上 下
4 / 15

悪夢と亡霊

しおりを挟む
 戦場に到着した四機のMiG-29は、ロシア軍のSu-27に対し攻撃を始めた。防空中隊所属のMiG-29五機が援護に入る。
「『キエフの亡霊』と仲間の背後を守れ!」
「了解!」
 「キエフの亡霊」のMiG-29四機がロシア軍のSu-27を立て続けに一機ずつ撃墜し、各機が電波妨害装置でミサイルをかわしつつ次なるSu-27に狙いを定めた。コヴァーリ少尉が電波妨害装置を切ってミサイルの照準を一機のSu-27にロックする。ミサイルが発射された直後、シュヴェーツィ中尉機が二機編隊を組むSu-27にアフターバーナーを焚いて接近し、機関砲を撃ちまくる。二機のSu-27は避けながらミサイルを放とうとする。その瞬間二機にミサイルが迫った。トカーチ少佐機が放ったミサイルである。二機はバラバラになって墜落していった。そしてシュヴェーツィ中尉機の背後に回り込んだSu-27は、コヴァーリ少尉が撃った機関砲で墜落していった。
「なかなか上手いな、コヴァーリ」
「いえ、運が良かったんですよ」
 援護機も連携してSu-27を二機撃墜し、低空域ではMi-28がMiG-29に追い回されては撃墜されている。わずか一六機で出撃し、一三機まで減らされ瀕死のウクライナを守る旧式戦闘機MiG-29は、格上のはずのロシア空軍機相手にかなり善戦している。ウクライナ軍の思わぬ反撃に対し、ロシア戦闘機の隊長は慌てて撤退準備を指示した。現代の戦闘機同士の戦いでここまでの被撃墜機が出るということは普通あり得るものではない。落とされても五機ほどであろうし、しかも格下を相手にしているのだ。なぜここまでの力が残っているかは、隊長にはすぐにわかった。
「『キエフの亡霊』が戦意を上げた……か」
 ボーンダル大尉機を先頭にして迫ってくる四機のMiG-29に、隊長機をはじめとする各機はミサイルを放とうと電波妨害装置を切る。と、四機は先にミサイルを発射した。隊長機はミサイルのロックを取りやめ、妨害装置を起動して急降下する。他のSu-27もそれに続くが、一瞬の差でミサイルが命中し、五機が墜落する。ここに、ロシア軍とウクライナ軍の局地的な戦力差は逆転した。残る十機のSu-27は格闘戦に持ち込もうとするMiG-29を振り切ろうとわずかに勝る速力で逃げる。しかしミサイルを二発か四発しか搭載しておらず、それも撃ち尽くしたMiG-29はまだ殆どのミサイルを搭載しているSu-27に追いすがり、接近しながら機関砲による銃撃を加えた。数機のSu-27が被弾し、煙を吐き始めたのが見えた。
「よし、その調子だ」
 MiG-29はSu-27に反撃の機会を与えず、一方的に屠っていく。その姿はまるで数も質も劣る格下を相手にしているような錯覚を見る者に与えた。ロシア軍戦闘機は殲滅され、隊長機が墜落する。攻撃ヘリも大した損害を与えられず、全滅に近い損耗率で逃走した。
「ロシアの大規模兵力が接近している……となると、キエフ陥落は近いだろう。あとはゼレンスキー大統領がどのような決定をするか、か……」
 ボーンダル大尉はそんなことを考えながら、着陸してエンジンの回転を落とすMiG-29のコクピットで酸素マスクに手をかけていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

命の番人

小夜時雨
歴史・時代
時は春秋戦国時代。かつて名を馳せた刀工のもとを一人の怪しい男が訪ねてくる。男は刀工に刀を作るよう依頼するが、彼は首を縦には振らない。男は意地になり、刀を作ると言わぬなら、ここを動かぬといい、腰を下ろして--。 二人の男の奇妙な物語が始まる。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

御懐妊

戸沢一平
歴史・時代
 戦国時代の末期、出羽の国における白鳥氏と最上氏によるこの地方の覇権をめぐる物語である。  白鳥十郎長久は、最上義光の娘布姫を正室に迎えており最上氏とは表面上は良好な関係であったが、最上氏に先んじて出羽国の領主となるべく虎視淡々と準備を進めていた。そして、天下の情勢は織田信長に勢いがあると見るや、名馬白雲雀を献上して、信長に出羽国領主と認めてもらおうとする。  信長からは更に鷹を献上するよう要望されたことから、出羽一の鷹と評判の逸物を手に入れようとするが持ち主は白鳥氏に恨みを持つ者だった。鷹は譲れないという。  そんな中、布姫が懐妊する。めでたい事ではあるが、生まれてくる子は最上義光の孫でもあり、白鳥にとっては相応の対応が必要となった。

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

処理中です...