7 / 33
黄昏の琥珀色
鳥居の信仰論
しおりを挟む
鳥居をくぐり、境内に入る。そこには確かに「神域」と呼ぶにふさわしい光景が広がっていた。木には青葉が宿り、疲れた目を癒やす。手水舎で手を洗い、木々に囲まれたトンネルのような参道を抜けると、そこには小さな拝殿があった。後輩たちが賽銭箱に5円玉を投げる。
「神社の参拝方法はわかる?」
「二礼二拍手一礼……だよね」
「合ってる合ってる」
「このガラガラの本名、本坪鈴なんだって。ちなみに紐の方は鈴緒らしいよ」
「らしいよって何」
「人から聞いた話だからね」
2回お辞儀をしてから2回手を叩き、1回お辞儀をして顔を上げる。手の音は青葉の中を響いていった。そして鈴緒を握って3回振ると、少し遅れて本坪鈴からカランカランという音が鳴る。私が小声で「優秀賞が取れますように」と言い始めた途端、チヒロが大声で「私たちの努力が報われますように」と祈りの声を上げた。
「大声過ぎるでしょ」
「いいじゃん、大声出した方がしっかり神様にもアピールできるでしょ」
「まあそうかもしれないけど……」
「大丈夫、心配しなくたって私たち以外いないから」
「そういう問題じゃないような……まあいいや」
私たちは改めて深々とお辞儀をしてから回れ右をして境内を出た。
「さて、神様に頼んだからあとは捨て身の努力だね」
チヒロが笑顔で言う。
「チヒロってさ、笑顔で相当なこと言うよね」
「そう?当たり前のことじゃないの?」
「まあそうだね」
「アヤナ、もう少し本心出したら?」
チヒロの言葉に、私は戸惑うしかなかった。
「え?」
「さっきから私とぶつかりかけては折れてばっかりじゃん。そんなようじゃ……」
チヒロは私を見て続けた。
「そんなようじゃ、いつまで経ってもスッキリしないよ」
「っ……」
うつむいた私の顔をチヒロがのぞき込む。
「図星だった?」
「……」
何も言い返すことができない私を見て、チヒロは黙った。
「追求しなくていいの?」
私がチヒロの方を向かずに聞く。
「とどめを刺すのはかわいそうだからね。それにアヤナはまだ失いたくない」
チヒロは少し高めの声で言葉を放った。
「まだって何よ」
私が言うと、チヒロの口元に笑みが浮かぶ。
「……なんてね。楽しい話しよっか」
私は親愛綺譚のイベントの話を始めた。
「花火イベ面白そうだね」
「そうだね……明日配信開始か」
「今のうちに課題終わらせないと」
「そうだね、早くやった方がいいね」
チヒロは苦笑いした。
「チヒロは終わってるの?」
「この顔から察してよ」
「終わってないんだね」
「うん……」
チヒロはしばらく沈黙したあと、「もう一回、話変えよっか」と言った。
「じゃあ最近仕入れたトリビアをどうぞ」
チヒロは数秒沈黙し、口を開いた。
「味の素って昔は石油から作ってたらしいよ。石油コンビナートに工場があるのはその名残なんだって」
「今一番知りたくなかったトリビアだわ」
味の素をご飯にかけるのにはまっていただけに、かなりショックだった。
「大丈夫、今はサトウキビから作ってるから。それに石油だって大昔の生き物だから元を辿れば天然素材じゃん」
チヒロの口から出たとは思えない意見が衝撃過ぎて一瞬言葉が見つからなかった。
「チヒロ……さすがにそれは言い過ぎでしょ」
チヒロは涼しい顔で答える。
「そんなことないと思うよ。それに天然素材ならいいとか言う風潮っておかしいじゃん? 毒草だって天然素材だよ?」
「まさかチヒロからこんな話を聞くとは思わなかった」
私の言葉に、チヒロは不服そうな顔を浮かべた。
「コウくんが言いそうなことって言いたいの?」
「まあ……うん」
「そんなこと言ってたら何も言えなくなっちゃうじゃん」
チヒロはそう言って、「ゲームの推しが尊い」という話を始めた。私はそれを聞きながら、不思議な物足りなさを感じていた。
「神社の参拝方法はわかる?」
「二礼二拍手一礼……だよね」
「合ってる合ってる」
「このガラガラの本名、本坪鈴なんだって。ちなみに紐の方は鈴緒らしいよ」
「らしいよって何」
「人から聞いた話だからね」
2回お辞儀をしてから2回手を叩き、1回お辞儀をして顔を上げる。手の音は青葉の中を響いていった。そして鈴緒を握って3回振ると、少し遅れて本坪鈴からカランカランという音が鳴る。私が小声で「優秀賞が取れますように」と言い始めた途端、チヒロが大声で「私たちの努力が報われますように」と祈りの声を上げた。
「大声過ぎるでしょ」
「いいじゃん、大声出した方がしっかり神様にもアピールできるでしょ」
「まあそうかもしれないけど……」
「大丈夫、心配しなくたって私たち以外いないから」
「そういう問題じゃないような……まあいいや」
私たちは改めて深々とお辞儀をしてから回れ右をして境内を出た。
「さて、神様に頼んだからあとは捨て身の努力だね」
チヒロが笑顔で言う。
「チヒロってさ、笑顔で相当なこと言うよね」
「そう?当たり前のことじゃないの?」
「まあそうだね」
「アヤナ、もう少し本心出したら?」
チヒロの言葉に、私は戸惑うしかなかった。
「え?」
「さっきから私とぶつかりかけては折れてばっかりじゃん。そんなようじゃ……」
チヒロは私を見て続けた。
「そんなようじゃ、いつまで経ってもスッキリしないよ」
「っ……」
うつむいた私の顔をチヒロがのぞき込む。
「図星だった?」
「……」
何も言い返すことができない私を見て、チヒロは黙った。
「追求しなくていいの?」
私がチヒロの方を向かずに聞く。
「とどめを刺すのはかわいそうだからね。それにアヤナはまだ失いたくない」
チヒロは少し高めの声で言葉を放った。
「まだって何よ」
私が言うと、チヒロの口元に笑みが浮かぶ。
「……なんてね。楽しい話しよっか」
私は親愛綺譚のイベントの話を始めた。
「花火イベ面白そうだね」
「そうだね……明日配信開始か」
「今のうちに課題終わらせないと」
「そうだね、早くやった方がいいね」
チヒロは苦笑いした。
「チヒロは終わってるの?」
「この顔から察してよ」
「終わってないんだね」
「うん……」
チヒロはしばらく沈黙したあと、「もう一回、話変えよっか」と言った。
「じゃあ最近仕入れたトリビアをどうぞ」
チヒロは数秒沈黙し、口を開いた。
「味の素って昔は石油から作ってたらしいよ。石油コンビナートに工場があるのはその名残なんだって」
「今一番知りたくなかったトリビアだわ」
味の素をご飯にかけるのにはまっていただけに、かなりショックだった。
「大丈夫、今はサトウキビから作ってるから。それに石油だって大昔の生き物だから元を辿れば天然素材じゃん」
チヒロの口から出たとは思えない意見が衝撃過ぎて一瞬言葉が見つからなかった。
「チヒロ……さすがにそれは言い過ぎでしょ」
チヒロは涼しい顔で答える。
「そんなことないと思うよ。それに天然素材ならいいとか言う風潮っておかしいじゃん? 毒草だって天然素材だよ?」
「まさかチヒロからこんな話を聞くとは思わなかった」
私の言葉に、チヒロは不服そうな顔を浮かべた。
「コウくんが言いそうなことって言いたいの?」
「まあ……うん」
「そんなこと言ってたら何も言えなくなっちゃうじゃん」
チヒロはそう言って、「ゲームの推しが尊い」という話を始めた。私はそれを聞きながら、不思議な物足りなさを感じていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ナツのロケット ~文系JKの無謀な挑戦~
凍龍
ライト文芸
夏休みに行われた天文地学部の流星群観測合宿から突然姿を消した走(かける)。
幼なじみの突然の失踪を心配する奈津希(ナツ)だが、顧問の先生も、また走の父もその行方を教えてはくれない。
ようやく知った真実、それは奈津希には信じられないほど重いものだった。
「僕のことは忘れて」と悲観的なメッセージを残す病床の走。
奈津希は決心する。見舞いさえも拒否し、絶望に苛まれる彼を励ますために、彼の夢でもある、宇宙に届くロケット作りの夢を私が叶えようと。
文系素人の女子高生ナツがたった一人で突然始めたロケット作り。的外れな試行錯誤から始まった無謀なチャレンジは、いつしか多くの仲間を巻き込み、やがて本格的なプロジェクトへと変貌していく。
果たしてナツは走との約束通りクリスマスイブの空に無事ロケットを打ち上げることが出来るのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる