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作戦会議
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艦橋では、参謀四人と山口提督が頭を抱えていた。
「同盟国艦だから、拿捕して返還するのが同盟国として適切な対応だろう。政府側の将校はおそらく捕まるか殺されるかしているだろうが、仮に捕まっているとすれば沈めちゃまずい」
「全艦を拿捕するのは現実的じゃないですよね」
「そこを考えるのが我々の任務だ。考えないと」
「拿捕する前にこっちが沈んじゃいますよ」
「相手の意表をついてもミサイル艇の襲撃を受けたらすぐアウトですよね」
「そう。ミサイル艇でなくてもこっちに反乱軍側の攻撃が来ればすぐアウトだし、あとは反乱軍とは言え同盟国のものだから相手の艦を一隻でも沈めてもおそらくアウト、仮にサンタ・ベルナージ要塞にあると思われる反乱軍司令部を攻略するとしてもあそこの湾口は狭いし浅瀬も多い、浅瀬に五万トンのこの『はつせ』のハラがつっかえてもアウトだ。どうしようもないな。わが艦隊に空母が一隻でもあれば非常に助かるんだが」
「うちの国って空母ありましたっけ」
「ないよ、もちろん。最後の空母『みかさ』が退役してもう五年になるな」
「日米安保を破棄してアメリカに媚びなくてもよくなったとはいっても、所詮日本はいつまで経ってもアメリカのペコペコバッタですからね。日米戦回避のためとはいえ、八十年前の日本政府は何を考えていたのやら……」
「……ここで愚痴をこぼさないでくれるか。それにそれ、政府批判にあたるぞ。下手すりゃ不敬罪になるから気をつけろ」
「ハッ」
「まあいい、反乱軍の空母の搭載機数は三十機だ。空母をなんとか戦闘不能にできれば勝算はある」
「それは難しすぎます」
戦略はまとまりそうにない。「はつせ」は二十一ノットで海上を突っ走っていた。
「潜水艦とか使えないんですか」
徳村参謀が言う。
「うちの国の艦隊の潜水艦はディーゼルだろ。ディーゼル潜水艦は足が遅いぞ」
そう言う山河参謀に、徳村参謀が返す。
「シアム海軍と共同演習中の『うんりゅう』はどうなんですか?『うんりゅう』クラスなら、水中でも高速を発揮できるはずです」
「確かに地理的には近いが、どうなんだろう」
「統幕長に聞いてみますか?」
「そうだな」
山口提督はそう言うと、タブレットを起動した。ホットラインアプリを開き、「統幕長」をタップする。
「山口君か。何の用だね」
「バンタイ港に停泊中の『うんりゅう』を作戦に参加させられないでしょうか?」
「なぜだね」
「この艦隊編成では、おそらく反乱軍を鎮圧する前にこちらの艦隊がメッタ打ちにあって全滅します。これしか方法はないと考えます」
「なるほど。航空兵力がないからそれの埋め合わせにということかね?」
「違います。作戦が立案できたので今から書簡を回します。その作戦には、潜水艦が必要不可欠なのです。おそらくこれ以外に反乱軍を鎮圧する方法はないと考えます。それから攻撃型ヘリプレーンを投入するべきかと。敵の地上戦力の相手くらいならできるはずです」
「作戦を読んでから考えさせてもらう」
「わかりました」
そう言って山口提督は通話を止めた。
「作戦、立案できたんですか?」
「そうだ。たった今、潜水艦を使ったいい戦法を思いついた」
「どんなものなんです?」
「デコイに最大音量でマカスネシア艦隊の潜水艦『バリアスコス』の音を立てさせ、反乱軍艦隊に示威行動をして疑心暗鬼に陥らせ、さらに他国の潜水艦の音を立てるデコイも混ぜて合計八回、反乱軍艦隊の周りにデコイを出没させる。もちろん未だに動向不明の『バリアスコス』を何としても見つけ出し、反乱艦隊側に入っていた場合は沈めずスクリューを破壊、拿捕することが前提だ。しかる後にデコイから『うんりゅう』の音紋を記録したテープの音を流してサンタ・ベルナージ要塞に全艦隊を集める。そこからベルナージ要塞に『はつせ』を突入させ、湾口に停止させて反乱軍艦隊を封じ込める。そしてベルナージ要塞に揚陸艇で乗り付けて戦車と歩兵で攻略すれば、反乱軍艦隊を一網打尽にし、反乱軍の司令部もつぶせる」
「なるほど」
「そういえば空母はどうするんです?」
「空母には本艦の三十センチ半主砲二十一門を遠距離から全門斉射でお見舞いする。対空空中散弾で甲板に穴を開け、艦載機を燃やしてやればいい。沈めないようにな」
「わかりました」
「二十三時ちょうどか……あと一時間で書簡を作る。君たちは二日後までには部屋の荷物をまとめるように居住区画の兵員たちに言っておきなさい。それから、司令部に連絡して連絡用ヘリコプターを一機回してもらってくれ。それから父島の陸自と統幕長に要請して、攻撃型ヘリプレーン八機を『くにさき』に搭載するようにしてくれ。陸自の第2分遣隊にいる即応団が持ってるはずだ」
「わかりました」
作戦の基本方針がまとまったのは、日付が変わる一時間前であった。
「同盟国艦だから、拿捕して返還するのが同盟国として適切な対応だろう。政府側の将校はおそらく捕まるか殺されるかしているだろうが、仮に捕まっているとすれば沈めちゃまずい」
「全艦を拿捕するのは現実的じゃないですよね」
「そこを考えるのが我々の任務だ。考えないと」
「拿捕する前にこっちが沈んじゃいますよ」
「相手の意表をついてもミサイル艇の襲撃を受けたらすぐアウトですよね」
「そう。ミサイル艇でなくてもこっちに反乱軍側の攻撃が来ればすぐアウトだし、あとは反乱軍とは言え同盟国のものだから相手の艦を一隻でも沈めてもおそらくアウト、仮にサンタ・ベルナージ要塞にあると思われる反乱軍司令部を攻略するとしてもあそこの湾口は狭いし浅瀬も多い、浅瀬に五万トンのこの『はつせ』のハラがつっかえてもアウトだ。どうしようもないな。わが艦隊に空母が一隻でもあれば非常に助かるんだが」
「うちの国って空母ありましたっけ」
「ないよ、もちろん。最後の空母『みかさ』が退役してもう五年になるな」
「日米安保を破棄してアメリカに媚びなくてもよくなったとはいっても、所詮日本はいつまで経ってもアメリカのペコペコバッタですからね。日米戦回避のためとはいえ、八十年前の日本政府は何を考えていたのやら……」
「……ここで愚痴をこぼさないでくれるか。それにそれ、政府批判にあたるぞ。下手すりゃ不敬罪になるから気をつけろ」
「ハッ」
「まあいい、反乱軍の空母の搭載機数は三十機だ。空母をなんとか戦闘不能にできれば勝算はある」
「それは難しすぎます」
戦略はまとまりそうにない。「はつせ」は二十一ノットで海上を突っ走っていた。
「潜水艦とか使えないんですか」
徳村参謀が言う。
「うちの国の艦隊の潜水艦はディーゼルだろ。ディーゼル潜水艦は足が遅いぞ」
そう言う山河参謀に、徳村参謀が返す。
「シアム海軍と共同演習中の『うんりゅう』はどうなんですか?『うんりゅう』クラスなら、水中でも高速を発揮できるはずです」
「確かに地理的には近いが、どうなんだろう」
「統幕長に聞いてみますか?」
「そうだな」
山口提督はそう言うと、タブレットを起動した。ホットラインアプリを開き、「統幕長」をタップする。
「山口君か。何の用だね」
「バンタイ港に停泊中の『うんりゅう』を作戦に参加させられないでしょうか?」
「なぜだね」
「この艦隊編成では、おそらく反乱軍を鎮圧する前にこちらの艦隊がメッタ打ちにあって全滅します。これしか方法はないと考えます」
「なるほど。航空兵力がないからそれの埋め合わせにということかね?」
「違います。作戦が立案できたので今から書簡を回します。その作戦には、潜水艦が必要不可欠なのです。おそらくこれ以外に反乱軍を鎮圧する方法はないと考えます。それから攻撃型ヘリプレーンを投入するべきかと。敵の地上戦力の相手くらいならできるはずです」
「作戦を読んでから考えさせてもらう」
「わかりました」
そう言って山口提督は通話を止めた。
「作戦、立案できたんですか?」
「そうだ。たった今、潜水艦を使ったいい戦法を思いついた」
「どんなものなんです?」
「デコイに最大音量でマカスネシア艦隊の潜水艦『バリアスコス』の音を立てさせ、反乱軍艦隊に示威行動をして疑心暗鬼に陥らせ、さらに他国の潜水艦の音を立てるデコイも混ぜて合計八回、反乱軍艦隊の周りにデコイを出没させる。もちろん未だに動向不明の『バリアスコス』を何としても見つけ出し、反乱艦隊側に入っていた場合は沈めずスクリューを破壊、拿捕することが前提だ。しかる後にデコイから『うんりゅう』の音紋を記録したテープの音を流してサンタ・ベルナージ要塞に全艦隊を集める。そこからベルナージ要塞に『はつせ』を突入させ、湾口に停止させて反乱軍艦隊を封じ込める。そしてベルナージ要塞に揚陸艇で乗り付けて戦車と歩兵で攻略すれば、反乱軍艦隊を一網打尽にし、反乱軍の司令部もつぶせる」
「なるほど」
「そういえば空母はどうするんです?」
「空母には本艦の三十センチ半主砲二十一門を遠距離から全門斉射でお見舞いする。対空空中散弾で甲板に穴を開け、艦載機を燃やしてやればいい。沈めないようにな」
「わかりました」
「二十三時ちょうどか……あと一時間で書簡を作る。君たちは二日後までには部屋の荷物をまとめるように居住区画の兵員たちに言っておきなさい。それから、司令部に連絡して連絡用ヘリコプターを一機回してもらってくれ。それから父島の陸自と統幕長に要請して、攻撃型ヘリプレーン八機を『くにさき』に搭載するようにしてくれ。陸自の第2分遣隊にいる即応団が持ってるはずだ」
「わかりました」
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