悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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6 22歳

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陛下が執務中に倒れた。過労なら休めば良い。それでも医師の診断は思わしくなかった。


「心臓に負担がかかっています。お命が大事なら休養する事をお勧めします。もしもう一度お倒れになられたらその時はお命の保証は出来ません」


陛下はそれでも政務をしている。お父様が何を言っても聞かない。

私は陛下の執務室へ行った。


「陛下、いえ、お義父様、休養して下さい」

「ジェイデンも隣国へ行った。アルバートではまだ頼りない」


ジェイデンは18歳の時に隣国の王女様と結婚した。それまでは陛下の補佐とアルバートの補佐をしていた。

1年しか経っていないのに陛下にかかる負担は大きい。


「分かりました。私がジェイデンの代わりに補佐します。だから出来るだけ休養して下さい」

「すまないな」


それから私は陛下が処理するもの、アルバートでも処理出来るものと仕分けした。後は私でも処理出来るもの。

王妃様は悪い人ではない。だけど絵に描いたような人。政務には一切口も手も出さない。優雅に私室でお茶をし、夫人を呼んでお茶会を開く。贅沢するのが当たり前だと、自分は王妃なのだからと、本気でそう思っている人。

孤児院への慰問も私が王太子妃になると行かなくなった。

それでも口を出さないのはありがたい。


陛下に届く書類を見ていて気になる事があった。


「リリーアンヌ」

「タイラーごめんね。急に呼び出したりなんかして」


私室にタイラーが入って来た。


「僕は良いけど。それでどうしたの?」

「うん…」

「リリーアンヌの顔を見たら何かあったくらいは分かるよ?」

「そうよね。あのね、プロパンス地方って昨年天候が悪かったか知りたいの」

「プロパンス地方?確か天災は起きてないはずだよ」

「そう…」

「詳しく調べようか?」

「出来るの?」

「調べれば直ぐに分かるよ」

「なら調べてくれる?」

「分かった」


タイラーが部屋を出て行ってから書類を見る。アルバートに任せた書類。何もないと良いけど。


後日タイラーが私室へ来た。


「どうだった?」

「やっぱり天災は起きてない。天候は良かった」

「なら作物はどうなの?」

「天候が良ければ豊作だったはずだよ。今年も豊作のはず」

「今年も?」

「今年も天候は良いから」

「そう」

「一昨年は雨が続いて不作だったけどね」

「不作の次の年は土壌が駄目になるとか」

「それは考えにくいかな」

「そう…」

「一度見に行こうか?」

「タイラーが?」

「どうせ僕は暇人だし」

「ならお願い出来る?」

「任せて」

「コナーを必ず連れて行って」

「コナーを連れて行くと逆に目立つんだけどな」

「それでもコナー以上にタイラーの護衛を任せられる人はいないわ」

「確かにね。分かった、叔父さんに言ってコナーを連れて行くよ」

「ごめんねタイラー」


タイラーが帰った後、私はお父様に手紙を書いた。コナーは公爵家の護衛騎士だから。

ジェイデンが補佐をしていた時はきちんと処理されている。ジェイデンが補佐する前までは陛下一人で全てを処理していた。ジェイデンの補佐は的確だったんだろうと思う。陛下もジェイデンの補佐に頼り切っていたのかもしれない。

アルバートの見落とし、陛下の体調の変化、ジェイデンが居なくなった穴は私が思うよりも大きい。


「やってくれたわね、ジェイデン…」


私は目を閉じ天を仰いだ。


『いつか、いつか、後悔する時がきっとくる。その時リリーアンヌがどう決断するのか俺は隣国から見守るよ』


ジェイデンの言葉が頭の中で反芻される。

この時ジェイデンはこうなるように仕向けようと考えていたのね。陛下の体調の変化が無くてもジェイデン頼りになった陛下が一人でやってきた事が出来なくなるのは手に取るようにわかる。それはアルバートも同じ。


私は後日お父様が王宮へ来た時に時間を作ってもらった。

私室へ来たお父様と向かい合いソファーに座る。


「どうした」

「お父様、直ぐに動ける者を数人貸してくれませんか」

「何をするつもりだ」

「ジェイデンの抜けた穴は思うよりも大きかったようです。先ずは地方に散らばってもらい情報を仕入れないといけません」

「分かった。直ぐに地方に行かせる」

「ご迷惑をかけてすみません」

「リリーアンヌ、お前が下を向いていてはいけない。下を向いていては何も見えないぞ。前を向け、周りを見ろ、使えるものは使え、そして頼れ。お前なら出来る」

「はいお父様」

「後、ボビーは優秀だ。ボビーになら任せられる」

「分かりました」


ボビー、陛下の執事。優秀なのは知っている。それでも私が頼むのは違うと思い頼むのを躊躇っていた。それでも今は一人でも多くの助けが必要なのも事実。ボビーにも助けてもらおうと思う。


この日、ジェイデンの王の素質を思い知った瞬間だった。


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