107 / 246
第五章
パトロン
しおりを挟む
闘技場のVIP席で、魔王は苦虫を潰したような顔をしていた。
「魔王様、バリアを壊しましたね」
ユリウスが嫌味を含んだ云い方をした。
「そしてあの魔法士の動きを封じましたね」
「そういうおまえもあの魔法士の真後ろに移動していたではないか」
「…トワ様が弓矢を受けた時点でもう我慢の限界でしたから」
「もしかして自分の出番を取られて文句を言いに来たのか?」
心を見透かされたユリウスは何か云いたげに魔王を見た。
「しかしそろそろ潮時だな。こんな大衆の面前で力を使ったのだ。聡い者には気付かれ始めている」
「客も騒ぎ出していますね」
「早々に連れ帰った方が良いかもしれん」
魔王は席を立った。
その魔王に、カナンが声を掛けてきた。
彼はお願いがあります、と云った。
試合が終わると、トワたちのいる宿舎の周りは騒然となっていた。
コンチェイが宿舎に群がる人々の対応に苦慮していた。
宿舎の中にもプロモーターだのパトロンになりたいだのという人々が押しかけてきていた。
その中でもやはりトワの能力について教えろと食い下がる者が多かった。
他の闘士からも同様の申し込みがあったが、そこはマルティスがうまく収めていた。
急激な周りの変化に、チームの控室にいた彼らは、戸惑うばかりだった。
マルティスが一通り対応して彼らを帰して控室に戻ってきた。
「うっかり外を歩くこともできなくなりました」
イヴリスが苦情を訴えた。
「まあまあ、これも有名税だって。報奨金もたっぷり出るし、いいじゃないか」
「…お金はあるに越したことはありませんが、代わりに何かを失った気がします」
試合が終わった後、座り込んでしまったトワを抱き上げて宿舎まで運んできたゼフォンは、その間ずっと無言だった。
その彼がようやく口を開いた。
「トワを戦闘に出すのはやめよう」
「ちょっとちょっとゼフォン、今日はまあ、アレだったけど次から気を付ければいいだけの話じゃないか」
「今日の試合で、トワが我々を回復させていることが露呈してしまった。普通のパーティなら、トワが倒れても放置するところだが、我々はそうしなかった。少し知恵の回る者ならば、その理由を探ろうとするだろう」
「確かにそうですね…」
「いやいや、大丈夫だって」
マルティスはなんとかトワを試合に出そうと必死だ。
「魔族を回復できる者がいるなんて誰も信じないって。俺らが回復スキル持ってたってことでシラを切り通せばいいじゃないか」
「ではおまえがトワを体を張って助けたことはどう説明するんだ」
「じゃあ、こうしよう。俺が身を挺してトワを守ったのは、トワが俺のパートナーだからだって公表すればいい。それなら納得がいくだろ?」
「個人的には納得いかん」
「どうしてあなたのパートナーなんですか」
「おまえらな…。だいたいトワがいなかったら、スキル連発できんだろ?」
「…奴らの狙いは最初からトワだった。俺はそんなことすら見抜けなかったんだ」
「…私も。自分の力に己惚れていました」
その場がシーン、と静まり返った。
「トワはどうしてる?」
マルティスが尋ねた。
「寝かせてきた。回復したとはいえ、傷の痛みのショックが残ってるんだろう」
「私たち、トワ様が人間だということを、失念していましたね…」
「ああ、痛みに強い魔族とは違うんだよなあ…俺もうっかりしてた」
「むっ」
ゼフォンが急に壁の方を向いて構えた。
「どうした?」
マルティスがゼフォンを振り向いた。
「いや…誰かの気配を感じたんだが。気のせいか…」
その頃、トワは隣の部屋のベッドで眠っていた。
その近くの空間が突然歪んだかと思うと、そこに1人の人物が現れた。
黒髪に金色の瞳をした青年―魔王ゼルニウスだった。
彼は音もたてずにベッドに近づくと、トワの顔を覗き込んだ。彼女は彼の知っている黒髪をしていた。
ベッドの脇には栗色のウィッグが置いてある。
なるほど、これを被っていたのかと彼は納得した。
呼吸で上下している胸の上に乗せられている指には、彼の贈った指輪が嵌っている。
それを見て魔王は優し気に微笑んだ。
彼の指が、そっとトワの頬に触れる。
たった数か月会わなかっただけで、こんなに寂しく、愛おしいと思うことが不思議だった。
もし自分を覚えていなくても、このまま異空間を通って魔王城へ連れて帰るつもりだった。
魔王がトワを抱き起そうと触れた瞬間、ふいにトワの目が開いた。
「トワ…?」
いや、違う。
なぜならその瞳は彼と同じような金色をしていたからだ。
『この娘の意思を無視しないで』
その言葉はトワの口からではなく、直接頭に響いてきた。
「…どういうことだ。おまえは、誰だ?」
『私は… … …』
トワは再び目を閉じた。
魔王は驚いた表情のまま、しばらく彼女の顔を見つめていた。
トワは何事もなかったかのように、静かに寝息を立てている。
魔王はトワの額に口づけをひとつ落とすと、再び異空間へ消えていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、コンチェイからエキシビションの試合があることを聞かされた。
上級トーナメントが終了した後は、一般から募集した腕自慢たちと試合を行うのが恒例なのだという。要はファンサービスだ。
「客サービスの一環だよ。気軽に考えりゃいい」
「客と戦うって、負けてやった方がいいのか?」マルティスがコンチェイに問う。
「いや、怪我をさせない程度に勝ってくれ。まあ、多少の怪我なら回復士が付くから問題ないさ」
「下らん遊びだ」
ゼフォンは吐き捨てるように云った。
「そうそう、君たちのパトロンになりたいと申し出てきた人がたくさんいるんだが」
「おっと、ついに来たか!」
「パトロンって何?スポンサーのこと?」私にはあまり馴染みのない言葉だった。
「ああ。生活周りまで援助してくれる人だよ」
「へえ~。つまりはお金持ちがバックアップしてくれるってことね?」
コンチェイは咳払いをして付け加えた。
「まあ、パトロンになる理由は、有名人を連れまわしたいとか、金持ち仲間に自慢したいとか、パーティとか社交界で横にはべらせたいとか、要は自分の権力を誇示したいってとこだな。だから闘士の衣食住まで面倒みてくれるし、生活レベルを上げさせてくれるんだ。まあ、夜のお相手をさせるなんていう奴もたまにいるから、気を付けんといかんがな」
「夜の…?って、ええーーー!??それ、パワハラな上にセクハラじゃない!そんなの嫌よ!」
「そういう奴もいる、って話だよ。それは人間の話で、魔族のパトロンがつけばそういう心配はない。まあ、今回魔族のパトロンもいるから、一度会ってみるといいよ」
私たちは、その魔族のパトロンに会うために、市内の高級ホテルに出かけた。
上位の闘士は皆パトロンを持っている。有名闘士になると複数のパトロンを持つこともあるんだそうだ。
大抵は大富豪の人間か、どこかの貴族がなることが多い。
その代わり、パトロンの主催するパーティやらイベントやらには客寄せのために出席したりしなければならない。パトロンに対する接待も重要なのだ。
パトロン候補がいる部屋は高級ホテルの最上階のスイートルームだ。
「さすがお金持ちは違うねえ」
マルティスは感心した。
私は茶髪のカツラをしっかりと被っていた。
エレベーターを最上階で降りると、1人の魔族が待っていて、うやうやしく一礼した。
それはユリウスだった。
「ユリウスさん!?」
「ようこそ、トワ様。皆様も、お待ちしていました」
ユリウスを初めて見たイヴリスは「すごい美形ですね」と私に耳打ちしてきた。
「奥で私共の主人がお待ちです」
「パトロンになりたいって、ユリウスさんの主だったの?それならそうと云ってくれればよかったのに」
彼はそれには答えず、ただ笑顔を見せるだけだった。
彼に案内されて部屋へ入ると、だだっ広いリビングルームが広がっていた。
その部屋の中央に置かれた豪華なソファに座っていたのは、10歳くらいの魔族の少年だった。
黒髪で金色の瞳を持つ、超美少年だ。
ドクン。
一瞬、時が止まったような気がした。いや、止まったのは私の心臓かもしれない。
それくらいの衝撃が私の胸の中に走った。
黒髪に金色の目。
私はその子から目が離せなかった。
会ったことないはずなのに、知っている気が…する。
「子供…?」
マルティスは驚いていた。
「こちらはゼル様。魔貴族ネビュロス様の一族の御子息にございます」
この少年は、繁殖期外子で人間の国へ留学しているらしく、たまたま私たちの試合を見て気に入ったということだった。
「おまえたちの試合、見せてもらった。なかなか良かったぞ。今後はおまえたちをサポートしたいと思う」
この少年の声、聞き覚えがある。
やっぱり、知ってる気がする…。
「それで、試合を見ていた我の部下たちが、どうしてもおまえたちと手合わせしてみたいと言い出してな。今度のエキシビションに出すことにした」
「ほう?」
ゼフォンは興味を持ったようだ。
「我の騎士団の精鋭と本気で戦って欲しい」
「騎士団か、いいだろう」
ゼフォンは少年の話を受けた。
「ただし、そこの娘には外れてもらう」
「え…?」
少年は私を指さした。
「わ、私?」
「でないと不公平だろう?」
「な…!」
マルティスは思わず声を上げた。
「何の話ですかね?」
「フッ、とぼけなくても良い。傷や魔力を回復されては分が悪いからな」
「魔力を回復?一体何のことです?」
マルティスはあくまでとぼけるつもりのようだ。
「とぼけるならそれも一興。ともかくその条件で試合をしてくれ」
「ああ。正々堂々と戦ってやるさ」
マルティスは少年に睨まれていることを意識して、わざと挑発するように云った。
私たちはその場を去って宿舎へと戻った。
「あいつ、やべえぞ。トワが魔力を回復させてたことまで知ってる」
マルティスは動揺していた。
「魔力に関してはこれまで誰にも指摘すらされてなかったことなのに、どうしてわかったんでしょう?」
イヴリスも戸惑いを隠せない。
「で、どうするんだ?試合はともかく、パトロンの話は?」
「うーん、正直あのガキ、得体が知れないんだよな。目が怖いっつーか…。ま、いくつか他の話を聞いてみてから判断しても遅くはないかもな」
私はあの少年に見覚えがある。
だけどそれは黙っておいた。
見覚えはあるけど、記憶にはなかったからだ。
「魔王様、バリアを壊しましたね」
ユリウスが嫌味を含んだ云い方をした。
「そしてあの魔法士の動きを封じましたね」
「そういうおまえもあの魔法士の真後ろに移動していたではないか」
「…トワ様が弓矢を受けた時点でもう我慢の限界でしたから」
「もしかして自分の出番を取られて文句を言いに来たのか?」
心を見透かされたユリウスは何か云いたげに魔王を見た。
「しかしそろそろ潮時だな。こんな大衆の面前で力を使ったのだ。聡い者には気付かれ始めている」
「客も騒ぎ出していますね」
「早々に連れ帰った方が良いかもしれん」
魔王は席を立った。
その魔王に、カナンが声を掛けてきた。
彼はお願いがあります、と云った。
試合が終わると、トワたちのいる宿舎の周りは騒然となっていた。
コンチェイが宿舎に群がる人々の対応に苦慮していた。
宿舎の中にもプロモーターだのパトロンになりたいだのという人々が押しかけてきていた。
その中でもやはりトワの能力について教えろと食い下がる者が多かった。
他の闘士からも同様の申し込みがあったが、そこはマルティスがうまく収めていた。
急激な周りの変化に、チームの控室にいた彼らは、戸惑うばかりだった。
マルティスが一通り対応して彼らを帰して控室に戻ってきた。
「うっかり外を歩くこともできなくなりました」
イヴリスが苦情を訴えた。
「まあまあ、これも有名税だって。報奨金もたっぷり出るし、いいじゃないか」
「…お金はあるに越したことはありませんが、代わりに何かを失った気がします」
試合が終わった後、座り込んでしまったトワを抱き上げて宿舎まで運んできたゼフォンは、その間ずっと無言だった。
その彼がようやく口を開いた。
「トワを戦闘に出すのはやめよう」
「ちょっとちょっとゼフォン、今日はまあ、アレだったけど次から気を付ければいいだけの話じゃないか」
「今日の試合で、トワが我々を回復させていることが露呈してしまった。普通のパーティなら、トワが倒れても放置するところだが、我々はそうしなかった。少し知恵の回る者ならば、その理由を探ろうとするだろう」
「確かにそうですね…」
「いやいや、大丈夫だって」
マルティスはなんとかトワを試合に出そうと必死だ。
「魔族を回復できる者がいるなんて誰も信じないって。俺らが回復スキル持ってたってことでシラを切り通せばいいじゃないか」
「ではおまえがトワを体を張って助けたことはどう説明するんだ」
「じゃあ、こうしよう。俺が身を挺してトワを守ったのは、トワが俺のパートナーだからだって公表すればいい。それなら納得がいくだろ?」
「個人的には納得いかん」
「どうしてあなたのパートナーなんですか」
「おまえらな…。だいたいトワがいなかったら、スキル連発できんだろ?」
「…奴らの狙いは最初からトワだった。俺はそんなことすら見抜けなかったんだ」
「…私も。自分の力に己惚れていました」
その場がシーン、と静まり返った。
「トワはどうしてる?」
マルティスが尋ねた。
「寝かせてきた。回復したとはいえ、傷の痛みのショックが残ってるんだろう」
「私たち、トワ様が人間だということを、失念していましたね…」
「ああ、痛みに強い魔族とは違うんだよなあ…俺もうっかりしてた」
「むっ」
ゼフォンが急に壁の方を向いて構えた。
「どうした?」
マルティスがゼフォンを振り向いた。
「いや…誰かの気配を感じたんだが。気のせいか…」
その頃、トワは隣の部屋のベッドで眠っていた。
その近くの空間が突然歪んだかと思うと、そこに1人の人物が現れた。
黒髪に金色の瞳をした青年―魔王ゼルニウスだった。
彼は音もたてずにベッドに近づくと、トワの顔を覗き込んだ。彼女は彼の知っている黒髪をしていた。
ベッドの脇には栗色のウィッグが置いてある。
なるほど、これを被っていたのかと彼は納得した。
呼吸で上下している胸の上に乗せられている指には、彼の贈った指輪が嵌っている。
それを見て魔王は優し気に微笑んだ。
彼の指が、そっとトワの頬に触れる。
たった数か月会わなかっただけで、こんなに寂しく、愛おしいと思うことが不思議だった。
もし自分を覚えていなくても、このまま異空間を通って魔王城へ連れて帰るつもりだった。
魔王がトワを抱き起そうと触れた瞬間、ふいにトワの目が開いた。
「トワ…?」
いや、違う。
なぜならその瞳は彼と同じような金色をしていたからだ。
『この娘の意思を無視しないで』
その言葉はトワの口からではなく、直接頭に響いてきた。
「…どういうことだ。おまえは、誰だ?」
『私は… … …』
トワは再び目を閉じた。
魔王は驚いた表情のまま、しばらく彼女の顔を見つめていた。
トワは何事もなかったかのように、静かに寝息を立てている。
魔王はトワの額に口づけをひとつ落とすと、再び異空間へ消えていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、コンチェイからエキシビションの試合があることを聞かされた。
上級トーナメントが終了した後は、一般から募集した腕自慢たちと試合を行うのが恒例なのだという。要はファンサービスだ。
「客サービスの一環だよ。気軽に考えりゃいい」
「客と戦うって、負けてやった方がいいのか?」マルティスがコンチェイに問う。
「いや、怪我をさせない程度に勝ってくれ。まあ、多少の怪我なら回復士が付くから問題ないさ」
「下らん遊びだ」
ゼフォンは吐き捨てるように云った。
「そうそう、君たちのパトロンになりたいと申し出てきた人がたくさんいるんだが」
「おっと、ついに来たか!」
「パトロンって何?スポンサーのこと?」私にはあまり馴染みのない言葉だった。
「ああ。生活周りまで援助してくれる人だよ」
「へえ~。つまりはお金持ちがバックアップしてくれるってことね?」
コンチェイは咳払いをして付け加えた。
「まあ、パトロンになる理由は、有名人を連れまわしたいとか、金持ち仲間に自慢したいとか、パーティとか社交界で横にはべらせたいとか、要は自分の権力を誇示したいってとこだな。だから闘士の衣食住まで面倒みてくれるし、生活レベルを上げさせてくれるんだ。まあ、夜のお相手をさせるなんていう奴もたまにいるから、気を付けんといかんがな」
「夜の…?って、ええーーー!??それ、パワハラな上にセクハラじゃない!そんなの嫌よ!」
「そういう奴もいる、って話だよ。それは人間の話で、魔族のパトロンがつけばそういう心配はない。まあ、今回魔族のパトロンもいるから、一度会ってみるといいよ」
私たちは、その魔族のパトロンに会うために、市内の高級ホテルに出かけた。
上位の闘士は皆パトロンを持っている。有名闘士になると複数のパトロンを持つこともあるんだそうだ。
大抵は大富豪の人間か、どこかの貴族がなることが多い。
その代わり、パトロンの主催するパーティやらイベントやらには客寄せのために出席したりしなければならない。パトロンに対する接待も重要なのだ。
パトロン候補がいる部屋は高級ホテルの最上階のスイートルームだ。
「さすがお金持ちは違うねえ」
マルティスは感心した。
私は茶髪のカツラをしっかりと被っていた。
エレベーターを最上階で降りると、1人の魔族が待っていて、うやうやしく一礼した。
それはユリウスだった。
「ユリウスさん!?」
「ようこそ、トワ様。皆様も、お待ちしていました」
ユリウスを初めて見たイヴリスは「すごい美形ですね」と私に耳打ちしてきた。
「奥で私共の主人がお待ちです」
「パトロンになりたいって、ユリウスさんの主だったの?それならそうと云ってくれればよかったのに」
彼はそれには答えず、ただ笑顔を見せるだけだった。
彼に案内されて部屋へ入ると、だだっ広いリビングルームが広がっていた。
その部屋の中央に置かれた豪華なソファに座っていたのは、10歳くらいの魔族の少年だった。
黒髪で金色の瞳を持つ、超美少年だ。
ドクン。
一瞬、時が止まったような気がした。いや、止まったのは私の心臓かもしれない。
それくらいの衝撃が私の胸の中に走った。
黒髪に金色の目。
私はその子から目が離せなかった。
会ったことないはずなのに、知っている気が…する。
「子供…?」
マルティスは驚いていた。
「こちらはゼル様。魔貴族ネビュロス様の一族の御子息にございます」
この少年は、繁殖期外子で人間の国へ留学しているらしく、たまたま私たちの試合を見て気に入ったということだった。
「おまえたちの試合、見せてもらった。なかなか良かったぞ。今後はおまえたちをサポートしたいと思う」
この少年の声、聞き覚えがある。
やっぱり、知ってる気がする…。
「それで、試合を見ていた我の部下たちが、どうしてもおまえたちと手合わせしてみたいと言い出してな。今度のエキシビションに出すことにした」
「ほう?」
ゼフォンは興味を持ったようだ。
「我の騎士団の精鋭と本気で戦って欲しい」
「騎士団か、いいだろう」
ゼフォンは少年の話を受けた。
「ただし、そこの娘には外れてもらう」
「え…?」
少年は私を指さした。
「わ、私?」
「でないと不公平だろう?」
「な…!」
マルティスは思わず声を上げた。
「何の話ですかね?」
「フッ、とぼけなくても良い。傷や魔力を回復されては分が悪いからな」
「魔力を回復?一体何のことです?」
マルティスはあくまでとぼけるつもりのようだ。
「とぼけるならそれも一興。ともかくその条件で試合をしてくれ」
「ああ。正々堂々と戦ってやるさ」
マルティスは少年に睨まれていることを意識して、わざと挑発するように云った。
私たちはその場を去って宿舎へと戻った。
「あいつ、やべえぞ。トワが魔力を回復させてたことまで知ってる」
マルティスは動揺していた。
「魔力に関してはこれまで誰にも指摘すらされてなかったことなのに、どうしてわかったんでしょう?」
イヴリスも戸惑いを隠せない。
「で、どうするんだ?試合はともかく、パトロンの話は?」
「うーん、正直あのガキ、得体が知れないんだよな。目が怖いっつーか…。ま、いくつか他の話を聞いてみてから判断しても遅くはないかもな」
私はあの少年に見覚えがある。
だけどそれは黙っておいた。
見覚えはあるけど、記憶にはなかったからだ。
0
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる