小説家のあなたへ、ロボットの僕から挨拶を

古井論理

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宿題消化は楽勝

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「それで……宿題は終わってるの?」
 優莉姉さんの問に、僕は別な質問を返した。
「というか……僕の荷物は?」
 優莉姉さんはリビングルームの隅を指差した。
「あれのこと?」
 そこにはきれいに荷造りされた僕の所有物たちが置かれている。
「あれならちゃんと親御さんから預かってるよ。布団はないけど、予備の布団を使えば大丈夫。それから……」
「じゃあ宿題はここにあるんだね?」
「探してみたら?」
 僕は荷物の一番上に『冬休みの素』と書かれた冊子を見つけた。先生が駄洒落でつけたひねりとツッコミどころだらけの宿題は、すでに殆どが制圧済みだ。
「今日中には終わるよ」
 優莉姉さんに言うと、優莉姉さんは露骨に嬉しさを露わにした。
「じゃあ終わったら書斎においで」
 優莉姉さんはそう言うと、リビングルームを出ていった。
「やるかぁ」
 僕は冬休みの素を開き、残りのページを数えた。5ページ半もない上、得意分野の国語である。僕は30分ほどですべてを解き終え、答え合わせを済ませた。そして、書斎へ向かおうとして立ち止まった。
「書斎ってどこだ……?」
 と、机の上にあるメモが目についた。
「書斎は2階の奥にあるよ、来てね」
 僕は暖房を切ってリビングルームを出ると、2階の奥へと廊下を進んだ。
「おお、早いね」
 優莉姉さんはパソコンのキーを打ちながら言った。
「優莉姉さん、何してるの?」
「聞きたい?もうわかってると思うけど」
 優莉姉さんの口調に、何かを察した僕は優莉姉さんの背後から画面を覗き込みながら言った。
「タイトルは?」
 画面には次々に文字が紡ぎ出される。その文字は、語呂よくまとめられ一種独特のテンポを作り出している。

――さて、ここで読者の皆様に一考察を頂きたい。読者の皆様はここまでの物語から、どの登場人物が隠している秘密が『ブンタル帝国の研究所にいた』であるかおわかりであろうか。

 戦艦「アノマロカリス」はボルハルハーフェンの港に停泊することとなった。ボルハルハーフェンとはブンタル帝国時代に主力艦隊の母港として繁栄した街であるが、現在はアンドレッド帝国の支配地となっている。「アノマロカリス」は入港するためにタグボートを下ろし、ゆっくりと港湾に入った――

「ちょっ、まだ私が納得してないのに読まないでよ」
 優莉姉さんが慌てて画面を隠す。しかし手だけでは隠れないと悟ったのか、優莉姉さんはパソコンを操作して画面を閉じた。
「さて、英二くん」
「なに」
「これから毎日、君の話を聞かせてくれる?」
「……どういうこと?」
「そのままの意味だよ。君のような少年の話が書きたくてねぇ」
「嫌なんだけど」
「大丈夫、君の話を参考にするだけだし君そっくりの主人公を不幸にはしない。それに、君は人に話を聞いてもらいたがってたよね」
「まあそうだけど……」
「なら、私の小説に出てよ。名前は変えるから。資料ではなくて人に直接取材するのは最高の書き方だよ」
 優莉姉さんはそう言って、一枚の紙を取り出した。
「これに契約条件が書いてあるから。これを認めたら取材を始めるね」
 僕は優莉姉さんの出した紙にじっくり目を通した。そこには3つのことが書かれていた。
 ・取材して得た情報は小説以外には使わない
 ・小説は完結して英二の許可を得たらネットに投稿する
 ・小説は英二が気に入らなかったらお蔵入りにする
「……本当にこれだけ?」
「ああ。良心的だろ?」
「……なるほど、わかった。やめとく」
「なんで!?」
「だってめっちゃ裏ありそうだもん」
「ひどいな英二、私のことをなんだと思ってるんだ」
「ズボラな変人」
「ズボラな変人で悪かったわねぇ!で、どこに裏要素があるの」
「どこ、とは……?」
「私がズボラな変人であることは認める。でも、どこに裏があるの?」
 優莉姉さんの追求に、僕は黙った。確かに裏はない……かもしれない。
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