半日だけの…。貴方が私を忘れても

アズやっこ

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6 ルイ視点

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朝目が覚めると、全身が重く思うように動かせない。頭にもやがかかる。何か大事な……、大事な何か。

大事?そうだ、エマ!エマが心配している。

起き上がろうと体を起こす。

俺の視線に入った女性。女性が部屋の中にいるだと!いくらメイドでも呼んでもいないのに部屋の中に入るのはメイドとして失格だ。


「お前は誰だ!誰に許可を得てここにいる!」


メイドは悪びれる様子もなく堂々とした態度だ。それに妻だと?俺が愛しているのはエマだ。世話係?世話など必要ない。どこも悪くもない。

立ち上がろうとすると足に力がはいらず崩れ落ちる。

何がどうなってる

俺は騎士だ。足が動かなければ…。起きた時の体の重さ、思うように動かせない体、

俺の足はもう動かないのか

目の前のメイドも俺の足は動かないと言う。崖から落ち大怪我だったと。もう騎士には戻れないと、俺は騎士ではないと。

ふざけるな!

簡単に『そうか』と納得出来る訳がない。俺が今までどんなに頑張ってきたか、エマの為にどれだけ努力し騎士になったか、

お前は知らないだろ!


「お前は悪魔か!」


そう言っても仕方がない。俺は騎士に戻れず足は動かない、それをお前は微笑みながら俺に伝える。悪魔だと思っても仕方がない。今も自分の頭を触って「角が生えていますか」って、お前に角が生えていてこれが現実ではなく夢の中ならどれだけ良かったか…。

だが、足が動かないのは自分でも分かる。さっきから何度動かそうとしても動かない。こんな足では騎士なんて無理だ。納得は出来ないが、納得するしかない。

それよりもだ、この女が妻だと。俺の愛してる女性はエマだ。


「エマはどこにいる?」


エマは俺の愛する人で結婚の約束をしている。エマも俺を愛していて騎士で生計がたてられたら結婚しようと先日も話していた。エマの喜んだ顔も覚えている。


「エマ様は婚姻し今は伯爵夫人になりました」

「エマが伯爵夫人?そんな馬鹿げた話はやめてくれ。エマは俺と結婚すると言った。今すぐエマを連れて来てくれ」

「それは出来ません」

「お前が俺とエマを引き離したのか」


エマが俺以外と結婚するはずがない。確かに身分違いだの言われていたが俺も次男だ。侯爵と付いても跡継ぎでもない。身分違いも何もないだろ。

それに伯爵夫人だと?

エマにかぎってそれは無い。俺達は幼い頃からお互いが好きで愛し合った。

幼い頃は嫌嫌剣の稽古をしていた。それでもエマと結婚するなら騎士で生計を立てるのが一番だ。エマの為に騎士になりたいと言った時も側で支えてくれた。

『ルイなら絶対に騎士になれる。騎士になって私を護ってね』

そう言った時の笑顔が今の俺を支えているんだ。9年その言葉を胸に、エマの笑顔を支えに頑張って努力してきた。

俺の妻はエマしか考えられない。


「ベイクを呼んでくれ」


いつもなら直ぐに来るベイクが直ぐに来ない。俺は苛立ち始めた。

いつもなら数分で来るのが10分たっても来ない。ベイクが来たのは30分以上たってからだった。


「ルイ様お待たせしました」

「遅いぞベイク。何をしていた」

「私も忙しい身ですので」

「それよりベイクいつの間にそんなに老けた」

「気苦労が絶えませんので」

「そうか、ベイクも苦労しているんだな」

「それよりもどのようなご用件でしょうか」

「ああ、エマに会いたい。怪我をしてエマが心配していると思う。元気になった姿を見せたいんだ。エマの家に先触れと馬車の用意を頼む」

「それは出来ません」

「何故だ」

「エマ様はもう伯爵当主夫人です」

「そんなはずはない。俺とエマは愛し合ってる」

「19歳のルイ様にはとても残酷な事ですが、エマ様はルイ様を捨て伯爵家へ嫁いでいきました」

「そんな馬鹿な…。それを信じろと言うのか」

「信じるか信じないかはルイ様次第です」

「父上が用意した女性も言っていた。エマが伯爵夫人だと、それに自分が俺の妻だと。どういう事だ」

「ルイ様は怪我をされて少々お忘れになっている部分があります。彼女は貴方の奥様に間違いありません」

「エマと結婚出来なくて俺は誰でも良かったのか…。だからあの女性を妻にした…のか?」

「ルイ様、ルイ様がお忘れになっている部分ですが、それでも彼女は貴方の妻。今はそこに何の感情を持てなくても、侯爵令息として紳士であるべし、私はそう思います」

「それは分かっている。例え政略結婚だとしても妻に対して紳士でいないといけない。それは分かっている。だが、心はエマを欲している。俺はどうしたら良い」

「ではまずエマ様の事はお忘れ下さい」

「それは!それは出来ない。俺はエマを愛してる。その気持ちを捨てるなど…、それは出来ない…」

「なら貴方は伯爵夫人のエマ様の愛人になると?囲われ日陰者として暮らすと?」

「そうじゃない!そうじゃないが、そうなるのか…」

「はい、もうあちらは婚姻した人妻です。貴方はもう恋人でもなければ婚約者でもない。そんな貴方がどうしてもエマ様の側に居たいとおっしゃるなら愛人に成り下がりなさい」


愛人になんてなれない。侯爵令息としての矜持、それもある。それでもエマの幸せを壊したい訳じゃない。エマが今幸せならそれで良いんだ。



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