5 / 8
作戦開始
しおりを挟む
クリスマスが終わったときには、「はつせ」はマカスネシア連邦の離島「トカ島」の排他的経済水域に入ってから抜けていた。サンタ・ベルナージまであと一日となった二十六日未明、「はつせ」を含む第五護衛艦隊は「くにさき」と合流し第三任務部隊が完全に揃った。そして作戦は実行段階に移り、発動命令が下りた。
「うんりゅう」 午前八時
「シアム海軍『ラタナコーシン』接近中。あと十分ほどで合流します」
と、ソナー室から待ちに待った報告が飛んできた。
「『バリアスコス』発見!まだこちらには気づいていないようです!」
「水測長、何か気になることは」
「『バリアスコス』のノイズの向こうに、反乱軍リーダーのテラメル元帥の声が聞こえます。現在放送されている情報とは違う内容です」
「よろしい、『バリアスコス』は反乱軍側についたと判定する。一番及び二番発射管、自動追尾水雷、用意!目標セット、『バリアスコス』!弾頭はダミーウェイトを搭載せよ!速度セット、五十ノット!二番のみ距離三千以内は直進にセットせよ!三番にはデコイを用意せよ!」
「了解」
一番、二番発射管に魚雷が装填される。「うんりゅう」は静かに魚雷発射管に注水すると、発射管の扉を開いた。
「一番発射」
魚雷のスクリュー音が「バリアスコス」のソナーに伝わった。「バリアスコス」の艦長は機関停止を命じる。
「『バリアスコス』、機関止りました」
「こちらの位置は悟られたとみて良いだろう。魚雷が来るぞ、デコイ発射用意!」
「『バリアスコス』が何か発射しました!数は一、二……六!魚雷のようです」
「三番発射!」
「バリアスコス」が魚雷を発射したのと同時に、「うんりゅう」はデコイを発射した。デコイはけたたましいエンジン音を立てながら、「バリアスコス」が発射した魚雷の前を突っ切る。
「魚雷、距離二千五百で全弾爆発!」
「よし、二番発射!」
二番発射管から魚雷が発射され、まっすぐ進んでいく。そして三千メートル進んだ点で、魚雷は「バリアスコス」の音を探知した。
「命中まで五、四、三、二……命中!」
静かな打撃音とともに、「バリアスコス」のキュルキュルというスクリュー音が止まったのを確認したという報告が艦橋に響いた。
「『バリアスコス』に告ぐ、降伏して浮上せよ」
「バリアスコス」は浮上し、付近を航行していたシアム海軍のドック型揚陸艦「ラタナコーシン」に拿捕された。
作戦は今、名実ともに始まったのであった。
「わらび」艦橋 二十七日午前一時
「サンタ・ベルナージ周辺、依然としてレーダー使用不能」
「『はつせ』の突入にはぴったりだな」
「この強さですとミサイルの命中率は十分の一以下でしょうね」
「そうだな。接射でもしない限り『はつせ』は無事だ。発光信号で『はつせ』に報告せよ」
「はつせ」に発光信号を送ると、返信はすぐに送られてきた。
「『はつせ』より発光信号!」
「読み上げろ」
「我はこれよりサンタ・ベルナージ港へ突入す。『うんりゅう』との連絡はすでに完了せり。援護開始時刻は四時三十分とする」
「返信、『ご武運を祈る』」
「了解」
「はつせ」は速度を上げて、暗闇の中に滑り出していった。
「うんりゅう」 午前八時
「シアム海軍『ラタナコーシン』接近中。あと十分ほどで合流します」
と、ソナー室から待ちに待った報告が飛んできた。
「『バリアスコス』発見!まだこちらには気づいていないようです!」
「水測長、何か気になることは」
「『バリアスコス』のノイズの向こうに、反乱軍リーダーのテラメル元帥の声が聞こえます。現在放送されている情報とは違う内容です」
「よろしい、『バリアスコス』は反乱軍側についたと判定する。一番及び二番発射管、自動追尾水雷、用意!目標セット、『バリアスコス』!弾頭はダミーウェイトを搭載せよ!速度セット、五十ノット!二番のみ距離三千以内は直進にセットせよ!三番にはデコイを用意せよ!」
「了解」
一番、二番発射管に魚雷が装填される。「うんりゅう」は静かに魚雷発射管に注水すると、発射管の扉を開いた。
「一番発射」
魚雷のスクリュー音が「バリアスコス」のソナーに伝わった。「バリアスコス」の艦長は機関停止を命じる。
「『バリアスコス』、機関止りました」
「こちらの位置は悟られたとみて良いだろう。魚雷が来るぞ、デコイ発射用意!」
「『バリアスコス』が何か発射しました!数は一、二……六!魚雷のようです」
「三番発射!」
「バリアスコス」が魚雷を発射したのと同時に、「うんりゅう」はデコイを発射した。デコイはけたたましいエンジン音を立てながら、「バリアスコス」が発射した魚雷の前を突っ切る。
「魚雷、距離二千五百で全弾爆発!」
「よし、二番発射!」
二番発射管から魚雷が発射され、まっすぐ進んでいく。そして三千メートル進んだ点で、魚雷は「バリアスコス」の音を探知した。
「命中まで五、四、三、二……命中!」
静かな打撃音とともに、「バリアスコス」のキュルキュルというスクリュー音が止まったのを確認したという報告が艦橋に響いた。
「『バリアスコス』に告ぐ、降伏して浮上せよ」
「バリアスコス」は浮上し、付近を航行していたシアム海軍のドック型揚陸艦「ラタナコーシン」に拿捕された。
作戦は今、名実ともに始まったのであった。
「わらび」艦橋 二十七日午前一時
「サンタ・ベルナージ周辺、依然としてレーダー使用不能」
「『はつせ』の突入にはぴったりだな」
「この強さですとミサイルの命中率は十分の一以下でしょうね」
「そうだな。接射でもしない限り『はつせ』は無事だ。発光信号で『はつせ』に報告せよ」
「はつせ」に発光信号を送ると、返信はすぐに送られてきた。
「『はつせ』より発光信号!」
「読み上げろ」
「我はこれよりサンタ・ベルナージ港へ突入す。『うんりゅう』との連絡はすでに完了せり。援護開始時刻は四時三十分とする」
「返信、『ご武運を祈る』」
「了解」
「はつせ」は速度を上げて、暗闇の中に滑り出していった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
近衛文麿奇譚
高鉢 健太
歴史・時代
日本史上最悪の宰相といわれる近衛文麿。
日本憲政史上ただ一人、関白という令外官によって大権を手にした異色の人物にはミステリアスな話が多い。
彼は果たして未来からの転生者であったのだろうか?
※なろうにも掲載
幕府海軍戦艦大和
みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。
ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。
「大和に迎撃させよ!」と命令した。
戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。
蒼雷の艦隊
和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。
よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。
一九四二年、三月二日。
スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。
雷艦長、その名は「工藤俊作」。
身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。
これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。
これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる