悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ

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3 18歳 ①

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陛下に呼ばれ、お父様と私は陛下の私室へ向かった。陛下は一人っ子、兄弟のいない陛下は従兄弟のお父様を兄弟のように思っている。だからかお父様は陛下の相談役になる事が多い。

私室へ入るとすでに陛下はソファーに座っていた。


私はカーテシーをしようと、


「挨拶はいらない。それよりも早く座ってくれないか」


陛下は少し困った顔をしている。お父様は陛下の向かいのソファーに座り、私はお父様の隣に座った。


「今日はリリーアンヌまで呼んでどうした」

「それがな、困った事になったんだ」

「言ってみろ」

「隣国がな…」

「ついに戦を始めるのか」


隣国とは折り合いが悪い。


「戦は回避出来た。だがな、王女の婚約者に息子を一人差し出せと言われた」

「王配か」

「ああ」


隣国は第一子が王位を継ぐ。男児なら国王に、女児なら女王に。


「あちらは何と言ってるんだ」

「息子なら誰でも良いと。だがグレイソンはまだ10歳だ。ジェイデンが妥当だと思うが」


隣国の王女はジェイデンと同じ年の15歳。


「ジェイデンか、それだとこちらが痛手だ」

「やはりそう思うか?」

「ああ」

「やはりリリーアンヌには悪いがアルバートにするしかないか」


アルバートは私と婚約している。私との婚約を白紙に戻しアルバートを隣国へ、陛下はそう思っている。だから私が今日呼ばれたんだろうと思う。お父様もきっとアルバートを隣国へと思っている。

国にとって最善の選択ならアルバートとの婚約を白紙に戻す事も仕方がないのは分かる。

それでも幼い頃から国王になりたいと語っていたアルバートにとってこの話は最悪の結果だと思う。国王と王配では立場が違う。アルバートがそれでも良いと言うのなら私は進んで婚約者から身を引く。


「陛下にお父様、少しよろしいでしょうか」


突然の私の発言で陛下とお父様が私を見つめる。


「どうした」


陛下は優しい声で私の発言を許してくれた。


「陛下、この話はアルバート王子も知っていますか?」

「いや、アルバートにはまだ伝えていない」


アルバートにまだ伝えていないなら私が出来る事は一つしかない。


「陛下、私はジェイデン王子が適任だと思います。隣国は天災が多く元々貧しい国。戦を仕掛けるのもこの国の豊かな領土が欲しいからです。この婚約は言わば人質です。ですが同時に交渉人でもあります。今後も戦をさせない為に、この国を護る為に交渉出来る人が適任だと思います。

アルバート王子の優しさは美点ですが欠点でもあります。アルバート王子に交渉が出来ますか?」

「アルバートには無理だ」


お父様の言葉に私は横に座るお父様を見た。


「アルバートは良くも悪くも言葉を信じやすい。恵まれた環境で育ち素直と言えば素直だが、戦を止めるまでの交渉は出来ないだろう。確かにジェイデンの方が適任だ。だが王の素質はジェイデンの方があると俺は思う。アルバートに無い訳ではない。アルバートの努力も知っている。ただ優しさだけで国が治められる程簡単ではない」

「その通りだと思います。ですがアルバート王子が王配になりあちらの人達の言葉を信じたらどうなります?戦なら戦えばいい。でもこちらにとって分が悪い条件を認めたら?アルバート王子はこの国の第一王子、こちらが分が悪いと突き返せばアルバート王子の立場はなくなります。アルバート王子の首だけで済めばまだ良いですがこの国を奪取されたら?

私は交渉が出来る人が適任だと思います。この国を護る為にも、この国の民を護る為にも。

ジェイデン王子には王の素質があると私も思います。それは王配になるに相応しいとも言えます。ジェイデン王子の知性は国を支える側、それは同時にこの国を護る力です。アルバート王子が国王になった時、隣国の王配のジェイデン王子がこの国を隣国から護る、それが出来るのはジェイデン王子しかいません」

「だかな」

「お父様の懸念も分かります。ですがアルバート王子が国王になった時、側で支える者は私を含め多くいます。

ですが隣国へ行かせる者は、自分で考え、見極め、決断する。その力を持つ者でないとこの婚約は意味のないものになってしまいます。

そしてその力を持ち十分に発揮出来るのはジェイデン王子しかいません」

「それも一理あるか」

「はい」


私は陛下を見つめる。陛下と目が合い見つめ合う。


「リリーアンヌの考えは分かった。今日はわざわざ悪かった」



この時、私はアルバートに必ず王位を、と強く思った瞬間だった。



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