宵闇の夏色

古井論理

文字の大きさ
上 下
24 / 33
薄暮の紅色

再会の突発論

しおりを挟む
「そう、秘密」
 私はそう言って、口をつぐんだ。チヒロは首をかしげていたが、少しして何かに気づいたような顔をした。
「っていうかさぁアヤナ、さっきから言ってること変わってない?コウくんはもういないとか言ったのに、次はコウくんが私たちの探偵だ、鍵だって言ったりするし。LINEが来たときにも、何も教えてくれなかったじゃん。それに、その理由だとかいう約束の内容も言わないし。ずっと一緒に頑張ってきたのに、私のこと信用してないの?」
 チヒロの辛そうな顔を見て、私は思わず言った。
「信用してる。けど……それはまだ伏せておきたいかな」
 チヒロは私を少し睨む。
「アヤナ」
「コウくんと私がした約束も、メッセージの内容も、まだ言うべきときじゃない」
 私ははっきりそう言った。しかし、チヒロはまだ食い下がる。当然だ、私がチヒロの立場ならもっときつい言葉を浴びせているに違いない。
「言うべきときじゃないって……?ってか、コウくんは何を望んでるの?言ってよ、お願いだからさ」
 と、LINEの着信音が響いた。私はスマホを見る。そこにはコウくんからの着信があった。
「それは……コウくんから直接説明してもらおうかな」
 チヒロが不思議そうな顔をする。
「え?」
 私は廊下に繋がるドアの方を見て、言った。
「コウくん、おかえり」
「何言ってるの?」
 チヒロがいよいよ困惑したといった顔で言ったとき、廊下の曲がり角の向こうからコウくんが走ってくる音がした。コウくんのスリッパの音はだんだん大きくなり、コウくんは少し息を切らせてドアを開けた。
「コウくん……?」
 困惑しきったチヒロをよそに、コウくんは私の顔を見て言った。
「こんにちは……いや、こんばんはかな。二人の前に現れるのに、こんな格好悪い出方は他にない気もするけど……まぁ時が来たみたいだからね」
「え?は?」
 チヒロはもはやパニックになりかけている。私はコウくんに聞いた。
「LINEの内容って今言っていいんだよね」
「うん。よろしく」
 コウくんのその声とともに、私はコウくんからのメッセージを読み上げ始めた。
「僕には二人をハッピーエンドに導く義務があります。二人がいつまで経ってもたどり着けない、本物のハッピーエンドに」
 私が言い切ると、チヒロは少し落ち着いたようだった。
「……これでいいんだよね」
 コウくんに聞くと、コウくんは大きくうなずいた。
「そう! ということで、僕は今から二人をハッピーエンドに連れて行こうと思う。もちろん、話の終わり……っていうだけで、人生が終わるわけじゃない。全てのものは、終わるときにまた始まるんだから」
 数秒の沈黙が流れ、チヒロが「どゆこと?」と言って首をかしげた。
「言ったまんまの意味だよ。いまから僕がチヒロとアヤナをハッピーエンドに連れて行く」
 コウくんはいつも通りの口調で言った。もはやその口調が頼もしいとも思える。
「そのハッピーエンドは、私たちが望むものなの?」
 チヒロが聞く。私は「そうに決まってるじゃん」と言ってコウくんの方を見た。
「多分大丈夫。望まない結末なんて、ハッピーエンドとは言えないから。じゃあ、行こうか」
 コウくんはそう言って、手を前に出し、くるりと肘を反時計回りに一周回して指をパチンと鳴らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ナツのロケット ~文系JKの無謀な挑戦~

凍龍
ライト文芸
 夏休みに行われた天文地学部の流星群観測合宿から突然姿を消した走(かける)。 幼なじみの突然の失踪を心配する奈津希(ナツ)だが、顧問の先生も、また走の父もその行方を教えてはくれない。 ようやく知った真実、それは奈津希には信じられないほど重いものだった。 「僕のことは忘れて」と悲観的なメッセージを残す病床の走。 奈津希は決心する。見舞いさえも拒否し、絶望に苛まれる彼を励ますために、彼の夢でもある、宇宙に届くロケット作りの夢を私が叶えようと。  文系素人の女子高生ナツがたった一人で突然始めたロケット作り。的外れな試行錯誤から始まった無謀なチャレンジは、いつしか多くの仲間を巻き込み、やがて本格的なプロジェクトへと変貌していく。  果たしてナツは走との約束通りクリスマスイブの空に無事ロケットを打ち上げることが出来るのか?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...