悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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27 つかの間の休息

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早朝私は馬小屋にいるおとなしい馬に乗り子爵のお墓の所に来ている。


「子爵、側室ですって。あの狸の事だから第二夫人とか言いそうね。帝国も前の皇帝は第5夫人までいたものね。夫人は側室や愛妾とはまた違う立場だから…。私に子供が出来ていれば良かったんだけどこればっかりはどうしようもないもの」


私は地面に膝を立てて両足を両腕でかかえ座っている。両膝に額を乗せて顔を俯けた。

ボテ

服に何かがあたった。

ボテ

私は顔をあげた。少し離れた所に男の子が3人いた。その後ろに男の子より少し小さい女の子が隠れていた。手には泥を丸めたものを持っている。

私の直ぐ側に同じ泥を丸めたものが2つ落ちている。


「お前は悪者なんだろ。当主様を殺した悪者なんだろ。早くここから出て行け」


男の子が私に向けて泥を丸めたものを投げた。私の服は所々泥だらけになっている。


「おい!お前ら」

「やべ、騎士が来た。逃げろ」


一人の男の子が女の子を逃がす為に、


「おい、やめろ、離せー」


ローレン隊長に捕まった。


「俺達は当主様に花を持ってきたたけだ。そしたら悪者が居たから悪者をやっつけていただけだ!俺達は悪くない!」

「隊長、離してあげて」

「ですが」

「いいのよ、泥は洗えば落ちるわ。それでもこの子達に付いた傷は消えない…」

「おねえちゃんさみしいの?かなしいの?」


女の子が私の前に来た。


「かなしいからなきそうなの?おにいちゃんがどろをぶつけたから?」

「違うわよ。ありがとう」


女の子の左手は3本の花を握りしめていた。


「当主様にお供えするお花?」

「うん」


女の子は子爵のお墓に花を供えた。


「当主様は喜ぶわね」

「うん。よろこんでる」

「喜んでる?」

「とうしゅさまはおねえちゃんのとなりにいるよ。いつもみたいにわらってる」

「お名前は?」

「ルシー」

「ルシーは当主様が見えるの?」

「みえない。でもわかるの。おねえちゃんのあたまをなでてるよ?」

「撫でてる?」

「うん。おねえちゃんはここでなにをしてるの?」

「お姉ちゃんはここで当主様とお話していたの」

「とうしゅさまはなんていってるの?」

「お姉ちゃんが話しているだけなの。当主様は黙ってお姉ちゃんの話を聞いてくれているのよ。優しい当主様ね」

「うん。とうしゅさまやさしいの」

「ええ、優しい人ね」

「おねえちゃん、おにいちゃんがごめんね」

「大丈夫よ」


私はルシーの頭を撫でた。


「ルシー行くぞ」


お兄ちゃんに手を繋がれルシーは走って行った。


「妃殿下一人で出かけるのは止めて下さい。探しました」

「心配をかけてごめんなさい。ここなら一人で来ても危なくないし良いかなと思ったの」

「それでもこれからは一言声をかけて下さい」

「分かったわ、ごめんなさい」


馬に乗り邸に戻ると騎士達が剣の稽古をしていた。その姿を私は見つめる。


「妃殿下は馬に乗るのも上手ですが剣の扱いにもなれていますよね。やっぱりお父上から教わったんですか?」


隣にいるローレン隊長に私は答えた。


「馬も剣もお父様に教わった訳ではないの。幼い頃ね、タイラーが剣の稽古を嫌がったから私がタイラーを護る為にも強くならないとって思ったの。それに私の師匠はこの国の人ではないのよ」

「そうなんですか?」

「ええ、色々あったのよ」


騎士達の稽古を見ていたら久しぶりに剣を振りたくなり私は置いてある練習用の剣を持ち稽古に混ざった。


「妃殿下、貴女が剣を振る必要は、」

「ローレン隊長、今は何も考えたくないの。だから目を瞑ってくれない?」

「はあぁ、分かりました。

ルーク妃殿下の相手になれ」

「はい」


ルークと軽く打ち合いした。打ち合いが終わり、


「妃殿下、見習いよりも強いですよ」

「ふふっ、そう?久しぶりだから腕が鈍っていたけどね」

「あれでですか?」

「剣が軽いって師匠に怒られそうよ」

「いや、女性ですから」

「師匠に言われたの。剣を持ったら男も女も関係ない。敵を前にして女だからと情けを乞うのか、なら剣を持つな。剣を持つなら自分の戦い方を見つけろ。剣を持つ以上必ず勝て。己の命は己で護るしかないんだ」

「厳しい人ですね」

「厳しい人だけど優しい人よ。ルーク、相手になってくれてありがとう。また相手になってくれると嬉しいわ」

「ええ、また打ち合いましょう」


ローレン隊長は私の手から練習用の剣を取り、


「妃殿下、もうそろそろ服を着替えられた方がよろしいかと」

「そうね」


私は部屋に帰りミーナに手伝ってもらい服を着替えた。


「ミーナ所々泥が付いてるけど、」

「大丈夫ですよ」

「ごめんね」

「妃殿下は変わらずで嬉しいです」

「ふふっ、そうね」

「はい。孤児院から帰ってくるといつも泥だらけでしたもの。公爵家でもご令嬢なのに地面に座ってましたから」

「きちんと椅子に座ってたわ」

「邸の中ではだけです。お庭ではいつも地面に座って読書をしていました」

「そうだったかしら」

「そうです」

「「ふっ、ふふっ」」


私達はお互い見つめあい笑った。


「それもそうね」


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