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マカロンは添えるだけ
6.マカロンの色は奇抜
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結論から言うと、やはりというか、お約束というか。
私は帰れなかった。
帰還魔法はそもそも存在しないらしい。
最初に謁見の間に通された時国王と宰相?の態度から、おそらく『聖女として活躍するのは名誉なことである』と思っていそうだな、と感じていた。
得てしてそういった場合、召喚された聖女が「帰る」と言い出すことは予想外のはずだ。
だって「召喚してやって保護してやって活躍させて名誉まで与える」んだもん。
彼らからすればなんの不満がある?となるのだろう。
それを放り出してまで帰還を望む者がいるなんて想像できない、ならばそもそも『帰還方法』なんて考えたこともないのではないか、と。
そしてその予想は当たっていた。
いや、当ててほしくもないけれど。
シン様とのお茶会が待つ私は本気の帰りたさ半分、その他の思惑半分であの『悪役令嬢劇場』を開幕したのだ。
帰せと言って帰れるなら良し。
帰れないのだとしたら…
「だって自分の立場を守らなければならないでしょう?」
与えられた(もぎ取ったともいう)神殿の私の部屋。
窓際のソファでマカロンを摘まみつつ、手をヒラヒラさせる。
「立場、でございますか?」
私の向かいで不思議そうに首を傾げる彼は、召喚当時私の後ろで顔を蒼くさせながらも神官長に抗議しようとしていた神官さん、エリックさん。
王城に部屋を、という国王以下もろもろを蹴とばす勢いで神殿に居を構えた。
お客様用かな?と思われる別棟を譲り受けここに入れるのは限られた人間のみ。
警護は神殿に所属する騎士さんたちだ。
今ドアの前に立って本日の担当をしてくれているのは、あの日キャリーケースを預けたワンコ騎士、オーウェンさんである。
「そうよ。もし帰れなかった場合、私はこの国で生きていかなきゃいけない。聖女として呼ばれたからって、心身の安全を保障されたわけじゃないもの」
「そんな。聖女様を蔑ろにすることなどございませんのに…」
悲しげな顔をするエリックさんには申し訳ないが、あの時の私には仕方ない事だったのだ。
「『衣食住は保証する。聖女としての名誉も与える。だから自分たちの手足となって働け』。あとはそうね…この世界での私には身内がいないから、最悪死んでもいいと思ってるんじゃないかしら、とね」
「カレン様!!」
そんなことはない!と必死な二人に向かって首を振る。
「必要なことだったのよ、本当に。私たちの世界では召喚された聖女の扱いって、来ていきなり勇者と旅に出るか、ニセモノ扱いされて見知らぬ土地にポイ捨てされるか、チヤホヤされつつ実は搾取されてるか、とかばっかりなんだもの」
まあ、小説やアニメの世界だから「召喚されて世界を浄化して幸せに暮らしました」ではなんのお話にもならないからなんだろうけど。
チラっとエリックさんを見ると狼狽が見えるので、どうやら今の中に思うところがあったようだ。
「だからね、帰れればよし、帰れなかった場合は『絶対に私には手を出してはいけない』ということを知っておいてもらわないといけなかったの」
そのために持ち出したのが火炎放射器で、神官長の髭がその後すっかり無くなってしまったのは致し方あるまい。
尊い犠牲だった。うむ。
神妙な顔(のフリ)をしたまま、エリックさんの手にマカロンを乗せる。
ショッキングピンクのマカロンに、食べていい物か真剣に悩んでいる。
オーウェンさんも微妙な顔をしているが、心配ない。
君へのお土産はエメラルドグリーンだ!
ニヤニヤしながら彼に『コレ、アナタの』と指さしながら蓋を閉じる。
顔が引きつったような気がするが、うん。気のせい。
聖女からの下賜品を無下にもできず、思い切って食べたらしいエリックさんが「あ、おいし…」と呟いたのにぎゅん!と顔を向けた。
マジか!?て思うよね。
マカロンってなんでこんな色してるんだろうね。
ニヤニヤを隠すように、私も手元の蛍光ペンみたいな黄色のマカロンを齧る。
本当はシン様に食べてもらいたかったのだが、二人の反応が面白いからこれはこれでアリだったと思おう。
結論から言うと、やはりというか、お約束というか。
私は帰れなかった。
帰還魔法はそもそも存在しないらしい。
最初に謁見の間に通された時国王と宰相?の態度から、おそらく『聖女として活躍するのは名誉なことである』と思っていそうだな、と感じていた。
得てしてそういった場合、召喚された聖女が「帰る」と言い出すことは予想外のはずだ。
だって「召喚してやって保護してやって活躍させて名誉まで与える」んだもん。
彼らからすればなんの不満がある?となるのだろう。
それを放り出してまで帰還を望む者がいるなんて想像できない、ならばそもそも『帰還方法』なんて考えたこともないのではないか、と。
そしてその予想は当たっていた。
いや、当ててほしくもないけれど。
シン様とのお茶会が待つ私は本気の帰りたさ半分、その他の思惑半分であの『悪役令嬢劇場』を開幕したのだ。
帰せと言って帰れるなら良し。
帰れないのだとしたら…
「だって自分の立場を守らなければならないでしょう?」
与えられた(もぎ取ったともいう)神殿の私の部屋。
窓際のソファでマカロンを摘まみつつ、手をヒラヒラさせる。
「立場、でございますか?」
私の向かいで不思議そうに首を傾げる彼は、召喚当時私の後ろで顔を蒼くさせながらも神官長に抗議しようとしていた神官さん、エリックさん。
王城に部屋を、という国王以下もろもろを蹴とばす勢いで神殿に居を構えた。
お客様用かな?と思われる別棟を譲り受けここに入れるのは限られた人間のみ。
警護は神殿に所属する騎士さんたちだ。
今ドアの前に立って本日の担当をしてくれているのは、あの日キャリーケースを預けたワンコ騎士、オーウェンさんである。
「そうよ。もし帰れなかった場合、私はこの国で生きていかなきゃいけない。聖女として呼ばれたからって、心身の安全を保障されたわけじゃないもの」
「そんな。聖女様を蔑ろにすることなどございませんのに…」
悲しげな顔をするエリックさんには申し訳ないが、あの時の私には仕方ない事だったのだ。
「『衣食住は保証する。聖女としての名誉も与える。だから自分たちの手足となって働け』。あとはそうね…この世界での私には身内がいないから、最悪死んでもいいと思ってるんじゃないかしら、とね」
「カレン様!!」
そんなことはない!と必死な二人に向かって首を振る。
「必要なことだったのよ、本当に。私たちの世界では召喚された聖女の扱いって、来ていきなり勇者と旅に出るか、ニセモノ扱いされて見知らぬ土地にポイ捨てされるか、チヤホヤされつつ実は搾取されてるか、とかばっかりなんだもの」
まあ、小説やアニメの世界だから「召喚されて世界を浄化して幸せに暮らしました」ではなんのお話にもならないからなんだろうけど。
チラっとエリックさんを見ると狼狽が見えるので、どうやら今の中に思うところがあったようだ。
「だからね、帰れればよし、帰れなかった場合は『絶対に私には手を出してはいけない』ということを知っておいてもらわないといけなかったの」
そのために持ち出したのが火炎放射器で、神官長の髭がその後すっかり無くなってしまったのは致し方あるまい。
尊い犠牲だった。うむ。
神妙な顔(のフリ)をしたまま、エリックさんの手にマカロンを乗せる。
ショッキングピンクのマカロンに、食べていい物か真剣に悩んでいる。
オーウェンさんも微妙な顔をしているが、心配ない。
君へのお土産はエメラルドグリーンだ!
ニヤニヤしながら彼に『コレ、アナタの』と指さしながら蓋を閉じる。
顔が引きつったような気がするが、うん。気のせい。
聖女からの下賜品を無下にもできず、思い切って食べたらしいエリックさんが「あ、おいし…」と呟いたのにぎゅん!と顔を向けた。
マジか!?て思うよね。
マカロンってなんでこんな色してるんだろうね。
ニヤニヤを隠すように、私も手元の蛍光ペンみたいな黄色のマカロンを齧る。
本当はシン様に食べてもらいたかったのだが、二人の反応が面白いからこれはこれでアリだったと思おう。
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