7 / 107
6 22歳
しおりを挟む陛下が執務中に倒れた。過労なら休めば良い。それでも医師の診断は思わしくなかった。
「心臓に負担がかかっています。お命が大事なら休養する事をお勧めします。もしもう一度お倒れになられたらその時はお命の保証は出来ません」
陛下はそれでも政務をしている。お父様が何を言っても聞かない。
私は陛下の執務室へ行った。
「陛下、いえ、お義父様、休養して下さい」
「ジェイデンも隣国へ行った。アルバートではまだ頼りない」
ジェイデンは18歳の時に隣国の王女様と結婚した。それまでは陛下の補佐とアルバートの補佐をしていた。
1年しか経っていないのに陛下にかかる負担は大きい。
「分かりました。私がジェイデンの代わりに補佐します。だから出来るだけ休養して下さい」
「すまないな」
それから私は陛下が処理するもの、アルバートでも処理出来るものと仕分けした。後は私でも処理出来るもの。
王妃様は悪い人ではない。だけど絵に描いたような人。政務には一切口も手も出さない。優雅に私室でお茶をし、夫人を呼んでお茶会を開く。贅沢するのが当たり前だと、自分は王妃なのだからと、本気でそう思っている人。
孤児院への慰問も私が王太子妃になると行かなくなった。
それでも口を出さないのはありがたい。
陛下に届く書類を見ていて気になる事があった。
「リリーアンヌ」
「タイラーごめんね。急に呼び出したりなんかして」
私室にタイラーが入って来た。
「僕は良いけど。それでどうしたの?」
「うん…」
「リリーアンヌの顔を見たら何かあったくらいは分かるよ?」
「そうよね。あのね、プロパンス地方って昨年天候が悪かったか知りたいの」
「プロパンス地方?確か天災は起きてないはずだよ」
「そう…」
「詳しく調べようか?」
「出来るの?」
「調べれば直ぐに分かるよ」
「なら調べてくれる?」
「分かった」
タイラーが部屋を出て行ってから書類を見る。アルバートに任せた書類。何もないと良いけど。
後日タイラーが私室へ来た。
「どうだった?」
「やっぱり天災は起きてない。天候は良かった」
「なら作物はどうなの?」
「天候が良ければ豊作だったはずだよ。今年も豊作のはず」
「今年も?」
「今年も天候は良いから」
「そう」
「一昨年は雨が続いて不作だったけどね」
「不作の次の年は土壌が駄目になるとか」
「それは考えにくいかな」
「そう…」
「一度見に行こうか?」
「タイラーが?」
「どうせ僕は暇人だし」
「ならお願い出来る?」
「任せて」
「コナーを必ず連れて行って」
「コナーを連れて行くと逆に目立つんだけどな」
「それでもコナー以上にタイラーの護衛を任せられる人はいないわ」
「確かにね。分かった、叔父さんに言ってコナーを連れて行くよ」
「ごめんねタイラー」
タイラーが帰った後、私はお父様に手紙を書いた。コナーは公爵家の護衛騎士だから。
ジェイデンが補佐をしていた時はきちんと処理されている。ジェイデンが補佐する前までは陛下一人で全てを処理していた。ジェイデンの補佐は的確だったんだろうと思う。陛下もジェイデンの補佐に頼り切っていたのかもしれない。
アルバートの見落とし、陛下の体調の変化、ジェイデンが居なくなった穴は私が思うよりも大きい。
「やってくれたわね、ジェイデン…」
私は目を閉じ天を仰いだ。
『いつか、いつか、後悔する時がきっとくる。その時リリーアンヌがどう決断するのか俺は隣国から見守るよ』
ジェイデンの言葉が頭の中で反芻される。
この時ジェイデンはこうなるように仕向けようと考えていたのね。陛下の体調の変化が無くてもジェイデン頼りになった陛下が一人でやってきた事が出来なくなるのは手に取るようにわかる。それはアルバートも同じ。
私は後日お父様が王宮へ来た時に時間を作ってもらった。
私室へ来たお父様と向かい合いソファーに座る。
「どうした」
「お父様、直ぐに動ける者を数人貸してくれませんか」
「何をするつもりだ」
「ジェイデンの抜けた穴は思うよりも大きかったようです。先ずは地方に散らばってもらい情報を仕入れないといけません」
「分かった。直ぐに地方に行かせる」
「ご迷惑をかけてすみません」
「リリーアンヌ、お前が下を向いていてはいけない。下を向いていては何も見えないぞ。前を向け、周りを見ろ、使えるものは使え、そして頼れ。お前なら出来る」
「はいお父様」
「後、ボビーは優秀だ。ボビーになら任せられる」
「分かりました」
ボビー、陛下の執事。優秀なのは知っている。それでも私が頼むのは違うと思い頼むのを躊躇っていた。それでも今は一人でも多くの助けが必要なのも事実。ボビーにも助けてもらおうと思う。
この日、ジェイデンの王の素質を思い知った瞬間だった。
6
お気に入りに追加
804
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
幼馴染に奪われそうな王子と公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
「王子様、本当に愛しているのは誰ですか???」
「私が愛しているのは君だけだ……」
「そんなウソ……これ以上は通用しませんよ???」
背後には幼馴染……どうして???
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
重いドレスと小鳥の指輪
青波鳩子
恋愛
公爵家から王家に嫁いだ第一王子妃に与えられた物は、伝統と格式だった。
名前を失くした第一王子妃は、自分の尊厳を守るために重いドレスを脱ぎ捨てる。
・荒唐無稽の世界観で書いています
・約19,000字で完結している短編です
・恋は薄味ですが愛はありますのでジャンル「恋愛」にしています
・他のサイトでも投稿しています
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる