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夕陽の茜色
切磋の昇華論
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「大会まではあと2週間。あと4日で夏休み。さて、ここで待っているものとは?」
「成績返却」
チヒロの発言にボソリと返す。いつものアミノサプリではなく、『レモン=レモン=スプラッシャー』という自販機で100円だった清涼飲料水を飲みながら、私はため息をついた。歴史の教科書をペラペラとめくり、呟く。
「もうわかりきってるけどさ、コウくんの成績と私たちの成績は全然変わらないんだろうなあ」
チヒロは少し顔を曇らせて呆れたような顔をした。
「絶対コウくんの方が頭良いと思うんだけどな」
私はチヒロをなだめるような口調で言う。
「まあ世の中不公平だから」
私の手の中でレモン=レモン=スプラッシャーのペットボトルが指に反発した。炭酸飲料特有の硬さのあとに、ペコッという音を立ててペットボトルが凹み、すぐにパコッと言う音とともに指を押し返して形を取り戻した。
「そうだね」
「怖い怖い、怒らないでよ」
チヒロがオーバーリアクションな動きで怯んでいる。私はそんなチヒロを見つめながら、自分のことを考えていた。コウくんよりも頭は悪いのに、コウくんと同じか少し高いような成績。
「不公平な世の中に優遇されてるのって気分悪いよね」
私はそんなことを口走りながら、レモン=レモン=スプラッシャーを口に含んだ。レモンの味が爽快な酸味とともにどろどろした口の中を駆け抜ける。口の中のどろどろは押し流され、しばらく口の中を駆け巡った酸味とともに消えた。
「さて……と」
チヒロに目をやると、脚本を手の中で弄びながら、いかにもつまらないといった顔をしてむくれていた。
「ごめん、練習しよっか」
私がそう言うと、チヒロのふくれっ面が少ししぼみ、まるく見開かれた目が輝き始めた。
「ちょっといいですか」
1年生のうちの一人、今回裏方のチーフをつとめる山下くんが割り込むように私たちに話しかける。それも、ただならぬ表情で。
「なに、どうしたの」
チヒロが山下くんに問うと、山下くんは言った。
「コウ先輩はいつ戻ってくるんですか?」
「わかんないけど……」
私は言いよどむチヒロに被せるようにして言った。
「コウくんは大会が終わってから帰ってくると思うよ」
「え」
その場にいた全員が、凍りついたように固まった。しばらくして、チヒロが口を開いた。
「なんでわかるの?」
「……なんでだろう、なんとなく」
私はそう言うよりなかった。コウくんは帰ってくるときには連絡を入れますと言っただけだ。だけれど、大会のあとにコウくんが帰ってくるというのはなぜか予想がついた……というか、その予想には微妙な既視感があった。そして、そこで私たちが終わりを迎えるという……
「まあいいや、わからないんだったらあくまで予想だね。正しいかどうかは置いておくにしても、今ある予想はそれだけってことか」
チヒロが私の思考を断つように話しはじめた。周りはノーリアクションである。
「さて、アヤナはなんか覚えてない?」
「……え?」
「コウくんに関することとか、大会に関することとか、アヤナ自身に関することとか。それから私に関することも覚えていてくれると嬉しいかな」
「どういうこと?」
「まあまだ早いってことか」
「早い?」
「なんでもない、今の話は忘れて。アヤナは覚えてないだろうし」
チヒロは半分だけ笑顔が張り付いたような悲しそうな目で私を見て、ボソリと何かつぶやいた。
「……」
「え?なんて言ったの?」
「何だっていいでしょ」
「……言ってよ」
「なんで人から信頼される人ほど、それをうまいこと使わないんだろうねって」
「どういうこと」
「アヤナもそう思わない?」
「……言ってる意味がわからない」
「先生に信頼されてる私たちと信頼されてないコウくんの違いが、成績の違いなんだろうなってこと。そんなことより練習始めないと、もう4時半じゃん」
時計を見て我に返った私は、脚本を握りしめて練習開始を指示した。
「成績返却」
チヒロの発言にボソリと返す。いつものアミノサプリではなく、『レモン=レモン=スプラッシャー』という自販機で100円だった清涼飲料水を飲みながら、私はため息をついた。歴史の教科書をペラペラとめくり、呟く。
「もうわかりきってるけどさ、コウくんの成績と私たちの成績は全然変わらないんだろうなあ」
チヒロは少し顔を曇らせて呆れたような顔をした。
「絶対コウくんの方が頭良いと思うんだけどな」
私はチヒロをなだめるような口調で言う。
「まあ世の中不公平だから」
私の手の中でレモン=レモン=スプラッシャーのペットボトルが指に反発した。炭酸飲料特有の硬さのあとに、ペコッという音を立ててペットボトルが凹み、すぐにパコッと言う音とともに指を押し返して形を取り戻した。
「そうだね」
「怖い怖い、怒らないでよ」
チヒロがオーバーリアクションな動きで怯んでいる。私はそんなチヒロを見つめながら、自分のことを考えていた。コウくんよりも頭は悪いのに、コウくんと同じか少し高いような成績。
「不公平な世の中に優遇されてるのって気分悪いよね」
私はそんなことを口走りながら、レモン=レモン=スプラッシャーを口に含んだ。レモンの味が爽快な酸味とともにどろどろした口の中を駆け抜ける。口の中のどろどろは押し流され、しばらく口の中を駆け巡った酸味とともに消えた。
「さて……と」
チヒロに目をやると、脚本を手の中で弄びながら、いかにもつまらないといった顔をしてむくれていた。
「ごめん、練習しよっか」
私がそう言うと、チヒロのふくれっ面が少ししぼみ、まるく見開かれた目が輝き始めた。
「ちょっといいですか」
1年生のうちの一人、今回裏方のチーフをつとめる山下くんが割り込むように私たちに話しかける。それも、ただならぬ表情で。
「なに、どうしたの」
チヒロが山下くんに問うと、山下くんは言った。
「コウ先輩はいつ戻ってくるんですか?」
「わかんないけど……」
私は言いよどむチヒロに被せるようにして言った。
「コウくんは大会が終わってから帰ってくると思うよ」
「え」
その場にいた全員が、凍りついたように固まった。しばらくして、チヒロが口を開いた。
「なんでわかるの?」
「……なんでだろう、なんとなく」
私はそう言うよりなかった。コウくんは帰ってくるときには連絡を入れますと言っただけだ。だけれど、大会のあとにコウくんが帰ってくるというのはなぜか予想がついた……というか、その予想には微妙な既視感があった。そして、そこで私たちが終わりを迎えるという……
「まあいいや、わからないんだったらあくまで予想だね。正しいかどうかは置いておくにしても、今ある予想はそれだけってことか」
チヒロが私の思考を断つように話しはじめた。周りはノーリアクションである。
「さて、アヤナはなんか覚えてない?」
「……え?」
「コウくんに関することとか、大会に関することとか、アヤナ自身に関することとか。それから私に関することも覚えていてくれると嬉しいかな」
「どういうこと?」
「まあまだ早いってことか」
「早い?」
「なんでもない、今の話は忘れて。アヤナは覚えてないだろうし」
チヒロは半分だけ笑顔が張り付いたような悲しそうな目で私を見て、ボソリと何かつぶやいた。
「……」
「え?なんて言ったの?」
「何だっていいでしょ」
「……言ってよ」
「なんで人から信頼される人ほど、それをうまいこと使わないんだろうねって」
「どういうこと」
「アヤナもそう思わない?」
「……言ってる意味がわからない」
「先生に信頼されてる私たちと信頼されてないコウくんの違いが、成績の違いなんだろうなってこと。そんなことより練習始めないと、もう4時半じゃん」
時計を見て我に返った私は、脚本を握りしめて練習開始を指示した。
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