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15 23歳 ⑨
しおりを挟むウイング侯爵はあれから直ぐに領地へ行き、領主を替え、今は子息が領主になった。
報告を受けたアルバートは、
「これからは領主任せにせず自ら領地へ行き自分の目で確認してほしい。残った領民を護るのは当主である侯爵の義務だ。私はこれからの侯爵を信じる」
侯爵には何のお咎めもなかった。
ウイング侯爵は領地を去った流行り病に苦しんだ領民達に何もしなかった。流行り病や餓死で誰一人犠牲者を出さなかったのは喜ばしい事だけど、領地を領主任せにし、領主も侯爵に報告をしていなかった。もし天災の後で侯爵自ら領地へ足を運び領地の様子を確認していたら…。それを怠った責任は大きい。
あのまま私が手を出さなければ流行り病は侯爵領だけでは収まらずこの国を揺るがす流行り病になっていたかもしれない。そしたら犠牲者は増え、どれだけ国中から他国から薬を集めても足りなかった。
例え知らなかったとはいえ、領地を顧みず領民を見捨て虚偽の報告書を提出した。当主としての責任。知らなかったでは済まされない。
それなのに何のお咎めも無し。そうなると面白くないのはプロパンス地方の貴族達。虚偽の報告書を提出し私に罰せられた。穀物を罰金代わりに差し出し、その穀物はウイング侯爵領の領民達に支給された。
自分達は罰せられ、ウイング侯爵はお咎めなし。
私はプロパンス地方の貴族達の恨みを買った。
国を自分の思うように自由に操る悪女だ、無慈悲な王妃、王妃に相応しくない、それを止めているのはプロパン伯爵だった。私の耳に入らないように。
それでも私はこの国の声はどんな声も伝わる。散らばった情報員達には良い事も悪い事も全て伝えるように言ってある。
情報員の報告書を呼んでいると、
「リリーアンヌ」
「タイラー、おかえりなさい。体は?大丈夫?流行り病にならなかった?」
「僕は大丈夫。子爵領と男爵領、それに辺境へ全ての領民達を送って帰って来たよ。まだ薬を飲んだ方がいい領民は辺境の医師に託してきた。余った薬は辺境へ置いて来たよ」
「ええ、それでいいわ」
「炊き出しも騎士達が手伝ってくれて、僕は何の役にもたたなかったよ。足手まといになっただけだ」
「そんな事はないわ。タイラーがいち早く領地へ行く決断をしてくれたから領民達は助かったの。領民の役にたつ事だけが大事じゃないでしょ?タイラーはタイラーの専門分野があるもの。でしょ?それで領地はどうだった?」
「男爵領は作物に多少の被害はあっても全滅ではないし領地も使える。侯爵領は残った土地は問題ない。被害にあった土地も整えれば今後も使える。ただ、子爵領は酷かった。それでも国が保有するんだろ?それなら覚悟だけは持った方が良い。土砂、木、全てを片付けるには数年かかると思う。家屋の撤去も含めてね。家屋を残しておくとそこを塒にする者も現れるかもしれないから」
「そうね、分かったわ。これから数年かけて片付けるつもりよ。タイラー今回は本当にありがとう。タイラーにはいつも助けてもらってばかりね」
「僕の方が助けてもらってる」
「それでも今回領民達の命が助かったのはタイラーのおかげよ。タイラーは昔から勇敢なの。それを忘れないで」
一週間後
「ローレン隊長、皆無事でなによりでした。誰一人かけず皆の顔を見れた事は本当に嬉しいかぎりです」
「はい。数人流行り病にかかりましたが薬のおかげでもう回復しています」
「流行り病にかかってしまった騎士には申し訳ないと心から思います。それでも犠牲者が一人も出なかったのは貴方達の勇気ある行動が大きいと私は思います。貴方達が助けた命です。誰も行きたくない所へ出向き、留まり、不安に思う事もあったでしょう。流行り病への恐怖、毎日生きた心地がしない環境で良く耐えてくれました。
今回は本当にご苦労様でした。休みを一週間しかあげれなくてごめんなさいね」
「一週間も頂き感謝しています。ですが皆休みの時も集まり体を動かしていました。直ぐに妃殿下の護衛に復帰出来るように、皆早く復帰したいと言っていました」
「ありがとうございます。私も本当は早く貴方達に戻ってきてほしかったんです。私の後ろは貴方達じゃないと私も落ち着きませんから」
「本日からまた我々が護衛に付きます」
「ええ、改めてお願いします」
ローレン隊長はじめ私付きの近衛隊の皆さんの元気な顔を見てほっと胸をなでおろした。
今回領地へ出向いてくれた医師達にも感謝の手紙を書いた。
タイラーも戻り、近衛隊も戻り、私はいつもの日常を取り戻した。
暇を見つけては孤児院を回り、子供達と一緒に遊んだり、本を読み字を教えた。
後はウォルダー子爵へ手紙を書き領民の様子を教えてもらったり、手紙のやり取りはこれからも続けていくつもり。
ジェイデンにもお礼の手紙を書いた。ジェイデンからの返信は、
『お役に立ちましたか?』
これだけ。純粋に受け取るか裏を読むか。それでも今回だけは純粋に受け取らせて…。
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