25 / 107
24 24歳 ⑨
しおりを挟む朝を迎え私はローレン隊長と塔に入る。その後を騎士達も入る。今日のこの日、休日の騎士達も子爵の最期を見届ける為に集まった。
塔に入った先に、子爵は正装し背筋を伸ばし椅子に腰掛けていた。
「王妃殿下、私は国王陛下に刃を向けました。その罪を償う為に私の意思で自害します」
「分かりました」
私は毒を杯に入れ子爵の前に置いた。
『目を背けてはいけない。きちんと見るの。それが私のすべき事』
私は何度も何度も心の中で呟いた。
震える足を震える手を隠すように私は子爵を見つめる。
子爵は周りにいる騎士達を見回し、私と目を合わせた。
フッと優しい顔で笑った。
「確かに貴女は甘いのかもしれません。そんな泣きそうな顔を見せてはいけない。毅然としなさい。
貴女の進む道に幸あらんことを」
子爵は杯を手に取り、躊躇う事もなく一気に飲み干した。
椅子から崩れ落ちた子爵は床に寝転がり、苦しいはずなのに毅然とした態度で私に手を伸ばす。
私は子爵の手を握る。
見つめ合う瞳、
「貴女が王になりなさい。その方がこの国はこれからもっと繁栄する。貴女の作る国を…み…と……ど………け……………………」
「子爵?ねぇ子爵?子爵ーーーーー!」
私の目から溢れ出る涙の雫が優しい顔をしている子爵の顔にポタポタと落ちる。
「妃殿下」
子爵と繋がれた手をローレン隊長の手が包んだ。
「妃殿下、手を」
私は顔を横に振った。
「妃殿下」
「嫌よ。どうしてこんな良い人がこんな死に方になるの?どうしてよ、ねぇローレン、どうして?元を正せばアルバートがあんな法案を通したのが間違いでしょ?今まで通行料を取った事なんてなかったじゃない。それをアルバートが、」
「しっかりしなさい!」
ローレン隊長は子爵を見ていた私の頬を、両手を頬にあて顔を上げた。
「しっかりしなさい。今更過ぎた事を悔やんでも子爵は死んだんです。この安らかな顔を見て貴女のすべき事はなんです。悔やみ嘆く事ですか?子爵の亡骸から離れない事ですか?
貴女がすべき事は子爵の死を無駄にしない事です」
「……そうね。子爵が安らかに眠れる場所、子爵が愛した領地に埋葬しましょう。子爵を柔らかい布で包んでほしいの。荷馬車に揺られる事になるから…。
子爵領へ行きます」
「承知しました」
「少しの間だけお別れをさせてくれないかしら」
「ええ、少しの間だけ我々は外に出ています」
「ありがとう…」
ローレン隊長や騎士達が塔の外に行き私は声を出して泣いた。
悔やみ嘆くのはこれで最後にする。
だから…、今だけ…、悔やみ嘆かせて……。
どうして、どうしてよ、と…。
あのときアルバートに言うべきだった。通行料の設定を強く言うべきだった…。私の内でアルバートを信じたい思い、アルバートに嫌われたくない思い、それが私の判断を鈍らせた。
貴族なら分かるだろうと、無茶な設定はしないだろうと、
貴族も人間、自分の財を増やす為に良いようにするのは分かっていたのに…。
目が曇っていたのは私。
子爵は自害すると言った。それでも子爵を死に追いやったのはアルバートと私。この国に子爵は殺された…。
私はもう間違わない。
私の信じる道を私は行く。それがどんな道に繋がっていようとも。
私は強くなる。
私は最後の別れを子爵とし、塔の入口の扉を開けた。
眩しい光に目を瞑る。「ふぅ」と一息吐いて目を開ける。
目の前にいる私付きの騎士達
「ローレン、今から陛下の所に行きます。子爵の亡骸はテオに任せます。丁重に扱いなさい。ルーク、急いで公爵家へ行き、午後から訪問すると先触れを出しに行って」
「「「はい」」」
私はアルバートが居る執務室へ向かった。
コンコン
「リリーアンヌです。入ります」
返事を待たずに執務室へ入り、机に座るアルバートの前に来た。
「妃殿下」
私はイーサンを手で制した。
「陛下、子爵の処刑が終わりました」
「……そうか」
「私は子爵領へ今から行き領民達の受け入れ先を探し見届けるまでこちらには帰りません」
「ああ、頼む。子爵の親族はどうした」
「全員処刑しました」
「全員か?何故だ」
「何故?反旗を翻した親族を残してどうなります。恨みはまた新たな恨みを買います。また貴方は刃を向けられたいと?そんな馬鹿ではないと思いますが」
「そうだが…」
「私が居ない間、陛下が下す案件は全て陛下が責任が取れるものだけにして下さい。子爵のような臣下がこの国に、陛下に、必要だった事をお忘れなく」
「分かっている」
「では私は出立します」
「ああ、気をつけて行ってくれ」
私は踵を返し執務室を出た。
執務室を出た所にいるローレン隊長に、
「数ヶ月留守にするわ、騎士達の準備を。それと騎士達は全員連れて行くからそのつもりで」
「はい」
私は私室に戻り、メイドに頼み旅準備をしてもらった。
玄関ホールにはローレン隊長をはじめ騎士達も集まり、
「ルーク悪いけど孤児院へ行ってこれをアンネに渡して来てくれない?」
「分かりました」
「その後で公爵家へ来て」
私はアンネと約束した紙と色鉛筆を渡した。それから皆が大好きなクッキーも渡した。
昼過ぎ、私達は王宮を後にした。
3
お気に入りに追加
811
あなたにおすすめの小説
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。

政略結婚の指南書
編端みどり
恋愛
【完結しました。ありがとうございました】
貴族なのだから、政略結婚は当たり前。両親のように愛がなくても仕方ないと諦めて結婚式に臨んだマリア。母が持たせてくれたのは、政略結婚の指南書。夫に愛されなかった母は、指南書を頼りに自分の役目を果たし、マリア達を立派に育ててくれた。
母の背中を見て育ったマリアは、愛されなくても自分の役目を果たそうと覚悟を決めて嫁いだ。お相手は、女嫌いで有名な辺境伯。
愛されなくても良いと思っていたのに、マリアは結婚式で初めて会った夫に一目惚れしてしまう。
屈強な見た目で女性に怖がられる辺境伯も、小動物のようなマリアに一目惚れ。
惹かれ合うふたりを引き裂くように、結婚式直後に辺境伯は出陣する事になってしまう。
戻ってきた辺境伯は、上手く妻と距離を縮められない。みかねた使用人達の手配で、ふたりは視察という名のデートに赴く事に。そこで、事件に巻き込まれてしまい……
※R15は保険です
※別サイトにも掲載しています

貴族の爵位って面倒ね。
しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。
両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。
だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって……
覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして?
理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの?
ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で…
嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

逆行令嬢の反撃~これから妹達に陥れられると知っているので、安全な自分の部屋に籠りつつ逆行前のお返しを行います~
柚木ゆず
恋愛
妹ソフィ―、継母アンナ、婚約者シリルの3人に陥れられ、極刑を宣告されてしまった子爵家令嬢・セリア。
そんな彼女は執行前夜泣き疲れて眠り、次の日起きると――そこは、牢屋ではなく自分の部屋。セリアは3人の罠にはまってしまうその日に、戻っていたのでした。
こんな人達の思い通りにはさせないし、許せない。
逆行して3人の本心と企みを知っているセリアは、反撃を決意。そうとは知らない妹たち3人は、セリアに翻弄されてゆくことになるのでした――。
※体調不良の影響で現在感想欄は閉じさせていただいております。
※こちらは3年前に投稿させていただいたお話の改稿版(文章をすべて書き直し、ストーリーの一部を変更したもの)となっております。
1月29日追加。後日ざまぁの部分にストーリーを追加させていただきます。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。
彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。
そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。
やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。
大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。
同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。
*ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。
もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる