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古井論理

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悪魔との座談

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 悪魔は子供用の椅子を僕の目の前でどこからともなく取り出して、それに腰かけた。

「あなたは私に対し、二つの願いを託しました。一つは小学生の頃自殺を止めることができなかった同級生の少女を助けること、もう一つは大切な人の記憶に残ることです。あなたが望まなくてもあなたが助けた彼女があなたの大切な人になることは決まっていたわけですが」

「それで、夜河さんが僕の状況を冷静に受け止めてくれたのはどうして?普通に考えて、同棲してるような人間が突然記憶喪失になったら慌ててしまって何もできないはずなのに……」

 悪魔は椅子のひじ掛けをトントンと指でたたきながら聞いていた。その目が憐れみを湛えたものになったのは僕が話し終えてすぐだった。

「あなたは大事なことがまだわかっていないようですね。命の管理は我々悪魔が行っているわけではなく、悪魔は命を売るにあたって、神から裏取引で買わなければなりません。つまり命が私の手元にある時期というものが、存在します」

「それはつまり……」

 僕がたどり着いた答えに突き当たるまでの間に、悪魔は口を開いた。

「そう、私は彼女に状況を説明しました。あなたの意思を無下にしないように、そしてあなたが命を懸けて得ようとした状況を壊さないように、と。あなたに残された時間は短いということも説明しましたから、彼女は不自然に映るリスクを冒しても状況を受け入れると決めたのでしょう」

 悪魔は話を続ける。

「そうそう、あなたが同期だと認識している空気の読めない藤崎氏は、私と過去に契約した人間です。おそらくあなたの病気のことも彼は知っていた」

 唖然としている僕の前で悪魔はそっと立ち上がり、僕の手を取って立ち上がるよう促した。

「お礼を言いに行きましょう。夢の中で、二人で話せばいい。あなたがここで待っていれば、おそらく彼は気にしてくれます。無意識のうちに……ね」

 悪魔がそう言って僕が立ち上がったとき、目の前に藤崎が現れた。

「やあ藤崎、ありがとな」

「どういたしまして……といえばいいんですかね?とりあえず状況はわかりました。あなたも悪魔と契約したのだと、あの時察しました。末永くお幸せにあってほしかった。どうして八重氏は死を選んだのかは聞きません。でも、あなたの散り際は間違いなく桜のものでしたよ」

 どうしてもこうして見ると藤崎は嫌な奴かもしれない。だが、僕は彼に頭を下げる。心からの感謝をこめて、彼にお辞儀をした。

「ありがとう。藤崎のおかげで、僕は夜河さんとの時間を無駄にせずに済んだ。だから本当に、ありがとう」

「どういたしまして。また会うときは地獄だな」

 僕はうなずいて、「お互い頑張ろうぜ」と藤崎の肩をたたく。藤崎はすっと目の前から消えていった。

「あなたは今日中に心肺停止状態となり、死ぬことになります。ですから、あなたに一つだけ」

 悪魔はそう言って僕の手を引き、歩き出した。僕がついていくと、悪魔は一枚の写真を取り出す。

「これは十年後の夜河さんです。あなたとの子供と一緒に頑張っているはずです……これ以上の変更が発生しなければ。それでは、ありがとうございました。あなたが死に次第、私は魂を神に引き渡して仕事を終えます。地獄での生活も悪くはないですよ。お疲れさまでした」

 悪魔の姿が消えていくと、僕は自分の存在がふわりと浮かび上がるのを感じた。街の明かりがどんどんと遠ざかっていく。明日のページを開く夜河さんが脳裏をよぎったかと思うと、僕の意識は暗転した。
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みんなの感想(1件)

クライングフリーマン

既視感。デジャブ。実は、何度も経験しました。友人は、「たまたま想像していたことと一致しただけ」と笑いましたが。
「時間が跳んだ」。そういう感覚もたまにあります。「SFの見過ぎだ」と、これも友人に笑われました。
でも、不可解な現象は、どこにでもあります。ひょっとしたら、私の側にも「悪魔」がいて笑っているのかも。
また、読ませて頂ければ幸いです。新参者です。よろしくお願いします。

解除

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