キエフの亡霊――Phantom of Kyiv――

古井論理

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守護霊

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「あと十分で第二波攻撃隊が到着する!それまでの間になんとしても護衛機を撃ち減らしてくれ!」
 司令部からの通信がトカーチ少佐たちの無線機を震わせる。トカーチ少佐は「了解」とだけ言ってボーンダル大尉、コヴァーリ少尉、シュヴェーツィ中尉への通信回線を開いた。
「散開せよ、各個撃破に作戦を転換する!攻撃してくる敵戦闘機は残十機、我々より二機多い。第一小隊は可能なら二機ペアになって敵機を攻撃してくれ」
 「キエフの亡霊」はさっと編隊のようなまとまりを解くと、それぞれ一機の後ろを取ってここぞとばかりに短距離ミサイルを発射した。ミサイルは敵戦闘機に命中し、敵戦闘機は爆発する。その時だった。
「第一小隊三番機、被弾!機体が言うことを聞きません!」
「脱出しろ、急げ!燃えてるぞ!」
 ウクライナ空軍のMiG-29戦闘機一機がついに被弾し、墜落する。トカーチ少佐はうろたえる第一小隊に言う。
「攻撃に集中しろ。背後は俺たちが守る」
 「キエフの亡霊」はロシア軍の戦闘機をすてに累計五十機は撃墜している。しかし、このロシア軍機は明らかにこれまでの敵より練度が段違いに高かった。
「よし、剥がれた奴らは全部やったぞ」
 トカーチ少佐がそう言ったときには、第一小隊二番機も被弾して炎上している。加えてTu-160に張り付いていた敵機二十機のうち十六機が上昇し、ウクライナ軍戦闘機隊に攻撃をかけた。「キエフの亡霊」の各機はミサイルをロシア軍機にロックオンするが、そのときコヴァーリ少尉機を機銃弾が貫いた。
「くっ」
「コヴァーリ!」
 コヴァーリ少尉機は少しの間姿勢を立て直し敵機にミサイルを放ったが、そのまま雲の下へと消えていった。「キエフの亡霊」の一機を落としたロシア軍機に、ボーンダル大尉機がミサイルを放つ。ミサイルをまともに食ったロシア軍機は墜落していった。ロシア軍の戦闘機の無線はウクライナ軍戦闘機でも傍受できる通常無線だ。その無線で、ロシア軍のパイロットたちは歓喜していた。
「『キエフの亡霊』をやったぞ!」
 トカーチ少佐は通常無線を開いた。
「ロシア軍機に通告する、『キエフの亡霊』は私だ。さっき貴様らが落とした彼ではない!」
 そう叫ぶと、トカーチ少佐機は急上昇する。ロシア軍機はそれを追って上昇しようとするが、それにボーンダル大尉とシュヴェーツィ中尉がミサイル攻撃を加えた。さらにトカーチ少佐機は一転急降下を開始し、追ってくるロシア軍戦闘機の弾を避けつTu-160をミサイルの目標にセットした。ミサイル二発をTu-160に向けて発射したトカーチ少佐機は護衛についていたロシア軍のMiG-29三機に残る三発のミサイルの目標をセットし、ミサイルを放った。そして最後の一機の正面に回り込み、機関砲をコックピットに直撃させる。第二波攻撃隊の到着まであと八分というところで、ミサイルはTu-160を捉え、その白い機体の後方に直撃した。
「やったか……!」
 Tu-160の片方のエンジンが火を吹く。しかし、炎は三十秒ほどで消えた。トカーチ少佐は残る機関砲弾の全てをTu-160に放つ。Tu-160の機体後部が穴だらけになり、再びTu-160は煙を吐き始めた。
「『キエフの亡霊』よりロシア軍へ、速やかな撤退を推奨する!」
 トカーチ少佐がそう言うと、残存する九機のロシア軍機はTu-160とともに反転していった。しかしTu-160の護衛機だけが再び反転し、ミサイルを放つ。突然の攻撃に、ウクライナ空軍のMiG-29戦闘機三機が墜落していった。Tu-160は全速力でベラルーシの方角へと退避していく。ウクライナ空軍の二機だけ残ったMiG-29とロシア軍の戦闘機はキエフまで三十キロの地点に来ていた。ウクライナ軍のMiG-29二機はキエフ上空にたどり着き、見事な連携で高度を下げてロシア軍戦闘機を誘う。ロシア軍戦闘機九機がウクライナ軍のMiG-29を追って高度を下げるさなか、ウクライナ空軍の第二波は帰投ルートに入っていた。ロシア軍戦闘機二機が突然火を吹く。ウクライナ空軍のMiG-29二機が反転し、ロシア軍の戦闘機に機関砲を放ったのだ。低空域に突っ込みながら、ロシア軍戦闘機七機とウクライナ空軍のMiG-29二機による空戦が始まった。
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