悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
20 / 107

19 24歳 ④

しおりを挟む

アルバートの執務室へ入るとアルバートは頭を抱えていた。


「イーサン隊長、ありがとう。少し二人にしてくれないかしら」

「はい」


イーサン隊長が部屋を出て行き、


「なあ、リリーアンヌ、どうしてだ…。どうして子爵が…。彼は俺に信頼を持ってくれていた。俺も彼を信頼していた。なのに、何故だ…」

「何故?どうして?そんなのも分からないの?崇敬する気持ちが強ければその分裏切られた時私怨を抱きやすい。子爵があんな事をしたのはアルバート、貴方が貴族達を信じたからよ。信じて通行料の上限を決めなかったからよ。

何度も領地と帝国を行き来する子爵家には通行料が負担だったの。

これからだってどこかの家で通行料を支払う為に領民にしわ寄せがいくわ。迫害を受ける領民が暴動を起こすかもしれない」

「それでも貴族達だぞ。貴族の矜持を持つ貴族達だぞ」

「貴族達だって自分達の生活の方が大事でしょ。今まで通りの生活をすれば自ずと領民にしわ寄せがいくわ。寝ずに働け、支給するものを減らす、当主が決めた事に領主も領民も何も言えないわ。

アルバート、貴方が貴族達を信じる気持ちは良い事よ。それでも上限を決めるべきだった。子爵が今回反乱を起こしたのはアルバートが貴族達を信じ招いた結果よ。

今すぐ全ての貴族達が負担にならない額を設定するべきだわ。そうしないと第二の子爵が今後も現れる」

「分かった。額を設定する」

「それが良いと思うわ」

「今回は俺の招いた事だ。子爵には罪はない」

「何を言ってるの?アルバートが国王になって1年目の祝賀パーティーで、貴族達が全員見ている前で子爵は王に刃を向けたの。どんな理由があろうと王に刃を向けた以上罰は免れないわ。

それを許したらどうなると思うの?

今後反乱を起こしても、謀反を起こしても、暴動を起こしても、理由があれば許されるって事よ?

それに周辺諸国はこのことをどう見ると思う?甘い王だとなめられるわ。戦を仕掛けても理由があれば許すの?謝ればなかったことにするの?そんな事出来ないでしょ?

騎士達は国を護る為に民を護る為に命を掛けて戦うわ。同時に王を護る為に戦うの。だから騎士達は命を掛けると王に忠誠を誓うの」

「子爵と戦は違うだろ」

「同じ事なのよ。王に刃を向けた時点で子爵は貴方に反旗を翻したの。誰よりも王を崇敬していた子爵が貴方に背いたのよ…。それを貴方は重く受け止めるべきだわ。

子爵の件は私が全て処分を決めます。子爵領は国が保有し領民は私が責任を持って次の受け入れ先を見つけます」

「分かった。よろしく頼む」

「陛下は速やかな対応を」

「分かっている」


私はアルバートの執務室から出て私室へ戻った。今日だけはアルバートと一緒のベッドでは寝れない。

次の日私は騎士服を着て馬に跨り内密に子爵家へ来た。

子爵夫人と子爵令息と話をする。


「妃殿下がどうして」

「今回あなた方の処分、領民達、私が責任を持つ事になりました。

単刀直入に言います。子爵が王に反旗を翻したのは知っていますか?」

「あ、あぁぁぁ…、」

「母上は違う部屋に。俺が王妃殿下と話します」

「子爵夫人、そうしなさい」


子爵夫人がよろけながら部屋を出て行き、


「王妃殿下、父上はもう」

「今は牢屋に入っています」

「我々一族は父上を止める事が出来なかった。ですが父上を止めた所で自害するしか残された道はありませんでしたが」

「私は残念です。一言私に相談をしてくれれば、そう思いました」

「妃殿下に相談して何になりますか。通行料を廃止してくれるんですか?」

「そうね、廃止を決定するのは王の采配、私ではないわ。それでも他の道を探したわ。この手を貸したわ」

「領民達はどうなりますか」

「領民達は私が責任を持って受け入れ先を見つけます。ただしこの国ではなく帝国で」

「帝国ですか」

「ええ。この国の他の領地へ行っても迫害されるのが目に見えています。それよりも帝国に行き陶器を作る職人になれるように頼む予定です。彼らが作る陶器は温かみがあって素晴らしいと私は思っています。

それは同時に領地が過ごしやすいからだと思っています。過ごしやすい領地作りをした当主の気遣いです。心です。

心の潤いはものづくりに反映されると私は思います」

「はい……」

「だからこそ無念でなりません。悔しい。大事な臣下を領民を我々が失うのが…。せめて謁見の間だったのなら隠し通す事が出来たのに。どうして祝賀パーティーで…。

それだけ恨みが強かった、という事ですね」

「はい」


子息は真っ直ぐ私を見つめる。その瞳は覚悟を決めた瞳だった。


「今日の夜、闇夜に紛れ一族総出で王宮にある塔の牢屋へ入ってもらいます」

「毒ですか」

「いずれは。ですが、少しの間だけでも家族で過ごす時間を、と思いました。塔の牢屋は外に声が漏れません。それに王宮の敷地の外れにあり人は滅多に行きません。塔には表口と裏口があり表口だけ監視がいます。裏口から出ると隠し通路があり街へ出れます。それと塔を監視するのは私付きの近衛隊だけです」

「妃殿下は何を言いたいのですか」

「私は塔の説明をしただけです」

「はあ、はい、ありがとうございます」


しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

貴族の爵位って面倒ね。

しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。 両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。 だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって…… 覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして? 理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの? ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で… 嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

政略結婚の指南書

編端みどり
恋愛
【完結しました。ありがとうございました】 貴族なのだから、政略結婚は当たり前。両親のように愛がなくても仕方ないと諦めて結婚式に臨んだマリア。母が持たせてくれたのは、政略結婚の指南書。夫に愛されなかった母は、指南書を頼りに自分の役目を果たし、マリア達を立派に育ててくれた。 母の背中を見て育ったマリアは、愛されなくても自分の役目を果たそうと覚悟を決めて嫁いだ。お相手は、女嫌いで有名な辺境伯。 愛されなくても良いと思っていたのに、マリアは結婚式で初めて会った夫に一目惚れしてしまう。 屈強な見た目で女性に怖がられる辺境伯も、小動物のようなマリアに一目惚れ。 惹かれ合うふたりを引き裂くように、結婚式直後に辺境伯は出陣する事になってしまう。 戻ってきた辺境伯は、上手く妻と距離を縮められない。みかねた使用人達の手配で、ふたりは視察という名のデートに赴く事に。そこで、事件に巻き込まれてしまい…… ※R15は保険です ※別サイトにも掲載しています

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。 ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。 そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

処理中です...