半日だけの…。貴方が私を忘れても

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
12 / 12

12

しおりを挟む

呆気なく盗賊を捕らえる事が出来た。

王宮へ帰るまで野営をし夜を過ごす。変わり代わり火の番をしている時、


「隊長、眠れませんか」

「なあルイ、余りにも呆気ないと思わないか?」

「隊長も思いますか」

「お前も思うか。盗賊と言っても雑魚ばかりだった。確かに腕の強い奴も居たが、」

「そうですね、それは思いました。用心棒を雇う盗賊がいる中でそれらしい者は居なかったと」

「ああ、それが引っかかる。明日は峠を越える。用心して行こう」

「分かりました」


朝日が登り始め、隊長を先頭に盗賊達を間で挟み殿は俺。違う部隊が峠近くまで来ている。あと少しという所。


「チッ!やっぱりか」


背中から感じる殺気、


「おい見習い!急いで隊長に知らせろ!後ろから奇襲あり、行け!」

「は、はい!」

見習いが先頭に向かったのを確認し、

「お前達気を引き締め直せ!良いな!」

「はい!」

「ここで迎え討つ!」


騎士達の顔付きが変わり、向きを向き直す。背中から奇襲されるよりは正面の方が戦いやすい。

暫くするとぞろぞろと残党が現れた。

カンカン

剣の交わる音が響く。

おかしい、強い者もいるがどちらかといえば雑魚に近い。


「一人あっちに逃げた!俺追います」

「ニック待て!深追いするな!」


俺の声が届かなかったのかニックの姿が木々に隠れた。


「チッ!あいつは!おい、俺はニックを追いかける。数人付いてこい!残った者は盗賊を捕らえこの場で待機。直ぐに隊長達が来る。隊長達が来たら伝えてくれ、俺達はニックを追いかけたと、行くぞ!」


数人の騎士達を連れてニックを追いかける。この先は崖がある。そこでの戦闘は避けたい。


「ニック!」

「副隊長!すみません」


すでに打ち合いをしているニックに加勢する。

ここにおびき寄せる為か…。だから雑魚ばかりだったのか。強いが人数は互角、腕も互角、これならいける!

と思った瞬間後ろから剣が振り落され俺は剣で止める。

チッ!用心棒がいやがったか!

この男は俺しか相手にはならないだろうな。他の者達は騎士達に任せ、俺はこの男と向き合う。

カンカンと剣の交わる音が消え、この場には俺と目の前の男しかいない世界。

聞こえるのは「ふぅ」と俺の吐く息の音、布が擦れる音、「ジャリ」と足を動かす音、男の殺気が纏い、

カーン!

何度か打ち合い男の足を止める。その場に座り動けなくなった所で首元に剣を向ける。駆けつけた騎士が縄で男を縛る。


「後は任せた」


俺は急いでニック達の戦いに加勢した。次から次へと動きを止めていく。


「うわぁ!」

「ニック!後ろを気をつけろ!」

「は、はい!」


俺は急いでニックに近寄った。ジリジリと押され、足を滑らせたニックの腕を掴み引き寄せた。その反動で俺が崖から落ちる。




やばい!この高さだ!

真下は剥き出しの岩、小川は流れているが深さが足りない。もし運良くあの植木にあの草むらに落ちれば何とか命は助かるかもしれないが。


死ぬのか…、

死にたくない…、死にたくない!


リリーと約束をした。無茶はしないと。

ロイスと約束をした。帰ったら抱っこをすると。

産まれたばかりのロリーナはこれから可愛くなるばかりだ。


こんな所で死にたくない…


ロイス、約束を守れない父親でごめんな。
ロリーナ、もっと抱きしめたかった。

ロイス、ロリーナ、父様はいつもお前達の側で見守っている。その事を忘れないでくれ。


お前達の成長を近くでもっと見たかった…。もっと抱きしめたかった…。

愛してる、可愛い子供達、

愛してるロイス、愛してるロリーナ、俺の愛しい子供達…



リリー、

俺を忘れないでくれ。俺が死んでも俺だけを思い続けてくれ。

リリー、すまない。

リリーを残し先に死ぬ奴なんか忘れて違う男と幸せになってくれ。

やっぱり嫌だ!

他の男と仲良くしている姿を空から見守るなんて俺には出来ない。嫉妬で男を呪い殺しそうだ。

リリーを残し置いていく俺を忘れないでほしいと願い、忘れて幸せになってほしいと願う。俺は矛盾だらけだな…

もし命が助かったのなら騎士は辞めよう…。

どんな姿でもリリーや子供達の側が俺の居場所だ。その居場所を誰にも取られたくない。



リリー、リリー、リリー、

愛してる、愛してる、愛しい人よ、


リリー、愛してる…



あぁ、やっぱり苦労をかけるのだけは、嫌だ………


バキバキバキ ドスン!

さっきまで溢れる涙が頬を伝わず目から流れ散っていき空気と混ざり合い、そして今は頭から流れる血と混ざり合い地面を濡らす。

伸ばした手が空を切る。



あ、あぁ、この手を………、

し、あ……せ……に、で………な……て………、ご……、め…………、

リ…リ……、あ…い……し…………て………………





目が覚めると俺は手をあげていた。何かを掴みたい、この手を掴んでほしい。そしてその手を探している。そう思った。

とても幸せな、でも胸が締め付けられる夢だった気がする。

どんな夢だったのかは分からない。それでも心があの温もりを欲している。

夢を思い出そうとすればするほど頭にもやがかかる。

とても大切な、無くてはならないもの…、

何か大事な、大事な何か……



             完結




完結までお付き合い頂きありがとうございます。

この物語の題名、半日だけの…、この「…」に物語を読み、その感じた思いを「…」に入れて頂けると幸いです。

読む人それぞれによって題名が変わり、題名にあった物語が完成します。

一つの形、夫婦、親子、家族、そして物語。

同じ物語でも、人それぞれ違った題名と物語もまた一つの作品の形かと。

また違う作品でも皆様の目に止まる事を願っています。


           アズやっこ



しおりを挟む
感想 15

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(15件)

スウ
2022.07.29 スウ

こんにちは

完結して少し経ってから改めて全編読み直していました。余韻の残る短い映画のようでした。

10.で完結されなかったことで、夫の記憶がすべて「失われた」というわけでもないことを知ることができました。

美しい物語りをありがとうございました。

アズやっこ
2022.07.29 アズやっこ

スウ様

コメントありがとうございます。

切ない物語だと思います。
ルイもリリーもロイスもロリーナも皆が辛い。それでもほんのささやかな幸せを見つけていく物語です。

ルイの記憶は夢という形で残り、心の中では残っています。ラストにした事で切ない余韻が残せたと思っています。

完結までお付き合い頂きありがとうございます。他の作品もスウ様の目に止まる事を願っています。

解除
グレース
2022.07.27 グレース

毎日の始まりがはじめまして〜✨
完治が見られない中
旦那さんの心の中には未だ元婚約者…
心を削られ日々に(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
お兄ちゃんのロイス君にはしんどかった…(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
でも母を気遣い妹思いの優しいお兄ちゃん✨

世に聞く記憶喪失なら
そこからまた新しく家族を作れるとは思うが
毎日がはじめましてでは
妻子が不憫でたまらない…。゚(゚´ω`゚)゚。

アズやっこ
2022.07.27 アズやっこ

グレース様

コメントありがとうございます。

1日しか記憶が残らないルイにとってどれだけリリーを好きになっても、子供達に愛情を持っても、次の日には忘れてしまいます。

リリーも子供達の出した結論に異を唱えるつもりはありません。

『はじめまして』から始まる一日を一生続けるのか、それとも今日までか、
子供達の幸せを願うばかりです。

完結までお付き合い頂きありがとうございます。違う作品もグレース様の目に止まる事を願っています。

解除
ファル子
2022.07.27 ファル子

最終話でルイの執念が生還に繋がったのかな?
と思いました。

生還しなかった方が良かったかといえばそれは絶対に無いなと思いました。
妻も子ども達も辛い気持ちになる事もあるだろうけど、ルイは誠実だし自分なりに3人を大切にしているんだなと思います。
記憶を失いつつも何度も夜には妻を想うのが何とも言えませんでした。

夢に滑落前〜滑落の状況が出てくるのが、記憶が失われた訳では無かったんだなと少しの希望があってスパッと完で読者に任されているのが何とも言えない余韻を残してくれました。

完結おめでとうございます。

アズやっこ
2022.07.27 アズやっこ

ファル子様

コメントありがとうございます。

頭と心は同じのようで同じじゃない。眠っているからこそ深層心理が見せた夢…だと。

完結までお付き合い頂きありがとうございます。違う作品もファル子様の目に止まる事を願っています。

解除

あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす

春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。 所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが── ある雨の晩に、それが一変する。 ※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

一番でなくとも

Rj
恋愛
婚約者が恋に落ちたのは親友だった。一番大切な存在になれない私。それでも私は幸せになる。 全九話。

醜いと言われて婚約破棄されましたが、その瞬間呪いが解けて元の姿に戻りました ~復縁したいと言われても、もう遅い~

小倉みち
恋愛
 公爵令嬢リリーは、顔に呪いを受けている。  顔半分が恐ろしい異形のものとなっていた彼女は仮面をつけて生活していた。  そんな彼女を婚約者である第二王子は忌み嫌い、蔑んだ。 「お前のような醜い女と付き合う気はない。俺はほかの女と結婚するから、婚約破棄しろ」  パーティ会場で、みんなの前で馬鹿にされる彼女。  ――しかし。  実はその呪い、婚約破棄が解除条件だったようで――。  みるみるうちに呪いが解け、元の美しい姿に戻ったリリー。  彼女はその足で、醜い姿でも好きだと言ってくれる第一王子に会いに行く。  第二王子は、彼女の元の姿を見て復縁を申し込むのだったが――。  当然彼女は、長年自分を散々馬鹿にしてきた彼と復縁する気はさらさらなかった。

【完結】元強面騎士団長様は可愛いものがお好き〜虐げられた元聖女は、お腹と心が満たされて幸せになる〜

水都 ミナト
恋愛
女神の祝福を受けた聖女が尊ばれるサミュリア王国で、癒しの力を失った『元』聖女のミラベル。 『現』聖女である実妹のトロメアをはじめとして、家族から冷遇されて生きてきた。 すっかり痩せ細り、空腹が常となったミラベルは、ある日とうとう国外追放されてしまう。 隣国で力尽き果て倒れた時、助けてくれたのは――フリルとハートがたくさんついたラブリーピンクなエプロンをつけた筋骨隆々の男性!? そんな元強面騎士団長のアインスロッドは、魔物の呪い蝕まれ余命一年だという。残りの人生を大好きな可愛いものと甘いものに捧げるのだと言うアインスロッドに救われたミラベルは、彼の夢の手伝いをすることとなる。 認めとくれる人、温かい居場所を見つけたミラベルは、お腹も心も幸せに満ちていく。 そんなミラベルが飾り付けをしたお菓子を食べた常連客たちが、こぞってとあることを口にするようになる。 「『アインスロッド洋菓子店』のお菓子を食べるようになってから、すこぶる体調がいい」と。 一方その頃、ミラベルを追いやった実妹のトロメアからは、女神の力が失われつつあった。 ◇全15話、5万字弱のお話です ◇他サイトにも掲載予定です

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。