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マカロンは添えるだけ

1.自動ドアを抜けたら異世界でした

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―ドアを開けたら異世界だった

「いや、なんでやねんっ!?」

片手にスマホ、片手にキャリーバッグを引きずったまま召喚されるとか、どういうことだ!

思わずツッコんだ私の叫びに、ハッとした周囲がざわめきだす。

「せ、聖女様だ!聖女様がご降臨くださったぞ!」
「成功したんだ!我らは助かるぞ!!」
「あぁ、なんて気高いお姿…」

映画で見た、教会の偉い人風なローブを着た人たちがわぁっ!と声を上げる。
セイジョサマ?セイジョサマって誰だ。
私か?
どうやらこの場には女は私だけの様だし。
気高い?そうでしょうね。
だって今の私は…

自分の姿を見下ろして、思わず拳をグッと握る。
困惑していた頭がスッと覚めた。

「聖女様、ようこそお越しくださいました。どうぞ、我らをお助けくださ…」


「今すぐ私を帰せーー!!!」

黒と紫のドレス、波打つ黒髪に10センチピンヒールで武装した私は絶叫した。
まさか、コスプレしたまま異世界召喚されるとは!!



 今日はずっと、ずぅーっと前から楽しみにしていた日だった。

元々、漫画やアニメ、ゲームが好きでまあまあオタクな女だった。
高校からは二次創作にも手を出したが、いかんせん私には絵描きのセンスも文字書きの才能もなかった。
しかし、ハマった物には関わりたいのがオタクである。
そんな私が見出した活路。
それがコスプレだった。

二次創作を諦めた私が高校からコソコソと始めたレイヤー活動は、今年で5年目。
高校卒業後に服飾系の専門学校に通おうかと思ったこともあったが、何かを一から創作する事は自分には向いていないとすでに悟っていたので、サクッと就職を決めた。

そう。
オタクとして、コスプレイヤーとして、活動していくためには金がいるんだ!

推しに貢ぎ、新たなジャンルを開拓し、衣装を作る。
正直、お金はいくらあっても足りないのだ。
私は昼間、営業職でバリバリ働き固定給とは別に報奨金を稼ぎまくり、夜はアニメを見つつ衣装を作り、通勤時間に携帯ゲームをやりまくった。
充実した人生である。

そんな生活をして早5年。
今日は1年前からずっと楽しみにしていた日だった。
レイヤー界の神、シン様(♀)と某N市にあるコスプレの聖地として人気の公園で撮影会だったのだ!

噴水から光る水飛沫、整えられたガーデンのガゼボ、白磁のティーセットを持ち込んだお茶会。
夜まで撮影会をお願いしていたので、ライトアップされた中での舞踏会抜け出し庭園シチュ。
東京から前乗りでN市に来て、公園のすぐそばのホテルで今朝、チェックアウト寸前まで自分を作り込んだ。

それらは全て、シン様による私の最推し。
乙女ゲーム『光と風のレジデンス』での1番人気攻略対象。
金髪碧眼キラキラ王子様であるグラン・シルフィード様との『婚約者と1日ラブラブデート!ヒロインには負けないぞっ』をテーマにした撮影会のためである!!
そのためにヒロインのライバルであるグランの婚約者、俗に言う『悪役令嬢』ポジションのカレン・ミラード公爵令嬢に変身したのだ!!
どこぞの異世界の聖女サマになるためではない!
断じてない!!
そりゃあ、エセ関西弁も出るってもんである。
知らんけど。


 後ろを振り返ってもすでに私が出てきたホテルのドアはない。
ホテルの自動ドアが異世界に通じてるとか、聞いたことない。
モロ異世界です!って雰囲気の現代にはなさそうな教会?神殿?そんな荘厳さ漂う壁が広がるだけだ。
眼前には「帰せ」と叫んだ私に焦り度MAXな神官ぽい人たちが跪かん勢い。

「せ、聖女様、お帰りになるなどそんな…ご無体な事を仰らないでください…」
「どうぞ我らの国にお力添えを…」

懇願とはこういうことか。
平伏する神官ぽい人たちがなんだか憐れに見えてきた。
別に頭頂部を憐れんだ訳ではない。

何にしても振り返っても自動ドアはないのだ。
帰還方法は彼らに頼るしかないのだろう。

オタク脳は異世界転移を早々に受け入れた。こうなったら一刻も早く帰らねばならない。

私は大きく息を吐き出すと、徐にキャリーバッグの外ポケットから扇子を取り出す。
紫のレースで飾られたソレをパチリと1つ開く。

「とりあえず、説明を」

どうせなら『悪役令嬢カレン・ミラード』の練習をさせていただこう。

―それくらい良いよね?




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1章残りは0時に一気に公開になります。

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