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第七章

クイズショー

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 魔族の優星と人間の優星は、魔王府の前で出会ってしまった。
 驚いたのは魔族の方の優星だった。

「な…!あんた誰だ!?なんで僕の身体になってるんだよ!」

 魔族の優星は、人間の優星を指さして叫んだ。
 すると、指された人間の優星は開き直ったように挑戦的な態度を取った。

「何を言ってるんだ?私が優星アダルベルトだ。君こそ誰だ?」
「僕のフリしようたってそうはいかないんだからな!」
「そっちこそ魔族のくせに、何を言っている!」

 魔族の優星と人間の優星は、お互いに張り合っている。

「ねえ、将、僕が本物だってわかるよね?」
「いや、将、私が本物だ!」

 2人の優星から迫られた将は、困惑しながらエリアナと顔を見合わせた。
 彼らは自分こそが本物だと云って譲らない。
 カナンをはじめ、聖魔騎士団メンバーたちはこのやりとりの行方を興味深そうに見ていた。正直、彼らにはどちらが本物かわからなかったから、どう決着がつくのか見守るしかなかったのだ。
 ロアだけが何が起こっているのかわかっていなかったので、カナンはテスカに命じて先にロアをトワのいる部屋まで連れて行かせた。
 エリアナはふと思いついて「いい方法がある」と、2人の優星に云った。

「どっちが本物か、クイズを出すわ!正解した方が本物よ!」
「…は?こんな時に何言ってんだよ!」

 将は思わずエリアナを怒鳴った。
 しかし彼女はお構いなしに、テレビ番組の司会者のごとく進行を続けた。

「チャチャン!さて問題です!優星の好きな人は誰でしょう?」

 2人の優星はいきなりの展開に面食らっていた。それは将やゾーイたちも同じだった。

「好きな人?だいたい、おまえ正解知ってんのかよ?」
「うん、知ってるわよ。だから問題にしたんじゃない」

 将のツッコミにエリアナはしれっと答えた。
 魔族の優星はビックリして司会の彼女に文句を云った。

「待ってよエリアナ!ここでそれ発表するわけ!?」
「そうよ!じゃあヒント!その好きな人はこの中にいまーす!」
「そのヒント必要!?」

 魔族の優星は情けない声で叫んだ。
 聖魔騎士団のメンバーらからは笑いが起こった。
 魔族の優星の外見は、黙って立っていればイケメンでもあるし胸板も厚くアスリート系の立派な体をしている。しかしその中身とのギャップがありすぎて、鼻で笑ってしまうほど滑稽だったからだ。
 今の一連のやりとりで、将にはどちらが本物かもうとっくにわかっていた。そもそも優星は自分のことを「私」などとは云わないのだ。それはエリアナもわかっているはずだ。なのに、彼女がなぜここでこんな茶番を始めたのか、理解に苦しむのだった。

 一方、人間の優星は、思わぬ展開に戸惑っていた。
 クイズなどという遊びに巻き込まれるなどとは思いもよらなかった。
 第一、本物の優星にこんなところで会うとは予想外だったのだ。
 しかし、それ以上に彼が戸惑っているのは、このクイズの難易度が低すぎることに対してだ。彼が知る限り、人間の男が恋愛対象に選ぶのは人間の女しかいないはずだ。そしてこの娘はこの中にその人物がいると云った。この場にいる人間の女は、このエリアナという娘だけだ。自分から正解を云ったに等しいではないか。この娘はバカなのか?
 人間の優星はふと考えた。
 なるほど、これが人間の遊びというものなのだろう、と悟り、思わずフッと笑って云った。

「いいよ。じゃあ同時にその人を指さそうか」

 彼の挑発的な態度に、魔族の優星はムッとした。

「よし、受けて立つ」
「ではいくぞ」

 そして2人は、魔族たちの見守る中で、それぞれの回答を「せーの」で指さした。

 人間の優星はエリアナを、魔族の優星は将を指さした。
 指さされた将は驚いた顔をした。

「はぁ?何で俺!?」

 将の様子以前に、人間の優星は答えが別れたことに驚いていた。
 てっきり同時にエリアナを指すものと思っていたからだ。
 それにより、どちらが本物かという答えを誤魔化そうと思っていたのだ。
 人間の男が人間の男を好きになるはずはない。この男もバカなのか?

「さて、正解は…」

 エリアナはクイズ番組の司会者になったかのように口で「じゃかじゃかじゃかじゃか…」とドラムロールのリズムを口ずさんだ。
 そうしてもったいぶると、「じゃん!」と手を挙げた。

「こっちー!」

 エリアナは魔族の優星に向かって手を向けた。
 思わず彼は「よっしゃあ!」とガッツポーズをした。

「バカな!」

 人間の優星は叫んだ。
 その彼に向かってエリアナは手で×を作った。

「ブッブー!こっちは偽物でしたー!残念!」
「くっ…バカな!男が正解だなんてありえん!」

 人間の優星は、クイズの答えに疑問を持ったようだった。
 そんな彼にエリアナが云った。

「あなた、自分の常識を押し付けるタイプの人?もしかして中身は結構オジサンなのかなぁ?」

 人間の優星は、それが気に障ったのか、彼女を睨みつけた。
 この様子を騎士団メンバーは面白がって見ていたが、エリアナ司会のショーが終わると、将は人間の優星の両腕を後ろ手に捕らえようとした。

「おまえ、一体誰なんだ!?」
「やめろ!私に触れるな!」

 人間の優星は、抵抗して逃げようとした。

「往生際が悪いわよ!」

 エリアナは風の魔法で人間の優星の体を浮かせた。

「うわっ!」

 人間の優星は慌てたが、彼は持っていたリュックの中から宝玉を取り出すと、その姿が忽然と消えた。
 それを見ていたカナンは思わず叫んだ。

「<瞬間跳躍テレポート>か!」
「あっちだ!逃げるよ!」

 ネーヴェが指さした方向を見ると、ホテルのロビーの奥へ走って行く優星の姿が見えた。

「あいつを捕らえろ!」

 カナンの指示で、騎士団メンバー全員が動いた。
 魔族の優星と将たちも後を追った。

 人間の優星は<瞬間跳躍>を繰り返して移動していた。
 このスキルは空間転移ではない。跳躍といいつつ、一定の距離を光速で移動するというものであり、その距離は決して長くない。着地点で一旦止まって、次にスキルを使用するまでに少し待機ディレイ時間が発生する。
 人間の優星は、跳躍してロビーの2階への階段を登り切った場所に着地していた。
 そして次にスキルが使えるようになるまで再び駆けだそうとした時、彼の視界に一瞬、見覚えのある人物の姿が写り込んだ。

「…あれは…!」

 その人物に気を取られながら、廊下の角を曲がると、目の前に現れた人物とぶつかりそうになった。
 それは彼が目指していた人物―トワだった。

「あら?優星じゃない」
「トワ…!!」
「こんなところで何してるの?」

 彼女はのんびりとした口調で尋ねた。
 それはこっちのセリフだとも思ったが、この思いもかけないチャンスに、彼は驚き、そして笑顔になった。
 これは<運命操作>が導いた結果に違いないと彼は確信した。 

「おまえのスキルを奪いに来たのさ!」

 彼はそう云うと、宝玉を握った方の腕でトワを羽交い絞めにし、もう片方の手にナイフを持った。
 トワは彼の腕の中で悲鳴を上げた。

「何するの!?」
「おまえはここで死ぬんだ。<運命操作>スキルを私に奪われるためにね!」
「やめて!」
「泣き叫べ!ハハハ!」

 そう云いながら、彼はナイフでトワの柔らかい喉を切り裂いた。
 真っ赤な鮮血がまるでスローモーションのように飛び散る。
 腕の中の少女は悲鳴を上げることもなく、彼にその体重を預けた。その体は体重がないのではないかと思う程軽かった。
 やがて、トワの腕が力なくだらりと落ちると、彼女を抱えていた優星の手のひらには新たな宝玉が現れた。それを見て彼は歓喜の表情になった。
 その宝玉の奥を見つめていると、脳裏に<運命操作>のイメージが浮かんできた。
 間違いなく、これは<運命操作>の宝玉だ。

「ハハハ!やった!ついに<運命操作>を手に入れた!!ハハハ!」

 優星はもはや不要となった血まみれのトワの身体を床に放り出し、宝玉を握り締めて小躍りしながら喜んだ。

「ハハハ!ついに願いが叶った!ハハハ!ざまあみろ魔王め!」

 優星は自分の笑い声に酔いしれた。
 彼が所持していた<運命操作>の宝玉が、劣化して消え去る前に「もし自分が死ぬ時がきたらその願いを叶えよ」と願った。そしてレナルドが死ぬ直前に願ったのは、トワから<運命操作>スキルを手に入れることだった。
 宝玉は消失してしまったので、スキルが実行されるかどうかは賭けだったが、自分が転生したことで、スキルは働いていると確信していた。そして、この通り見事に望みを叶えてくれた。
 何とも楽な仕事だった。
 劣化スキルだから叶わないのではと心配していたが杞憂だった。

 ハハハ!

 彼は高笑いが止まらない。
 満足だ、ああ満足だ…!
 娘を失って、魔王はさぞ嘆くことだろう。いい気味だ。
 私の邪魔をするからだ。
 <運命操作>スキルの宝玉は、コピーすることはできなかった。手に入れてからその効果を確かめようと使い過ぎて、宝玉は劣化していき、徐々に不安定なものになっていった。
 勇者召喚を試みたが失敗が続き、イドラに魔獣召喚を仕込んでテュポーン召喚を計画してみたりもしたが上位魔獣を召喚できるようになるまでずいぶん時間がかかってしまい、計画を二度三度と変更しなければならなかった。
 だが、もうすべてが思い通りだ。

 ハハハ!

 この真新しい宝玉を使えば、魔王の不死のスキルを奪うことも夢ではない。
 まずは魔族の肉体を手に入れる。
 宝玉の劣化を止め、新たなスキルの出現を願う。

 ハハハ!

 退屈な人間の時間は終わりだ。

 ハハハ…ハハ…
 ハ…  ハ…

 自分の声がこだまのように跳ね返って聞こえた。
 彼はようやくその不自然さに気付いた。

「何がそんなに可笑しいんだね?」

 誰かが耳元で囁いた。
 人間の優星は笑うのをピタリと止めた。
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