上 下
11 / 17

鉱石のように美しく

しおりを挟む
 鉱石コーナーに着くと、優莉姉さんは僕が買いたいと言った天青石を自分も買うと言った。
「めっちゃきれいじゃん……買いだな」
「和藤さんもなにか買いますか?」
「では私も天青石で」
「わかりました」
 僕は3000円の天青石を二人と一緒に購入し、それから優莉姉さんが買い忘れた手芸用品を選ぶのについていった。
「そういえば和藤さんって何か趣味はあるんですか?」
「手芸、CG制作、動画編集、編み物、文芸、イラスト、刃物、模型、他多数です」
「多いですね……ところで刃物って何ですか?」
「刃物っていうのはナイフとか包丁とか刀とかのことですけど……」
「そ、そうじゃなくて」
 どうも話がかみ合わない。と、優莉姉さんが衝撃の発言をした。
「和藤くんはね、刃物を作ったりしてるんだよ」
 僕は現実感のなさに驚いた。しかし、優莉姉さんがそんなつまらない嘘をつくとは思えなかった。
「本当?」
「ええ、本当です」
 和藤さんにはかなわないな。そう思って、僕は優莉姉さんが見ていた手芸用品を手に取った。紫色のメリノウールの毛糸が、僕を見つめ返した。
「僕も買いたいんだけど、初心者向けのとかある?」
 優莉姉さんは向かい側の棚を指した。
「かぎ針編みがいいんじゃない?」
 僕は「かぎ針(100円)」と書かれた値札のついた、先の曲がった金属棒を手に取った。アルミ製のようだ。
「これと好きな色の毛糸を3玉くらい買ってマフラーとか編めばいいと思うよ」
 優莉姉さんはそう言って、毛糸の色を見比べていた。
「和藤くん、この紫とこの紫、どっちが好き?」
「あー……若干明るい色の方がいいですね」
「そっか。わかった」
 優莉姉さんは明るめの紫の毛糸をかごに5玉ほど入れる。
「英二、決まった?」
「この赤とこの緑で」
 僕は2色の毛糸を2玉ずつかごに入れ、優莉姉さんの後ろについて歩きはじめた。
「550円になります」
 僕はお金を払うと優莉姉さんたちのもとへ向かった。しかし、優莉姉さんたちは見当たらない。
「……あれ?」
 電話をかけるのはまずいかもしれない。僕は周りを見渡し、優莉姉さんたちが見える範囲にはいないことを悟った。10階で雨具を見ているかもしれないと思い、僕は10階にエレベーターで上がった。

 果たして、雨具コーナーに2人はいた。和藤さんは雨具をざっと見て、棚の一番下に目を留めた。
「これは……ハンズ限定商品の……!」
 和藤さんは喜びに目を輝かせているのだろう。後ろ姿だけでも喜びを感じるほど、和藤さんは嬉しそうだった。優莉姉さんはというと、傘には全く興味もないはずなのに和藤さんに色々聞いている。

……仲いいなぁ。

 僕はなんとなくそこに、煙水晶の柔らかい輝きに似た美しさを見出した気分だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

チョメチョメ少女は遺された ~変人中学生たちのドタバタ青春劇~

ほづみエイサク
青春
 お気に入り登録、応援等、ぜひともよろしくお願いいたします!  鈴木陸は校内で探し物をしている最中に『なんでも頼み事を聞いてくれるヤツ』として有名な青木楓に出会う。 「その悩み事、わたしが解決致します」  しかもモノの声が聞こえるという楓。  陸が拒否していると、迎えに来た楓の姉の君乃に一目ぼれをする。  招待された君乃の店『Brugge喫茶』でレアチーズケーキをご馳走された陸は衝撃を受ける。  レアチーズケーキの虜になった陸は、それをエサに姉妹の頼みを聞くことになる 「日向ぼっこで死にたい」  日向音流から珍妙な相談を受けた楓は陸を巻き込み、奔走していく  レアチーズケーキのためなら何でもする鈴木陸  日向ぼっこをこよなく愛する日向音流  モノの声を聞けて人助けに執着する青木楓  三人はそれぞれ遺言に悩まされながら化学反応を起こしていく ――好きなことをして幸せに生きていきなさい  不自由に縛られたお祖父ちゃんが遺した ――お日様の下で死にたかった  好きな畑で死んだじいじが遺した ――人助けをして生きていきなさい。君は  何も為せなかった恩師?が遺した   これは死者に縛られながら好きを叫ぶ物語。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

息子の日記を発見したから読んでみた話

kkkkk
現代文学
息子の結婚式を来月に控える父親は、息子の部屋から高校時代の日記を発見した。 娘の日記を読む父親はクズだと思う。かと言って、息子の日記を読んでいいのかと聞かれると返答に困る。 この物語は、勇気を出して息子の日記を読む父親の話である。 前半はおじさんが日記を読みながらブツブツと感想を言っているだけの内容です。読む人によっては嫌悪感しかない描写かもしれません。 最後まで見ると、この話が何か分かると思います。5話完結を予定しています。 【補足】 この話は2人の知人の話を参考にした物語です。2人のノンフィクションを組み合わせて、性別、年齢、場所などを変えました。これをフィクションと呼ぶのかノンフィクションと呼ぶのかは分かりません。 物語全体としては、ホームドラマ、恋愛、ミステリーを組み合わせたような内容になっています。 なお、この話は当時の社会背景を基にしていますが、政治的思想について言及するものではありません。

置き去り一首

片喰 一歌
現代文学
いまより若いわたしが綴ったことばたち。過去に置き去りにしてきたものを、いまここに。 恋。生きること。かなしみ。わたしの人生の断片の集合体。 励ましといえるほど優しくはないけれど、なにかに迷ったとき、すこし背中を押してくれるメッセージがもしかしたら見つかるかもしれません。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

渡辺透クロニクル

れつだん先生
現代文学
カクヨムという投稿サイトで連載していたものです。 差別表現を理由に公開停止処分になったためアルファポリスに引っ越ししてきました。 統合失調症で生活保護の就労継続支援B型事業所に通っている男の話です。 一話完結となっています。

処理中です...