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23 24歳 ⑧
しおりを挟む3日後、子息から
「我々は妃殿下のご厚意を受けてこの国を出ようと思います。この国の名はここに置いていきます。新たな名でこの命が尽きるまで生きようと思います。妃殿下が助けてくれたこの命をいつか、いつか妃殿下に返せるように、いつの日か妃殿下に恩返しができる事を願っています」
「では準備をします。2~3日で用意ができます。準備が整い次第ここを出ます。道中気をつけて。私は見送りはしません」
「分かりました」
「貴方達が無事帝国に着く事を祈っています」
「ありがとうございました」
子息は深々と頭を下げた。
私はローレン隊長に頼み平民が着る服を準備してもらった。そして私個人の資産を用意した。
そして2日後、準備ができ塔へ行き、
「この服に着替えて闇夜に隠れてここを抜け出します。街へ抜けた所に隣国へ行く行商人が待っています。荷馬車の空いてる場所に乗せてくれるそうです。全員は無理なので男性は歩いて付いていく事になります。途中別々になると思いますが目指す所は辺境、そして行商人は用心棒代わりになるので安心して下さい」
行商人、公爵家の騎士のコナーに行商人のふりをしてもらった。コナーは懐に入り込むのが上手い。天災が起きた時、コナーは何度も辺境の騎士達と物資のやり取りをしていた。その時辺境の騎士達と仲良くなり顔見知りになった。コナーの顔を見れば辺境伯と騎士達は直ぐに保護してくれる。
「ローレン隊長、後はお願いします」
夜になり私は私室から空を眺める。今日は新月、闇夜が姿を消してくれる。私は祈りながら朝を迎えた。
早朝、もぬけの殻になっている塔に入った。
階段を登り牢屋の中、
「子爵!貴方…どうして…」
「王妃殿下、私は私の意思でここに残りました。そして私の意思で毒を賜りたい。妃殿下に飲まされるのではなく自分の意思で飲みたいと思っています。
妃殿下、貴方は人殺しではない。私は自らの意思で自らの命を断つのです」
子爵の目が真っ直ぐ私を見つめる。
「分かりました。では明日、決行します」
「はい」
子爵の顔が優しい顔になった。その顔を見た時、私は胸が苦しくなった。
どうしてこんな良い人が、どうして領民思いのこの人が、どうして…、死なないといけないの………
せめて最期は私が見届ける。
その日の夕食、料理長に無理を言って二人分の料理を運びやすいように準備してもらった。ローレン隊長に手伝ってもらい塔へ運ぶ。
机の上にテーブルクロスを敷いて花瓶に花を生ける。
温かい料理を並べ小さい鍋にはスープが入っていた。それを器に入れ、私は子爵と向き合う。
「子爵、さあ温かいうちに食べましょ」
「はい」
「今日は行儀なんて気にしないで話しながら食べましょ」
「フッ、ええ」
温かいスープを飲み、肉料理、魚料理を食べる。
「領民はどうするおつもりですか?」
「帝国へ行ってもらうわ。道中が心配だけど帝国へ出稼ぎに行く平民はいるもの。だからその人達に紛れさせるつもりよ。帝国との国境へ行けば帝国側に知り合いがいるから保護してくれるの。男爵領も今はその人に預けているの」
「妃殿下が帝国の男爵とは知りませんでした」
「知ってるのは私の家族だけよ。少しね、縁があったの。だからよ。ここだけの話よ?お父様は伯爵の爵位があるわ。いずれは弟が両国共継ぐことになるけど」
「縁ですか」
「ええ」
お父様は賜った爵位、私は男爵から男爵領も爵位も買った。そこには昔湖があり水が涸れ干上がった。水神が怒り祟られた領地と言われ男爵が手放した土地。領民達は捨てられ餓死寸前の所を私が買い取った。
まだ子供の頃、お父様と帝国へ行った時に寄った男爵領の湖が綺麗だったのを覚えている。その頃から水が涸れ始めていたらしい。本来の湖の広さよりも半分の広さになっていたらしいけど、それでも綺麗な景色や綺麗な空気が身にまとった時、癒やされるような心安らぐような、お母様に抱きしめられている感じがした。
水は隣の領地から引いてきて住むには問題はない。干上がった湖からは粘土質の土が取れた。ただ、陶器を作る技術はなく、粘土を売って領地を支えている。
子爵家の領民が男爵領へ行けば、男爵領民は粘土を採取し、子爵領民が陶器を作る。それを子爵子息が売買し領地経営をする。
男爵領は干上がった沼も多く山もある。この先、粘土が採取出来なくなる事はない。
子爵と話していたら食事を手に持ちローレン隊長とローレン隊の騎士達が階段を登って来た。
「どうしたの?」
「我々も一緒に、と思いまして」
「そう。大勢の方が楽しいものね」
テオは果樹酒の樽を持って来ていた。私はお酒はお付き合い出来ないから、子爵と騎士達は飲んで騒いで、皆で笑いながら夕食を食べた。
「あ~笑った。楽しい夜でした」
「なら良かったわ」
「ええ、ええ…、本当に楽しい夜、でした…」
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