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14 23歳 ⑧
しおりを挟む久しぶりにアルバートとゆっくりお茶をした。
「なあリリーアンヌ、最近騎士達にお礼を言われるんだ」
「お礼?」
「美味しかったですとか陛下に付いて行きますとか」
「良い事じゃない」
「それは良い事だと思う。それでも意味が分からなくて」
「それはきっと夜会の時に余ったワインを騎士達に渡したからだと思うわ。ワインが余ったからどうするか聞かれてアルバートなら騎士達を労う為に渡すかなと思ってそうしたの。駄目だった?」
「そうだったのか。ありがとうリリーアンヌ」
「アルバートは忙しかったでしょ?戴冠式に天災、それに夜会、立て続けだったもの」
「確かにそこまで気が回らなかった」
「アルバートを支えるのが私の役目よ?」
「そうだな、ありがとう」
次の日アルバートから呼ばれ執務室へ行く。
「リリーアンヌ、これリリーアンヌが処理したものだよな」
私が昨日処理した報告書。
「ええ、何か問題があったの?」
「ウイング侯爵家の領民が少なくないか?」
「間違いは無いわよ」
アルバートは直ぐにウイング侯爵を呼び出した。
「侯爵、これはどういう事だ。侯爵領の広さでこの人数は少なすぎる」
「そんなはずはありません」
「見てみろ」
侯爵は報告書を見た。
「これは!何かの間違いです。こんなに少ないはずがありません」
「正確な人数は」
「私が提出した報告書通りです。これは私が提出した報告書ではありません。これをどこから…」
「私です」
「王妃殿下、貴女ですか」
侯爵は私を睨みつけた。
「私を陥れるおつもりですか」
「まさかそんな事はしません。貴方が夜会で言っていたではありませんか。流れ者が領地に居ると。違いますか?」
「そう、ですが、流れ者は数人です」
「いいえ、貴方が言ったのではありませんか。被害にあった土地にいる者達は領民ではなく流れ者だと。流れ者は78人、それはこちらで確認済みです。貴方が捨てたと言った被害にあった土地に残された者達は元は貴方の侯爵家の領民達です」
「そんなはずは…、そんな報告は受けていません」
「では貴方自ら領地を確認していないと?領主任せだと?」
「領地を任せ領民を護る、その為の領主です」
「では天災にあった時、領主が真っ先に逃げた事は知っていますか?」
「まさか」
「そのまさかです。領主が逃げ出し領民を誘導する者がいなければ領民はいつも通りの日常を送ります。
我々は貴方に書簡を送りました。天災が起こる可能性が高いと。領民の避難を最優先にしてほしいと。違いますか?
貴方が言った、領民は皆元気に、は難をたまたま逃れた領民です。被害に合わなかった残った領地に暮らしていた者達です。侯爵、貴方は何を見て何を信じたと言うのです。領地も見ず領主の報告を信じた、貴方は侯爵当主として失格です」
「王妃そのくらいに」
「陛下、出過ぎた真似をしました」
「侯爵、言い分は」
「ありません」
「急ぎ調べ報告を」
「承知しました」
侯爵が出て行った執務室に残った私とアルバート。
「リリーアンヌ言い過ぎだ。侯爵が領主頼りになっていたのは当主として失格かもしれない。それでも侯爵は知らなかった、別に虚偽をしようとした訳じゃない。それを頭ごなしに言うのは違うだろ」
「知らなかった?それは違うわ。知ろうとしなかったのよ?それは侯爵という爵位を持つ者なら許されない事よ?」
「誰だって間違いをするだろ?全ての人が完璧なのか?違うだろ?侯爵を信じる、それが我々が今すべき事だ」
「何を信じるの?何が信じられるの?」
「リリーアンヌ、信じる事から始めないと信頼は築けない」
「それはそうよ。信じる事は大事だわ、それでも疑い見えるものもあるでしょ?人は完璧じゃない。だから間違いだって起こす。報告書だけでは見えないものがあるはずよ」
「確かに報告書を虚偽する事は出来る。それでも俺は疑うのではなく信じたい。これから俺を支えてくれる者達を信じたい。だからリリーアンヌも俺を信じてほしい。俺が信じた者達を信じてほしい」
「分かったわ。アルバートを信じる」
私はアルバートを信じてる。それは幼い頃から。それでもアルバートの信じるという優しさがいつか、いつか致命的にならないと良いと思う。
それでも私の役目はアルバートを支え、アルバートの夢を叶える事。国王になりたいと語った夢、国王になり夢は叶った。なら次は国王になったアルバートの名を広め憂いをなくす事。その為なら私は悪にもなれる。
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