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しおりを挟む呆気なく盗賊を捕らえる事が出来た。
王宮へ帰るまで野営をし夜を過ごす。変わり代わり火の番をしている時、
「隊長、眠れませんか」
「なあルイ、余りにも呆気ないと思わないか?」
「隊長も思いますか」
「お前も思うか。盗賊と言っても雑魚ばかりだった。確かに腕の強い奴も居たが、」
「そうですね、それは思いました。用心棒を雇う盗賊がいる中でそれらしい者は居なかったと」
「ああ、それが引っかかる。明日は峠を越える。用心して行こう」
「分かりました」
朝日が登り始め、隊長を先頭に盗賊達を間で挟み殿は俺。違う部隊が峠近くまで来ている。あと少しという所。
「チッ!やっぱりか」
背中から感じる殺気、
「おい見習い!急いで隊長に知らせろ!後ろから奇襲あり、行け!」
「は、はい!」
見習いが先頭に向かったのを確認し、
「お前達気を引き締め直せ!良いな!」
「はい!」
「ここで迎え討つ!」
騎士達の顔付きが変わり、向きを向き直す。背中から奇襲されるよりは正面の方が戦いやすい。
暫くするとぞろぞろと残党が現れた。
カンカン
剣の交わる音が響く。
おかしい、強い者もいるがどちらかといえば雑魚に近い。
「一人あっちに逃げた!俺追います」
「ニック待て!深追いするな!」
俺の声が届かなかったのかニックの姿が木々に隠れた。
「チッ!あいつは!おい、俺はニックを追いかける。数人付いてこい!残った者は盗賊を捕らえこの場で待機。直ぐに隊長達が来る。隊長達が来たら伝えてくれ、俺達はニックを追いかけたと、行くぞ!」
数人の騎士達を連れてニックを追いかける。この先は崖がある。そこでの戦闘は避けたい。
「ニック!」
「副隊長!すみません」
すでに打ち合いをしているニックに加勢する。
ここにおびき寄せる為か…。だから雑魚ばかりだったのか。強いが人数は互角、腕も互角、これならいける!
と思った瞬間後ろから剣が振り落され俺は剣で止める。
チッ!用心棒がいやがったか!
この男は俺しか相手にはならないだろうな。他の者達は騎士達に任せ、俺はこの男と向き合う。
カンカンと剣の交わる音が消え、この場には俺と目の前の男しかいない世界。
聞こえるのは「ふぅ」と俺の吐く息の音、布が擦れる音、「ジャリ」と足を動かす音、男の殺気が纏い、
カーン!
何度か打ち合い男の足を止める。その場に座り動けなくなった所で首元に剣を向ける。駆けつけた騎士が縄で男を縛る。
「後は任せた」
俺は急いでニック達の戦いに加勢した。次から次へと動きを止めていく。
「うわぁ!」
「ニック!後ろを気をつけろ!」
「は、はい!」
俺は急いでニックに近寄った。ジリジリと押され、足を滑らせたニックの腕を掴み引き寄せた。その反動で俺が崖から落ちる。
やばい!この高さだ!
真下は剥き出しの岩、小川は流れているが深さが足りない。もし運良くあの植木にあの草むらに落ちれば何とか命は助かるかもしれないが。
死ぬのか…、
死にたくない…、死にたくない!
リリーと約束をした。無茶はしないと。
ロイスと約束をした。帰ったら抱っこをすると。
産まれたばかりのロリーナはこれから可愛くなるばかりだ。
こんな所で死にたくない…
ロイス、約束を守れない父親でごめんな。
ロリーナ、もっと抱きしめたかった。
ロイス、ロリーナ、父様はいつもお前達の側で見守っている。その事を忘れないでくれ。
お前達の成長を近くでもっと見たかった…。もっと抱きしめたかった…。
愛してる、可愛い子供達、
愛してるロイス、愛してるロリーナ、俺の愛しい子供達…
リリー、
俺を忘れないでくれ。俺が死んでも俺だけを思い続けてくれ。
リリー、すまない。
リリーを残し先に死ぬ奴なんか忘れて違う男と幸せになってくれ。
やっぱり嫌だ!
他の男と仲良くしている姿を空から見守るなんて俺には出来ない。嫉妬で男を呪い殺しそうだ。
リリーを残し置いていく俺を忘れないでほしいと願い、忘れて幸せになってほしいと願う。俺は矛盾だらけだな…
もし命が助かったのなら騎士は辞めよう…。
どんな姿でもリリーや子供達の側が俺の居場所だ。その居場所を誰にも取られたくない。
リリー、リリー、リリー、
愛してる、愛してる、愛しい人よ、
リリー、愛してる…
あぁ、やっぱり苦労をかけるのだけは、嫌だ………
バキバキバキ ドスン!
さっきまで溢れる涙が頬を伝わず目から流れ散っていき空気と混ざり合い、そして今は頭から流れる血と混ざり合い地面を濡らす。
伸ばした手が空を切る。
あ、あぁ、この手を………、
し、あ……せ……に、で………な……て………、ご……、め…………、
リ…リ……、あ…い……し…………て………………
目が覚めると俺は手をあげていた。何かを掴みたい、この手を掴んでほしい。そしてその手を探している。そう思った。
とても幸せな、でも胸が締め付けられる夢だった気がする。
どんな夢だったのかは分からない。それでも心があの温もりを欲している。
夢を思い出そうとすればするほど頭にもやがかかる。
とても大切な、無くてはならないもの…、
何か大事な、大事な何か……
完結
完結までお付き合い頂きありがとうございます。
この物語の題名、半日だけの…、この「…」に物語を読み、その感じた思いを「…」に入れて頂けると幸いです。
読む人それぞれによって題名が変わり、題名にあった物語が完成します。
一つの形、夫婦、親子、家族、そして物語。
同じ物語でも、人それぞれ違った題名と物語もまた一つの作品の形かと。
また違う作品でも皆様の目に止まる事を願っています。
アズやっこ
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