コスプレしたまま異世界へ(マカロンを添えて)

ぽんかん

文字の大きさ
上 下
6 / 8
マカロンは添えるだけ

6.マカロンの色は奇抜

しおりを挟む
*****

結論から言うと、やはりというか、お約束というか。
私は帰れなかった。
帰還魔法はそもそも存在しないらしい。

最初に謁見の間に通された時国王と宰相?おっさん1号と2号の態度から、おそらく『聖女として活躍するのは名誉なことである』と思っていそうだな、と感じていた。
得てしてそういった場合、召喚された聖女が「帰る」と言い出すことは予想外のはずだ。
だって「召喚してやって保護してやって活躍させて名誉まで与える」んだもん。
彼らからすればなんの不満がある?となるのだろう。
それを放り出してまで帰還を望む者がいるなんて想像できない、ならばそもそも『帰還方法』なんて考えたこともないのではないか、と。

そしてその予想は当たっていた。
いや、当ててほしくもないけれど。
シン様とのお茶会が待つ私は本気の帰りたさ半分、その他の思惑半分であの『悪役令嬢劇場』を開幕したのだ。
帰せと言って帰れるなら良し。
帰れないのだとしたら…


「だって自分の立場を守らなければならないでしょう?」
与えられた(もぎ取ったともいう)神殿の私の部屋。
窓際のソファでマカロンを摘まみつつ、手をヒラヒラさせる。

「立場、でございますか?」
私の向かいで不思議そうに首を傾げる彼は、召喚当時私の後ろで顔を蒼くさせながらも神官長に抗議しようとしていた神官さん、エリックさん。

王城に部屋を、という国王以下もろもろを蹴とばす勢いで神殿に居を構えた。
お客様用かな?と思われる別棟を譲り受け占拠しここに入れるのは限られた人間のみ。
警護は神殿に所属する騎士さん聖騎士たちだ。
今ドアの前に立って本日の担当をしてくれているのは、あの日キャリーケースを預けたワンコ騎士、オーウェンさんである。

「そうよ。もし帰れなかった場合、私はこの国で生きていかなきゃいけない。聖女として呼ばれたからって、心身の安全を保障されたわけじゃないもの」
「そんな。聖女様を蔑ろにすることなどございませんのに…」

悲しげな顔をするエリックさんには申し訳ないが、あの時の私には仕方ない事だったのだ。

「『衣食住は保証する。聖女としての名誉も与える。だから自分たちの手足となって働け』。あとはそうね…この世界での私には身内がいないから、最悪死んでもいいと思ってるんじゃないかしら、とね」
「カレン様!!」

そんなことはない!と必死な二人に向かって首を振る。

「必要なことだったのよ、本当に。私たちの世界では召喚された聖女の扱いって、来ていきなり勇者と旅に出るか、ニセモノ扱いされて見知らぬ土地にポイ捨てされるか、チヤホヤされつつ実は搾取されてるか、とかばっかりなんだもの」

まあ、小説やアニメの世界だから「召喚されて世界を浄化して幸せに暮らしました」ではなんのお話にもならないからなんだろうけど。
チラっとエリックさんを見ると狼狽が見えるので、どうやら今の中に思うところがあったようだ。

「だからね、帰れればよし、帰れなかった場合は『』ということを知っておいてもらわないといけなかったの」

そのために持ち出したのが火炎放射器で、神官長の髭がその後すっかり無くなってしまったのは致し方あるまい。
尊い犠牲だった。うむ。

 神妙な顔(のフリ)をしたまま、エリックさんの手にマカロンを乗せる。
ショッキングピンクのマカロンに、食べていい物か真剣に悩んでいる。
オーウェンさんも微妙な顔をしているが、心配ない。
君へのお土産はエメラルドグリーンだ!
ニヤニヤしながら彼に『コレ、アナタの』と指さしながら蓋を閉じる。
顔が引きつったような気がするが、うん。気のせい。
聖女からの下賜品を無下にもできず、思い切って食べたらしいエリックさんが「あ、おいし…」と呟いたのにぎゅん!と顔を向けた。
マジか!?て思うよね。
マカロンってなんでこんな色してるんだろうね。

ニヤニヤを隠すように、私も手元の蛍光ペンみたいな黄色のマカロンを齧る。
本当はシン様に食べてもらいたかったのだが、二人の反応が面白いからこれはこれでアリだったと思おう。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...