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未知の大切
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「八重くん?」
彼女の言葉に応じようとして、僕は戸惑った。彼女の名前を知らないのに、どうやって応じようか。口ごもりながらも、僕は正直であろうとする。
「あなたは誰ですか?」
「なに、どうしたの?……私の名前くらい覚えといてくれるかな。私は夜河。夜河柚月。八重くんとは小学校以来の友達だったはずなんだけどね」
小学校以来。その言葉にどこか記憶の暗い場所をくすぐられたような気がして、僕は考え込みかけた。だが当惑しながらも答えてくれた彼女になんだか悪い気がして、僕は嘘を混ぜ込んだ返事をすることにした。
「そうだったんですか。僕、さっきここで起きるより前の記憶が全然ないんですよね」
本当は夜河さんがいない日々の記憶が十八年分蓄積されているわけだが、それは隠すべきだろう。それよりも夜河さんの小学校以来という言葉が何か記憶をくすぐるような感覚を呼んだのが気になって、僕は質問を投げかけていた。
「知り合ったときのこととか教えてほしいんですけど良いですか?」
「いいよ。でも、その前にタメ口で話してくれると嬉しいかな。なんとなく変な感じがする」
「わかり……わかった。こんな感じで良いかな」
夜河さんは頷いて、過去のことを簡単に話してくれた。端的にまとめると、夜河さんがいじめを苦にして自殺しようとしたときに僕が必死で止めたのが知り合ったきっかけで、僕は彼女にとってみれば命の恩人だという。
「なんでさっきまで一緒の部屋で寝てたかって?そりゃあまあそういうことだね」
夜河さんはそう言って笑った。その笑顔に僕はなぜか安堵したが、それよりも自殺とか止めたとか命とかの発言を聞いたときは僕からしてみればかなり心を抉られたような心持ちだった。忘れたくて考えないようにしていた記憶……いや、正確にはそれらしきものが意識の暗がりから飛び出してきたからである。悪魔とか生命屋とか、そんなことが書かれたメモにもなんとなく覚えがあるような気がしてきて、僕は訳の分からない不安に全身があわ立つ瞬間を認識した。メモを見せた方が良いのだろうか。彼女はもしや、契約に関連する人なのだろうか。
「あの……」
メモを開こうとして、僕は考え込んだ。こんなメモを見せて、いかれているとは思われないだろうか。それ以前に、このメモは夜河さんに見せていいものなのだろうか。僕が知らないとはいえ大切な存在だというこの人に。そこまで考えが及んだところで、文章をもう一度頭の中で整理してみた。
……知らないんじゃない、覚えていないんだ。僕が覚えていないだけで、彼女は僕を覚えている。知らないわけじゃない。どこかで見たはずなのだ。なんなら彼女の記憶とは食い違いがあるとはいえ、僕の中にもぼんやりと像を結びつつある記憶の一枚がある。その記憶がはまり込む場所はどこだったのだろうか。全く思い出せない。
「どうしたの?」
「いいや、何もない」
僕は深入りされる前に誤魔化すことを選んだ。これが正しい選択だと信じたい。と、スマホが震え、通知が表示される。スマホのリマインダーだった。
彼女の言葉に応じようとして、僕は戸惑った。彼女の名前を知らないのに、どうやって応じようか。口ごもりながらも、僕は正直であろうとする。
「あなたは誰ですか?」
「なに、どうしたの?……私の名前くらい覚えといてくれるかな。私は夜河。夜河柚月。八重くんとは小学校以来の友達だったはずなんだけどね」
小学校以来。その言葉にどこか記憶の暗い場所をくすぐられたような気がして、僕は考え込みかけた。だが当惑しながらも答えてくれた彼女になんだか悪い気がして、僕は嘘を混ぜ込んだ返事をすることにした。
「そうだったんですか。僕、さっきここで起きるより前の記憶が全然ないんですよね」
本当は夜河さんがいない日々の記憶が十八年分蓄積されているわけだが、それは隠すべきだろう。それよりも夜河さんの小学校以来という言葉が何か記憶をくすぐるような感覚を呼んだのが気になって、僕は質問を投げかけていた。
「知り合ったときのこととか教えてほしいんですけど良いですか?」
「いいよ。でも、その前にタメ口で話してくれると嬉しいかな。なんとなく変な感じがする」
「わかり……わかった。こんな感じで良いかな」
夜河さんは頷いて、過去のことを簡単に話してくれた。端的にまとめると、夜河さんがいじめを苦にして自殺しようとしたときに僕が必死で止めたのが知り合ったきっかけで、僕は彼女にとってみれば命の恩人だという。
「なんでさっきまで一緒の部屋で寝てたかって?そりゃあまあそういうことだね」
夜河さんはそう言って笑った。その笑顔に僕はなぜか安堵したが、それよりも自殺とか止めたとか命とかの発言を聞いたときは僕からしてみればかなり心を抉られたような心持ちだった。忘れたくて考えないようにしていた記憶……いや、正確にはそれらしきものが意識の暗がりから飛び出してきたからである。悪魔とか生命屋とか、そんなことが書かれたメモにもなんとなく覚えがあるような気がしてきて、僕は訳の分からない不安に全身があわ立つ瞬間を認識した。メモを見せた方が良いのだろうか。彼女はもしや、契約に関連する人なのだろうか。
「あの……」
メモを開こうとして、僕は考え込んだ。こんなメモを見せて、いかれているとは思われないだろうか。それ以前に、このメモは夜河さんに見せていいものなのだろうか。僕が知らないとはいえ大切な存在だというこの人に。そこまで考えが及んだところで、文章をもう一度頭の中で整理してみた。
……知らないんじゃない、覚えていないんだ。僕が覚えていないだけで、彼女は僕を覚えている。知らないわけじゃない。どこかで見たはずなのだ。なんなら彼女の記憶とは食い違いがあるとはいえ、僕の中にもぼんやりと像を結びつつある記憶の一枚がある。その記憶がはまり込む場所はどこだったのだろうか。全く思い出せない。
「どうしたの?」
「いいや、何もない」
僕は深入りされる前に誤魔化すことを選んだ。これが正しい選択だと信じたい。と、スマホが震え、通知が表示される。スマホのリマインダーだった。
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