仁王立ちで立っていたのは、


「ルークどうしたの?」

「隊長の予想通りですね。妃殿下、また一人で丘に行こうとしてましたね」

「丘には行こうとしていたけど、誰か居たら声をかけるつもりだったわ」

「誰も居なかったらどうしてました?」

「それは、まあ、ね?」

「はあぁ」

「ごめんなさい」

「いいですけど声はかけて下さい」

「起こすのも悪いし、男性の部屋を覗くのも、ね」

「それは分かりますが」

「さあ行きましょ。ルークが付いてきてくれるんでしょ?」


ルークと並んで歩き馬小屋に着いた。昨日乗った馬に今日も乗り丘を目指す。

丘に着くとルークが手綱を木の棒に引っ掛けた。


「妃殿下、本当に馬の扱い上手いですね」

「ありがとう」

「それにしてもここは見晴らしが良いですね」

「ええ、子爵が好むはずだわ。領地が見渡せて領地を見守ってる気分だもの」

「確かに。それよりも妃殿下、無理はしないで下さい。昨夜も寝ていないですよね」

「昨夜はお母様達と会って少し感傷的になっていたから」

「昨夜だけの話ではありません」

「そうね、なかなか眠れないのよ。王妃になってから眠るのが怖いの。目を瞑ると色々考えちゃうの。どうすれば民を護れるのか、救えるのか、これで良かったのか、違う方法が無かったのか。夜が明けると安心するの。明るい所では皆の顔が良く見えるでしょ?でも闇夜では顔が見えにくいもの…」

「妃殿下、全ての人を救うのは不可能です。なら自分にとって譲れない人を救えば良いと思います」

「それが大勢なら?」

「それこそ助け合いですよ。助け合って救えば良いと思います」

「助け合いか、確かにそうね」

「あのルシーって子に助けてもらえば良いと思いますよ?」

「ルシーを巻き込みたくはないわ」

「でもあの子の能力は魅力的ですね」

「だからこそ護らないといけないわ。悪用される危険があるもの」

「確かに危険ですね」

「心を感じとる、相手からすれば丸裸にされるわ。良くも悪くも魅力的なのは確かよ。だからこそ普通の生活をおくらせてあげたいと思うの。子供の戯言、今はそれで良いのよ。大人になれば隠す事も必要になるかもしれない。それでも理解者が側に居ればあの子を護ってくれるわ」

「帝国へ行くでしょうか」

「分からないわ。それでも説得し続けるしかないわね。それにはまず話を聞いてもらわないと何も始まらないわ」


丘を後にして邸に戻った。


「妃殿下」

「マイラおはよう」

「おはようございます。昨日は軽くご挨拶しただけですみません」

「昨日は疲れていたでしょ。マークともきちんとお別れをしたの?」

「はい。お互い仕える主人の為に頑張ろうと」

「そう」

「妃殿下、まだ不慣れな所もありますがこれからよろしくお願い致します」

「こちらこそよろしくね。これから少しづつ覚えていけば良いわ」

「ありがとうございます」

「もう一人のメイドのミーナにはもう会った?」

「はい、先程ご挨拶させて頂きました。とてもお優しい方で安心しました」

「仲良くなれそう?」

「はい」

「それなら良かったわ」

「妃殿下これからのご予定はどうなさいますか」

「朝食までまだ少し時間があるわよね」

「はい。まだ騎士の方々は稽古をなさっていますので」

「それなら少し一人にしてくれないかしら。手紙を読みたいの」

「承知しました。では朝食の時間になりましたらまたお声掛け致します」

「ありがとう」


マイラが部屋から出て行き、机の上に置いたタイラーからの手紙を手にとった。手紙を手にし窓を少し開け外を眺める。

何が書いてあるかは何となく分かる。分かるからこそ読むのを躊躇う。

窓から入る風、外から聞こえるローレン隊長の声、騎士達の声が聞こえる。邸の中を行き交う人の足音。

そうね、私は一人じゃない。

ソファーに座り封筒を開ける。三つ折にたたまれた便箋を広げる。

「ふぅ」

一息吐き読み始める。


『リリーアンヌへ

リリーアンヌ、元気にしてる?僕は元気だよ。僕もそっちへ行こうかな?リリーアンヌの側の方が楽しそうだ。それに陶器を作るのも見てみたいし一度作ってみたい。

子爵の事は残念だった。だけどリリーアンヌが背負う事じゃない。子爵の事はアルバートが背負う事だ。通行料を勝手に決めたのはアルバートだよ?

リリーアンヌ、アルバートの優しさは凶器だ。信じる事が優しさなら、アルバートは無能の国王だ。

リリーアンヌが幼い頃からの約束を守りたいのもそのために力になりたいのも理解している。リリーアンヌの叶えたい夢だしね。

友としての絆、愛する人との絆、それは素晴らしいものだ。だけどアルバートは?その絆を大切にするのか?

リリーアンヌ、アルバートはもう駄目だ。アルバートがこのまま国王でいるなら、この国の未来はない。


リリーアンヌ、君が帰ってくるのを心待ちにしているよ。


            タイラー』



タイラーがここまで言うには何かがあった。


「はあぁ」


タイラーが相談役を外された事に関係するんだと思う。



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