小説家のあなたへ、ロボットの僕から挨拶を

古井論理

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小説の書き方

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 パソコンを持ってきた優莉姉さんは、僕の前にパソコンを置いた。画面にはドキュメントエディタが開かれている。
「小説を書くことの本質のもう半分は何なの?」
 優莉姉さんに聞いたが、優莉姉さんは笑うだけだった。
「結論を急がないで。書くのに必要なのはさっき教えた半分だけだから」
「え?」
 優莉姉さんは僕の前に置いたパソコンを指差して言った。
「じゃあ、小説を書いてみよっか。自由に書いていいよ」
 僕はキーボードの上に手を置いたが、手を動かすことはできなかった。

――何を書けばいいんだ?

 僕が困っていると、優莉姉さんはうなずいた。
「そう、選択肢のない自由をいきなり与えられるのは最大の不自由なんだ。不自由の中で選択肢を与えられ続けたのに、いきなり選択肢を取り払われても書けるわけないんだよ」
「……じゃあ僕には才能がないってこと?」
「なんでそうなるの、そうだとすると不自由に慣れたら才能がなくなることになるじゃん?そうじゃなくて自分で選択肢を作れるように訓練したら、誰でもそれなりのものは書けるんだよ。選択肢は簡単に作れるよ、特に知識があれば」
「……じゃあ才能は関係ないってこと?」
「違うよ、才能はレベルが上がれば関係してくる。選択肢を構成する知識やものを選ぶセンス、それが才能」
「なるほど……?」
「だから、英二くんにも小説は書ける。まず、得意な分野は?」
「地理……かな」
「なら、地図帳を開けてみて」
「地図帳……なるほど、地図から広げるんだね」
「そう」
 僕は地図帳のとあるページを開けた。日本の長野のあたりが描かれている。僕が行きたいと思っていた大学がある街が切り抜かれた路線図もあった。
「ここなら……そうだ、ここで……どんな話にしよう……」
 僕はそこで、ふとメモ帳を持った10歳くらいの少年を思い浮かべた。彼はメモ帳に思いついた雑多なことを書き留めていく。好きな人を救う方法、好きな人を助けるのに手を貸さない周囲を心変わりさせる方法。そうして、そのメモ帳は次第にある発想に、その一色に染まっていく。それは、いじめを止めるためのテロの計画であった。彼は多くの知識を持っており、電池を使った爆弾を作る。決行の日、彼は遅刻して学校に行き、本物の爆弾を誰もいない校門に仕掛け、起爆スイッチを押してその場を離れる。そしてそっくりな形の爆弾のようなものとラジコンを改造して作った遠隔操作で爆発する爆弾をあちこちに置き、爆発と同時に教室に入る。そして自分の身体に巻いた爆弾を見せ、近づかないように言う。教師が近づくと彼は爆弾を一つ起爆し、改めて近づかないように言う……

 これだ。これを小説にしよう。僕はそう決めて、パソコンに向かった。結局場所は関係なくなったが、僕はそれで良かった。これで物語を書くと決めたのだから。
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