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薄暮の紅色
反省の会合論
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「我々は負けてはいません!我々はたった一度、評価を得られなかっただけです。我々はまだ戦える。さあ、次の大会に向けて前進しましょう!」
チヒロが私を怪訝な顔で見る。
「アヤナ、どうしたの?」
「大会駄目だったからさ、なんとかモチベ上げようと思って」
私が言うと、チヒロは正論をぶつけてきた。
「具体的にどこが駄目だったかチェックするのが先じゃない?」
「うーん……それもそうだね。じゃあ、反省会しよっか」
「そうだね」
「『夏色の宵闇』の評価は……」
チヒロがかなり前にした間違いを繰り返す。「夏色の宵闇」はコウくんが没にしたタイトルだったっけ。
「違う違う、宵闇の夏色」
「あ、そうだった」
チヒロが笑う。私は講評用紙を取ると、チヒロに説明した。
「『宵闇の夏色』は、内容としては少し雑だったらしい」
「というと?」
チヒロが講評用紙をのぞき込む。私は講評用紙をめくりながら読んだ。
「未来と過去をテーマにしてるように見える割には、なんか照明とかが対応してなくて、見ていて混乱した……だって」
「混乱させようと思って作ったからね」
「それは分かるんだけど、混乱のさせ方が雑だったらしい」
「ええ……」
「具体的には、照明を一致させないときは舞台の最後で説明になるような何かを入れるとか、あるいは話のつながりをもっと明白にするとか。舞台は映画やアニメ、小説とは違うって意識した方がいいらしい」
「ふうん……他には?」
チヒロの声のトーンがどんどん下がっていくのがわかる。私はさらにつらい現実を突きつけなければならないのが悲しかった。
「演者の技術はそれなりにあったけど、それを生かし切れてない」
「というと?」
「一人芝居のシーンが多すぎる上に、掛け合いのシーンが唐突すぎてついて行けない」
「うーん……」
「あと、全体的に短すぎる。もっと話を作り込んだ方が見栄えがする……だってさ」
「何かほかにある?良かったところとか」
私は講評用紙をめくり、「良かった」と書かれた場所を探した。唯一見つけたことをチヒロに伝える。
「演者の演じ方の工夫は良かった……だって」
「ほかには?」
「以上。たしかに全部それはそうなんだけど……って感じ。なんかさ……」
「そっかぁ」
私たちは沈黙した。
「我々は負けてはいません!我々はたった一度評価されなかったにすぎません。我々はまだ戦える。さあ、次の大会に向けて前進しましょう!」
チヒロははっと気づいたような顔をして、「チャーリー・チャップリンか」とつぶやいた。
「またチャーリー・チャップリンの真似して、落ち着いた?」
「むしろ闘志がみなぎってきたよ」
私は虚勢を張る。虚勢でも良いから、なんとか明るくいたかった。
「でも私たちってもう引退じゃん」
チヒロがつらい現実を突きつけてくる。
「そっかあ……私たちがいなくなって大丈夫かな」
「時々見に行けば良いじゃん」
「それもそうなんだけどさ」
「今年は脚本書ける子も入ってくれたじゃん」
「全体では四人入って、一人抜けたけどね」
「それでもいないよりは良いじゃん」
「まあそうだけどさあ……」
「どうしたの?何も問題ないじゃん」
チヒロが怪訝な顔をして私の方をのぞく。
「いや……なんかさ、私たちって、例の感染症の影響じゃんじゃん受けてるじゃんね」
「どうしてまた急に……てか『じゃん』って……」
チヒロの口癖がどこか気になって、何度も使ってしまう。
「だってさ?私たちは演劇同好会に去年入部したわけだ……じゃん」
「そうね……てか『じゃん』真似しないでよ」
「さっきから『じゃん』ばっかり言ってるじゃん。それで話を戻すと、入部が例の感染症のおかげで六月でしょ?それから三ヶ月後に秋の大会でしょ?それでそこから半年で春の大会。例年のように勧誘もできずに、脚本が書ける先輩も引退した。部員が二人残ってるだけでもまだいい方だよ」
チヒロにそう言い放つと、チヒロは困惑しながらも答えた。
「私たちは確かに奇跡に支えられてるかもしれないけどさ、でも……」
「でも何よ」
私は少し怒ったような口調を殺して言った。
「私たちにはきっと奇跡を呼び込む力があると思うんだ」
「どうしてそう言えるの?」
私はそう言うと、演説風に言った。チャーリー・チャップリンの「独裁者」のように。
「奇跡が起きる確率なんてものすごく低いのです!それを呼び込むのは、運だけです。それに、私たちはたまたま運が良かっただけなのです。未来永劫続くとは限りません」
「そうじゃなくて」
チヒロが焦ったように言う。
「何よ」
「私たちにはまだ、天才がいるじゃない」
チヒロはそう言うと、目に少し光を取り戻した。
チヒロが私を怪訝な顔で見る。
「アヤナ、どうしたの?」
「大会駄目だったからさ、なんとかモチベ上げようと思って」
私が言うと、チヒロは正論をぶつけてきた。
「具体的にどこが駄目だったかチェックするのが先じゃない?」
「うーん……それもそうだね。じゃあ、反省会しよっか」
「そうだね」
「『夏色の宵闇』の評価は……」
チヒロがかなり前にした間違いを繰り返す。「夏色の宵闇」はコウくんが没にしたタイトルだったっけ。
「違う違う、宵闇の夏色」
「あ、そうだった」
チヒロが笑う。私は講評用紙を取ると、チヒロに説明した。
「『宵闇の夏色』は、内容としては少し雑だったらしい」
「というと?」
チヒロが講評用紙をのぞき込む。私は講評用紙をめくりながら読んだ。
「未来と過去をテーマにしてるように見える割には、なんか照明とかが対応してなくて、見ていて混乱した……だって」
「混乱させようと思って作ったからね」
「それは分かるんだけど、混乱のさせ方が雑だったらしい」
「ええ……」
「具体的には、照明を一致させないときは舞台の最後で説明になるような何かを入れるとか、あるいは話のつながりをもっと明白にするとか。舞台は映画やアニメ、小説とは違うって意識した方がいいらしい」
「ふうん……他には?」
チヒロの声のトーンがどんどん下がっていくのがわかる。私はさらにつらい現実を突きつけなければならないのが悲しかった。
「演者の技術はそれなりにあったけど、それを生かし切れてない」
「というと?」
「一人芝居のシーンが多すぎる上に、掛け合いのシーンが唐突すぎてついて行けない」
「うーん……」
「あと、全体的に短すぎる。もっと話を作り込んだ方が見栄えがする……だってさ」
「何かほかにある?良かったところとか」
私は講評用紙をめくり、「良かった」と書かれた場所を探した。唯一見つけたことをチヒロに伝える。
「演者の演じ方の工夫は良かった……だって」
「ほかには?」
「以上。たしかに全部それはそうなんだけど……って感じ。なんかさ……」
「そっかぁ」
私たちは沈黙した。
「我々は負けてはいません!我々はたった一度評価されなかったにすぎません。我々はまだ戦える。さあ、次の大会に向けて前進しましょう!」
チヒロははっと気づいたような顔をして、「チャーリー・チャップリンか」とつぶやいた。
「またチャーリー・チャップリンの真似して、落ち着いた?」
「むしろ闘志がみなぎってきたよ」
私は虚勢を張る。虚勢でも良いから、なんとか明るくいたかった。
「でも私たちってもう引退じゃん」
チヒロがつらい現実を突きつけてくる。
「そっかあ……私たちがいなくなって大丈夫かな」
「時々見に行けば良いじゃん」
「それもそうなんだけどさ」
「今年は脚本書ける子も入ってくれたじゃん」
「全体では四人入って、一人抜けたけどね」
「それでもいないよりは良いじゃん」
「まあそうだけどさあ……」
「どうしたの?何も問題ないじゃん」
チヒロが怪訝な顔をして私の方をのぞく。
「いや……なんかさ、私たちって、例の感染症の影響じゃんじゃん受けてるじゃんね」
「どうしてまた急に……てか『じゃん』って……」
チヒロの口癖がどこか気になって、何度も使ってしまう。
「だってさ?私たちは演劇同好会に去年入部したわけだ……じゃん」
「そうね……てか『じゃん』真似しないでよ」
「さっきから『じゃん』ばっかり言ってるじゃん。それで話を戻すと、入部が例の感染症のおかげで六月でしょ?それから三ヶ月後に秋の大会でしょ?それでそこから半年で春の大会。例年のように勧誘もできずに、脚本が書ける先輩も引退した。部員が二人残ってるだけでもまだいい方だよ」
チヒロにそう言い放つと、チヒロは困惑しながらも答えた。
「私たちは確かに奇跡に支えられてるかもしれないけどさ、でも……」
「でも何よ」
私は少し怒ったような口調を殺して言った。
「私たちにはきっと奇跡を呼び込む力があると思うんだ」
「どうしてそう言えるの?」
私はそう言うと、演説風に言った。チャーリー・チャップリンの「独裁者」のように。
「奇跡が起きる確率なんてものすごく低いのです!それを呼び込むのは、運だけです。それに、私たちはたまたま運が良かっただけなのです。未来永劫続くとは限りません」
「そうじゃなくて」
チヒロが焦ったように言う。
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